「丸亀製麺」は香川発祥じゃない。では「串カツ田中」や味噌カツの発祥は?

日刊SPA! / 2019年10月10日 8時50分

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国内外で1000を超える店舗数を誇る丸亀製麺も、香川県内には高松市の2店舗のみ。丸亀市にはもともと「丸亀製麺」という卸専門の製麺所があり、地元民に愛されている

「讃岐うどんの代表のような顔をするな」と、丸亀製麺への香川県民&讃岐うどんファンの怒りが大論争を呼んだ。こうした「食のブランド」の基準はどうなっているのか?

◆名乗った者勝ちだった!食のブランディング戦争

 讃岐うどんブームの火つけ役となった「麺通団」の公式サイトに書かれた、9月14日の「団長日記」の一部がスクショされ、ツイッターに上げられて大論争を巻き起こした。その内容は、「讃岐釜揚げうどんチェーン」として広く認知されている丸亀製麺に対するもの。麺通団の田尾和俊団長は丸亀製麺に対して「ビジネスとしての自らリスクをとったチャレンジとその成功に対しては高く評価している」と前置きしつつも、なぜ讃岐うどんファンが丸亀製麺に対してネガティブな感情を抱くのかを説明している。

 その理由とは「香川県の会社でもなく(発祥は兵庫県加古川市、現在の本社は東京都)、香川県でうどん店や製麺業をやっていた実績もないのに『讃岐うどん』を称し、讃岐うどんの代表のような顔をしてテレビ番組や雑誌記事に出たり、本を出版したりして間違った情報を広めている。讃岐うどんへのリスペクトに欠けている」などといったものだ。

 では、香川県の人々はこの論争をどう受け止めているのか。香川県にある讃岐うどん店の店主A氏が、匿名を条件に語ってくれた。

「あまりいい気持ちはしませんね。確かに丸亀製麺は、讃岐うどんを世界に広めたなどの功績があることは認めます。でも、そもそもダシが違う。香川の讃岐うどんのダシはいりこが主体。一方、丸亀製麺は昆布が主体の関西風なんです」

 さらに、うどんライターの萬谷(まんたに)純哉氏がこう指摘する。

「これまで、県外企業が讃岐うどん店の全国展開をしたり、店名に香川の地名を使ったりした例は何度もありました。しかし、これに対して香川県民が特別に嫌悪感を抱いたという形跡はありません」

 それでは、なぜ丸亀製麺だけが香川県民や讃岐うどんファンたちに嫌われてしまうのだろうか。

「嫌悪感のきっかけとなったのは、’13年6月の『丸亀MONZO事件』です。丸亀市で修業した店主がロサンゼルスに開いた讃岐うどん店『丸亀MONZO』に対して、丸亀製麺を運営するトリドール社が『丸亀』の名称を使わないよう内容証明郵便で申し入れたのです。これがフェイスブックやラジオ番組などを通じて香川県民に知れ渡りました。それまでも、丸亀製麺の香川県内での所業に対して不満が溜まっていたのですが、これによって香川のうどん民たちの怒りは、今まで見たこともないほど高まりました」(萬谷氏)

◆「讃岐うどん」と表示する基準は“ないに等しい”

 讃岐うどんは認知度が高いため、国内では名称の使用制限はない。

 「景品表示法」に基づく「生めん類の表示に関する公正競争規約」に規定されている通り、商品名に「名産」「特産」「本場」「名物」などと表示しない限りは、自由に商標として使っていいということになっている(逆に、これらを表示する場合には「香川県内で製造されたもの」「食塩が小麦粉重量に対し3%以上」「熟成時間2時間以上」などの基準がある)。

「つまり、『讃岐うどん』と表示するための基準は“ないに等しい”のです」(同)

◆地名と発祥が違っても愛される食べ物は多い

 しかし、店が掲げる地名と発祥が違っても何も言われず、愛されている食べ物は存在する。

「名古屋名物の味噌カツや天むすは、実は三重県発祥のもの(※)。“大阪伝統”の味と謳っている『串カツ田中』の1号店は、東京都世田谷区です。しかし同店には、本物の味へのリスペクトが感じられる。そして台湾ラーメン。これも台湾にはないもので、名古屋の『味仙』の店主が台湾の担仔麺をヒントに改良を重ねたもの。これも特に台湾人から批判されたという話は聞きません」(グルメライターB氏)

※「名古屋名物」と言われる味噌カツの発祥は、三重県津市にある「カインドコックの家 カトレア」。天むすも、同じく津市の「千寿」という料理店の賄い料理として考え出されたものだとされる

 表示義務がないために、正しい情報が伝わらないケースも多い。ある漁港で食品加工業を営むC氏はこう語る。

「魚の場合、外国産がいつのまにか国産になっているというのは日常茶飯事。例えばウナギの表示義務は養殖地のみで、種名は義務ではないんです。ヨーロッパウナギの稚魚を日本のいけすに入れて養殖すれば『国産』となります。近年、ニホンウナギが減少し、ヨーロッパウナギの稚魚が大量に入ってきています。中には、北米産やインド洋産の稚魚も」

 また、回転寿司業界に詳しい仲卸業者のD氏は「寿司ネタでも、魚種が違うなんていうことはザラにある」と証言する。

「マグロはアロツナスやサバ科のガストロ、ブリはシルバーワレフ、タイはナイルテラピアやアメリカナマズ……という具合です。イクラに関しては、人工イクラがほとんど。現状では、表示ルールの整備が進んでいないため、“言ったもん勝ち”になっています」

 これらは偽装に近く、完全にグレーゾーンだ。

◆希少種の保護・普及からアグーブランド豚が誕生

 一方、沖縄の「アグーブランド豚」は、明確なブランドの基準があるにもかかわらず、類似ブランドが増え続けているという。

「希少種の『沖縄アグー豚』は一時期二十数頭まで減ってしまい、保護活動とともにブランド豚としての普及のため、『アグーブランド豚』の登録制度が始まったのです。その基準は『沖縄アグー豚』と証明された雄と、各指定生産農場所有の西洋豚などの雌を交配したもの。父親がアグー豚であれば、母親は何を掛け合わせようと自由。アグー豚の雌は生産能力が低く、量産するには他の豚のほうが適しているんです。現在、アグーブランドは12種類となっています」(沖縄県農林水産部畜産課)

 その結果、さまざまなアグーブランド豚が生まれ、沖縄だけでなく全国に流通するようになっていった。ここには、何とか絶滅寸前のアグー豚を救いたいとの“地元愛”が感じられる。

 ブランドの基準があいまいだったり、抜け道があったりというのは、どの分野でもあるケースだ。そのブランド名を冠した食品が受け入れられるかどうかは、食品への愛情や、地域の歴史や食文化へのリスペクトがあるかどうかに収斂されると言えそうだ。

<取材・文/神田桂一>
※週刊SPA!10月8日発売号「食のブランディング戦争」特集より

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