「自衛官候補生」の初任給が安すぎる…。働き方改革とは程遠い給与実態

日刊SPA! / 2019年10月26日 8時54分

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陸上自衛隊Facebookより

―[自衛隊ができない100のこと/小笠原理恵]―

その66 「働き方改革」とは程遠い? 自衛官の給与実態

◆「自衛官はいいお給料をもらっているのだろう」という幻想

 自衛官はあんなに大変な仕事をしているのだから、「きっと、いいお給料をもらっているのだろう」と多くの人が想像していると思います。「危険で厳しい仕事」「国家公務員」「政府の秘密を扱う特殊な仕事」といったフレーズがどれも危険手当、特別手当を伴う「高給」のイメージになるようです。

 さらに災害派遣の現場などで、自衛官が不眠不休で働いている様子を目にすると、さぞかし残業手当・深夜残業手当・休日手当が加算されているのではないかと穿った目で見てしまいます。「あんなにキツイ仕事だからペイはいいはず!」とかつては私も無邪気にそう考えていました。でも、調べれば調べるほどそれが間違っていることに気付き、憤りを感じています。

 自衛官の採用はさまざまな形態があり、幹部自衛官や航空学生、防衛医大を卒業した医官や特殊な技能がある技官などは任官後の早い段階で幹部自衛官になります。幹部自衛官の充足率は比較的高く任官した後の途中退職も比較的少ないようです。幹部と現場自衛官の間にはやはり「キャリア」と「ノンキャリ」に見られる違いがあるようです。

 若さと体力が期待される現場自衛官は「自衛官候補生(任期制自衛官)」という採用枠です。採用後数年間を自衛官として過ごし、任期を終えた後は一般企業などで就職する期間限定の自衛官です。このもっともキツい仕事をしてくれる現場自衛官の初任給がいくらだと思いますか?

 なんと! 月額13万3500円です。「へ? ふざけんなよ!」と思った人も多いでしょう。責任は重く危険を伴い、不眠不休で働くこともある自衛官に対して、国はこの程度の給与しか提示してなかったのです。

 そりゃ、自衛官不足が深刻になりますよねー。自衛官候補生以外にも下士官である「曹」として退官年齢まで過ごす「一般曹候補生」採用の初任給も16万9900円でこちらもその仕事に見合った額とは思えません。自衛官に任官したばかりの「2士」という給与枠は教育隊に入り訓練を受けると順次、昇格し「1士」や「士長」となり昇給しますから、初任給が安くても問題ないだろうという人もいますが、初期段階での提示額がこれでは先が思いやられます。国はその程度の金額しか、国を守る「防人」に提示しないのかと情けなくなります。

 厚生労働省の平成29年賃金構造基本統計調査によれば、高卒者の平均初任給は17.9万円(大卒20.6万円)です。厚労省の平均初任給より圧倒的に安い賃金です。深刻な自衛官不足になるのも当然です。国の自衛隊や国防力軽視がこの初任給提示に表れているかと思うと、怒りすら感じます。

◆自衛官には残業手当も休日手当もないのに……

 特別職国家公務員である「自衛官」は、残業手当や休日手当がありません。有事の際に「勤務時間が終わったから、定時で帰りまーす!」というわけにはいかないことは想像できます。そもそも定時という概念があるのだろうかとはなはだ疑問です。自衛官は特別職国家公務員であり、平時でも労働基準法適応外ですから、不眠不休の長時間労働をさせても合法です。だからこそ、その責任に見合った報酬を出すべきだと思います。安倍政権の掲げる「ニッポン一億総活躍プラン」の守られる労働者のなかには、自衛官は含まれていないのでしょうか? 自衛官だって同じ日本人です。長時間労働が排除できない仕事であることはわかりますが、それならばその分賃金で補うべきではないですか?

 Twitterで「私の旦那が自衛官です。それでも国の仕事で給料泥棒言われてます。災害にあった時自分も被災して家族の安否もわからないのに働いているのにもかかわらずです。給料やりすぎだとお怒りの声があがり毎年給料は下がる一方ですよ。」というツイートが話題です。自衛官の家族がこんな悲しいツイートを呟やくことのない国にしてもらいたいものです。

「自衛官の仕事は人を助け、敬愛できる職業だと思うけど、とても子供を自衛官に送り出すことはできない」と、ご両親は募集担当者に対してそう答えます。地本(自衛隊地方協力本部)のリクルート担当者がまだノルマの3割も集まっていないと悲鳴を上げています。雇用が好調な今は企業も優秀な人材を欲しがります。条件はどんどんよくなりますから、現職自衛官も転職を考えるのは当然です。国は国の責務として、自衛官が自衛隊をどこよりも魅力的な職場だと賃金でも待遇面でも感じるようにしないと、この国に未来はありません。誰がこの国を守るのですか? 真剣に考えてもらいたいものです。

◆臨時国会で防衛省給与法改正案が提出される?

 やっとこの自衛官の賃金改革が始まったようです。10月11日の閣議で、自衛官の初任給を2020年度から引き上げるための防衛省職員給与法改正案が決定しました。任期制の自衛官候補生は月額8600円増の14万2100円、定年まで雇用する一般曹候補生は同9300円増の17万9200円とするとのことです。まだまだ足りませんが、まったく賃金が上がらないよりはマシです。この法律案の早期成立を心から応援したいと思います。

 安倍政権は「働き方改革」を掲げ、労働者の待遇の是正に取り組んでいます。その言葉が真実なら、まず、国の国防や災害対処の最後の砦である自衛官の処遇を改めるべきではないかと思います。もっとも重要な国の支えとなる人達への処遇がこのままではあまりに情けないです。

 非常時に自衛隊が就業時間内労働で済ませられないことは仕方ないと思いますが、平時でもタイムカードすらないのでは勤務時間数を証明する手立てがありません。だからこそ、そんなことを言わなくてもいいくらいに充分な報酬を出すべきでしょう。

 自衛官は若いうちは営内に勤務する人が多く、その分、住宅費や食費が安くつきます。不自由な生活を強いられて、さまざまな自由を制限されている分お金を使わないで済みます。

 でも、羨ましくないですよねー。ずっと結婚せず営内で生活するなら、この自衛官の賃金でもやっていけますがそれではダメです。自衛官も同じ日本人です。ご両親の愛に育まれ、小学校に入学し、大人になったときを夢見て成長したはずです。自衛官にも家族を持ち、生活を楽しみ、穏やかに老後を安心して過ごす権利はあります。そのために十分な報酬が必要です。防衛省給与法改正はぜひ、この国会で成立してほしいと応援します!

【小笠原理恵】
国防ジャーナリスト。関西外語大卒業後、広告代理店勤務を経て、フリーライターとして活動を開始。2009年、ブログ「キラキラ星のブログ(【月夜のぴよこ】)」を開設し注目を集める。2014年からは自衛隊の待遇問題を考える「自衛官守る会」を主宰。自衛隊が抱えるさまざまな問題を国会に上げる地道な活動を行っている。月刊正論や月刊WiLL等のオピニオン誌にも寄稿。日刊SPA!の本連載で問題提起した基地内のトイレットペーパーの「自費負担問題」は国会でも取り上げられた。9月1日に『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』(扶桑社新書)を上梓

―[自衛隊ができない100のこと/小笠原理恵]―

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