連続TVドラマ化決定『死にたい夜にかぎって』爪切男インタビュー 「ペンギン村みたいな世界が理想」

日刊SPA! / 2019年12月27日 15時43分

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『死にたい夜にかぎって』/著者:爪切男氏

 『日刊SPA!』で驚異的なPVを誇った連載エッセイ『タクシー×ハンター』。その中でも特に人気の高かった「恋愛エピソード」を中心に、大幅加筆修正のうえ再構築したのが『死にたい夜にかぎって』。まさかの連続テレビドラマ化が決定し単行本・文庫本が好評発売中。

 今回、20年初春にドラマ化を控える、著者・爪切男氏にインタビューを敢行。本作を紐解いていただいた。

◆●漫画的な女性との、運命の出会い

――『死にたい夜にかぎって』は、爪切男さんの体を通り過ぎていった女性たちとの関係を軸に、ご自身の半生を描いた私小説的な作品です。こうしたアプローチを取られた理由を教えてください。

 女性をテーマにした理由、ですね。母親を知らずに育ったため、女性に対して強い憧れがあったことが大きいと思います。この本は、「日刊SPA!」で書いていた「タクシー×ハンター」という連載が元になっています。最初は、普通にタクシー運転手との会話を面白おかしく書いていたのですが、途中からネタに詰まったこともあり、むかし同棲していたうつ病の彼女の話を頻繁に書くようになったんです。そしたら、「もっと読みたい」という声をいただいて、新たにまとめ直すことになって。

――約6年間同棲されたアスカさんですね。

 はい、俺の交際最長記録です。この本が女性たちの話になったのは、アスカとの生活を描くにあたり、初体験相手の車椅子の女性や、初めて付き合ったカルト宗教を信仰するヤリマンなど、そこに至るまでの女性遍歴をすべて書くことが必要に思えたからです。あらためて関係を時系列順に並べてみた時、本当に彼女たちの存在があったから今の俺がいるんだな、ということを痛感しました。

――そんな中で、もっとも大きな存在として描かれるのがアスカさんです。ギャグ漫画『激烈バカ』とフェリーニの名画『道』を同列に愛せることで意気投合、っていうのがいい話だなと思いました(笑)。

 変な運命みたいなものは感じましたね。もともとネットのチャットサイトで知り合ったんですけど、実際に会ったら、自分の好きなAV女優の神谷沙織に似てるし(笑)。そして、初対面のインパクトがすごかった。いきなり叙々苑に連れてかれて、「金ならある」ってめちゃめちゃ札でパンパンの財布見せられて。

――アスカさんは、出会った時は自分の唾を売って生計を立てていたんですよね。唾って、そんな儲かるんですね。

 密かに、マニアの多い世界みたいですよ。で、その出会いから1ヶ月も経たないうちに同棲することになって。最初は相模大野の四畳半のワンルームでした。狭いから物が溢れかえっていましたね。だから、2人の漫画とかCDの、被っているやつをブックオフに売りに行って、その金でメシ食って。なんだろう、すごく漫画的な子だなと思いました。だって、漫画の世界じゃないですか。会ったばかりで、いきなり「一緒に住もう」と誘っても、「いいよ」って本当にすぐ来て一緒に住んじゃう子なんてそういませんよ。漫画的な生き方に憧れていた自分には、運命の人だったんでしょうね。女性というよりも、人間として惚れたのかもしれない。世界に、俺と同じようなバカをやれる子がいたんだ! という嬉しさはあったと思います。

◆●明るくバカバカしく、という戦い方

――もともと「文章を書く仕事」を志されていたとのことですが、そのきっかけは?

 子どもの頃の原体験として思い出すのでは、好きだったプロレスの、架空の試合台本を書いていたことでしょうか。クジ引きで対戦カードを作って、その各試合の流れを書くんです。この試合はこういう展開で、●分で誰それが勝って、試合後に負けたやつがこういうマイクアピールをする――みたいなの。実家から発掘したら、そんなノートが20冊もありました。

――影響を受けた作家さんは?

 中島らもさんの小説『今夜、すべてのバーで』には衝撃を受けました。あれも私小説的な作品だと思うんですが、最初はらもさんのことをよく知らなくて「実際は、けっこう普通の人だったりして」とか思っていたら、リアルに本当にすごい人で。もう「あなた自体が1つの作品です!」みたいな感じ。そこから派生して、らもさんに影響を受けた大槻ケンヂさんの『グミ・チョコレート・パイン』とかも通りました。あとは、プロレスラーの嘘か本当か分からない自伝を読むのが好きでしたね。

――実体験を元にした作品ばかりですね。実話ベースの物語って、そのまんま書きすぎると笑えないというか、ただのひどい話にしかならないみたいなこともあると思うんです。でも、『死にたい夜にかぎって』は悲喜劇的というか、悲惨なエピソードがありつつも、どこまでもユーモラスですね。

 プロレスラーがガチ過ぎる試合をやっちゃったら、引いちゃう客もいますからね。どんなジャンルのプロレスでも、エンタメとして成立してないといけない。俺の場合もそれに似てて、意図的に笑えるところを作ることで、悲惨な現実とのバランスを取ろうとしたのでしょうね。それに、ただでさえ現実の社会がしんどいじゃないですか。できることなら俺は、自分の周りだけでも明るくしたいんですよ。『Dr.スランプ アラレちゃん』のペンギン村みたいな世界が理想。スッパマンみたいな変人とか、ニコちゃん大王みたいな異質な人が普通に存在することが許される、誰にも否定されない、そういう大らかな世界になったら嬉しいです。ああいう社会の在り方に憧れるから、現実のしんどい事象にぶつかった時に、少しでも楽しくしようと戦うんでしょうね。

――ちょっとでも生きやすい方向に、と。

 もちろん別に楽天家とかではないので、社会の暗い面を見ていないわけではありません。それを見た上で、あえて明るく、バカバカしく書くというスタンスでいたい。そういう意味では、末井昭さんの自伝『素敵なダイナマイトスキャンダル』にも影響を受けてます。お母さんが不倫相手の若い男と爆死した話を書かれているんですが、いくらでも暗く書ける話なのに、末井さんの文章で書かれると笑えてしまう、すごく支えになった一冊です。

◆●「if」という祈り

――私小説というジャンルは、著者と作中人物の距離感の塩梅が重要だと思うのですが、けっこうセンシティブな内容もありますし、触れるのが苦しい経験もあったのでは?

 もちろん、辛い部分もありました。でも、自分で自分のことを書いているわけですけど、小説の中の自分は完全に別人格という意識がありました。意図的に切り離している、というか。プロレスの例えばかりで恐縮ですが、レスラーとしての自分がこっちにいて、それを客観的に見ている作家としての自分が書く、みたいな感じでしたね。

――自分の実況中継(笑)。

 あと、俺の体験を書きつつも、どこか「祈り」の部分もあるんですよね。現実は、小説のように上手くやれていなかったこともあります。本当はアスカに、こういう言葉をかけてあげたかった……でもできなかった。そこを小説という場を借りて、「if(もしも)」の形でやり直しているというか。

――「祈り」でもあったのかもしれませんが、過去の女性経験を「かけがえのないもの」として、全力で肯定される姿勢が印象的でした。人によっては、過去の恋愛とかって思い出すのが辛いから、「忘れる」というベクトルに行くことも珍しくないと思うんです。

 よく皆さんに「ポジティブですね」と言われるんですけど、俺としては自然なことで、自分がして欲しいことを相手に対してもしているだけなんです。生き別れの母親にも、今まで付き合ってきた女性達にも自分を忘れないでいて欲しいから、自分も彼女達を忘れないようにしよう、みたいな。全部その延長です。

――爪さんは、ロマンチストですよね。「女が花で、男は花瓶。女の持つ美しさを際立たせらるかは、花瓶である男にかかっている」みたいセリフを臆面なく言えてしまうところもすごい。

 勘違いロマンチストみたいなところがありますよね(苦笑)。格好つけても、ぜんぜん上手くいかなくて切ない……。以前、飲み屋で俺の本を読んだっていう女の子に怒られたことあります。そんなロマンチックなこと言いながら、なんで風俗ばっか行くわけ!? って。なんだろう、常に満たされない思いみたいなのがあるんですよね。でも、幸せになったらなったで、俺はつまんないヤツになりそうな気もしますし……そんな葛藤の中でもがきながら、これからもバカバカしいことを書き続けていくんだと思います。

 発売されている文庫本では、アイナ・ジ・エンド(BiSH)が解説文を寄稿するほか、マンガ家のポテチ光秀による描き下ろし4コママンガ、爪が新たに執筆したあとがきが収録されている。

<取材・文:辻本 力>
『生活考察』編集人。『仕事文脈』編集部。「タバブックス」社外役員。文芸、カルチャー、ビジネス系の媒体でいろいろ執筆。「CINRA.JOB」で「その仕事、やめる?やめない?」連載中

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