新型コロナで最もパニックになっているのは安倍総理だ/倉山満

日刊SPA! / 2020年3月16日 8時30分

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今回の新型コロナウィルスに対する安倍晋三首相の対応に、多くの人が「日本は大丈夫か?」と頭を抱えているが、地獄は既に目の前まで迫っているのだ 写真/時事通信社

―[言論ストロングスタイル]―

◆今の日本にはリーマンショックと東日本大震災が同時に押し寄せているのだ

 新型コロナウィルスは、世界的な広がりを見せている。現時点でインフルエンザの方が死者は多いのだが、未知の病原体なので警戒は必要だ。ただし、落ち着いて警戒すべきであって、パニックを起こすのは禁物だ。

 かつて石油ショックの際に、街からトイレットペーパーが消えた。

「トイレットペーパーが無くなる」との噂が人々の心を惑わし、皆が買い占めたから、本当に無くなった。今もまた同じ状況が繰り返している。

 そして現在、日本で最もパニックを起こしているのが、安倍晋三総理大臣閣下だ。もはや、首相官邸が風評被害の発信源と化している。

 2月27日、安倍首相は突如として全国の小中学校の休業を呼び掛けた。この日も側近政治家が政治資金パーティーを開いていたくらいだから、本当に急に決めたのだろう。首相の記者会見を聞くと、およそ専門家の知見を聞いたとは思えない内容だった。政府の対応がすべて悪いとは言わないが、安心を与えているとは評価できまい。

 ただでさえ消費増税の悪影響で、数字上はリーマンショックを超えた。そこに、このコロナ騒動での安倍内閣の醜態である。いわば、今の日本にはリーマンショックと東日本大震災が同時に押し寄せているのだ。両方とも安倍内閣による人災である。そして、世の中の目が一方向に向いている時こそ、人々が注目しない場所で大きな事件が動いている。

 首相官邸と法務検察の死闘は、シーソーゲームを繰り返している。

 昨年末から、IR事件で現職国会議員が「担当副大臣の時にカジノ誘致に関する利益誘導の見返りに賄賂を貰った」との容疑で逮捕された。また首相側近の前法相夫妻が選挙違反の容疑で捜査中であった。

 きな臭い空気の中、1月30日に黒川弘務東京高検検事長が、突如として定年を延長された。官邸の逆襲だ。黒川検事長は安倍首相に近い人物で、安倍内閣の閣僚の不祥事を何度も揉み消したとも言われ、「官邸の守護神」とすらあだ名される。そして安倍官邸が、黒川氏を次期検事総長に据えようとしているのは、明らかだ。何のために? 汚職隠しでなければ何なのか。

 現に黒川氏の定年延長が決まった直後に、IR事件の捜査は事実上の終焉を迎えた。これで、明らかに検察に動揺が走った。検察には「検察官一体の原則」があり、鉄の規律を旨とする。警察をも上回る権限に加え、組織として一体化して動くから、最強の捜査機関と恐れられる。安倍首相は、そこに楔を打ち込んだ。

 だが同時に検察には、「検察官独立の原則」がある。一人の検察官は、自分が担当する事件に関し、あらゆる権力の介入を排し、自己の良心に従って行動できるとの建前だ。東京の法務検察が政治の圧力に苦しむ中、広島地検は地元議員である河井克行・あんり夫妻に突撃した。3月3日の朝、地検にあんり議員の秘書を出頭させ、公職選挙法違反を自白させて、その場で逮捕。午後には、東京の議員会館の河井夫妻の事務所を家宅捜索した。昨年の参議院選挙での犯罪の証拠など、今さら東京の事務所で見つかるのか? だが、政治的デモンストレーションとしては効果的だ。「貴様たちを逃がさないぞ!」と。

◆陰キャ中の陰キャ内閣法制局のトップ・近藤正春長官の神業的責任逃れには舌を巻くしかない

 河井前法相は、菅義偉官房長官の側近として知られるが、もともとは安倍首相の側近でもある。仮に河井夫妻の逮捕許諾請求が検察からなされた場合、安倍首相はどうするか。実は「指揮権発動」という伝家の宝刀があって、首相には国会議員の逮捕を止める権限がある。だが、世論の反発は必至だ。一度だけ吉田茂内閣が発動したことがあったが、ほどなくして政権交代に追いやられた。かと言って、逮捕をみすみす許せば政権に大きく傷がつく。だからこそ、強引に人事介入をしているのだ。しかも安倍内閣は、3月で定年になる広島高検の検事長の後任にも意中の人物を送り込もうとしているとか。

 稲田伸夫検事総長は、もはや安倍内閣と刺し違える覚悟で戦っている。激戦だ。

 その検察の走狗となっているのが、野党とリベラルマスコミだ。法務省は検察庁法で禁止されているはずの検察官の定年延長を、国家公務員法の解釈変更という荒業で行った。当然、矛盾を突かれ続ける。森まさこ法務大臣の答弁は成立しておらず、毎日のように立ち往生している。一方、日本国の法令解釈に責任を持っているはずの内閣法制局は、近藤正春長官が「ウチは意見を聞かれたときに意見を言うだけ。責任は現用官庁にある」と涼しい顔だ。

 あらゆる官庁は、法制局に「その法令解釈には疑義がある」と一言クレームをつけられただけで震え上がる。財務省主計局とて例外ではない。日頃の法制局を知る人間は、近藤長官の神業的責任逃れに舌を巻くしかない。おそらく自民党の政治家など、近藤長官の答弁の意味を理解できていないし、しようともしないだろう。

 内閣法制局とは何か。陰気なキャラクター、陰キャである。陰キャで有名な東大法学部から国家公務員に進む人々の中で陰キャとされるのが、内閣法制局である。この官庁は、独自採用を行っていない。各省庁から、選りすぐりの法律オタクをスカウトする。官僚は法律を作成するときに隔離される。普通の官僚は嫌がるのだが、法制局に行くような連中は、そのような環境に恍惚感すら抱く。内閣法制局とは、陰キャ中の陰キャなのだ。そして、その法制局が我々の生活を最終的に決めているのだ。今回のコロナ騒動も例外ではない。

 野党は民主党政権時代に作った、新型インフルエンザ「等」特別措置法を今回の新型コロナに適用すれば迅速に対応できると主張している。対して与党は、それを無理として新規立法を求めている。確かに厳密な解釈をすれば、その通りだ。

 だが、やってはいけない検察官の定年延長は解釈変更で押し通し、やるべきはずのコロナ対策は解釈変更ができないことになっている。誰が決めているのか?

 内閣法制局に「どうぞ、おやりになれば? 責任もどうぞ」と言われた時、自信を持って「やる!」と言い切れる自民党政治家など聞いたことが無い。

 長年、自民党が官僚機構をシンクタンクとして活用してきたツケだ。これでは官僚が間違えた時、日本は滅びる。官僚機構に騙されない、民間シンクタンクを作るしかない。

※週刊SPA!3月10日発売号より

【倉山 満】
憲政史研究家 ’73年、香川県生まれ。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中より国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務め、’15年まで日本国憲法を教える。現在、「倉山塾」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰し、大日本帝国憲法や日本近現代史、政治外交について積極的に言論活動を行っている。ベストセラーになった『嘘だらけシリーズ』など著書多数。最新著書に『13歳からの「くにまもり」』

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