「東京ロックダウンは不可能だ」元東京都知事・作家の猪瀬直樹氏が喝破

日刊SPA! / 2020年3月31日 8時50分

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元東京都知事・作家、猪瀬直樹氏

 東京都で新型コロナウイルスの1日当たりの感染者数が初めて60人を超えた。3月25日に41人を記録して以降、3日連続で40人台を推移していたが、28日は63人が、翌29日も68人の感染が新たに確認されるなど、東京都の小池百合子知事が「不要不急の外出自粛」を要請した週末に感染拡大を加速させた格好だ……。

「事態の今後の推移によっては、ロックダウン(都市封鎖)など強力な措置を取らざるを得ない」

 小池知事は23日に緊急会見を開き、初めてロックダウンの可能性を示唆している。ロックダウンとは、公共機関や学校、企業や店舗などを閉鎖し、国民の移動を制限する「都市封鎖」のこと。すでに、ロンドンやパリ、ニューヨークなどで実施されているものの、制約の多い日本で同じことができるのか……疑問の声が多いのも事実だ。

 政府が「非常事態宣言」を出すことが前提だとしても、知事の権限で日本の首都・東京を完全封鎖することなど可能なのか? 今回、元東京都知事で、副知事時代にも東日本大震災の危機対応に辣腕を振るった作家の猪瀬直樹氏に話を聞いた。

――小池知事が、首都・東京のロックダウンの可能性に言及した。

猪瀬:すでにロックダウンしているロンドンやパリなど海外の街は、基本的に城壁都市ばかり。全土で外出禁止措置となったイタリアも、もともと都市国家だから、都市の中心から15分も電車に乗れば緑豊かな田園地帯へと風景が一変する。グリーンベルトが都市を取り囲み、都市と都市の境界が明確なので、ロックダウンが可能なのです。

 ところが、東京はそうではない。急増する人口に対応するため、大正末期に山手線が現在のような環状線となり、渋谷、新宿、池袋駅などからヒゲが生えるように私鉄が郊外の住宅地に延び、東京は西に膨張していった。また、東京は1400万人の都民が住むだけでなく、周囲の4県から1~2時間をかけて通勤する街でもあり、首都圏の人口は3600万人にも達する。

 一方、海外には郊外から1時間以上かけて通勤するような都市は存在しない。こうした特殊な事情ゆえ、東京を都市封鎖することは不可能なのです。また、こうした構造を踏まえれば、都だけではなく首都圏という広域で対策を講じなければ効果は期待できない。

――週末(3月28~29日)の「外出自粛要請」には、神奈川・埼玉・千葉の3県が呼応し、各知事が県民に「東京への移動自粛」を呼びかけた。

猪瀬:自治体間の連携は今回が初めてではなく、大阪府の吉村洋文知事が3月20~22日の3連休前に、大阪・兵庫間の移動自粛を要請し、一定の成果を上げました。吉村知事が自粛要請を決断したのは、厚労省クラスター対策班の「緊急対策の提案」を目にしたことが大きい。何も対策を打たなかった場合、爆発的に増加する感染者数が記されており、厚労省側は非公開を望んだが、知事はあえてショッキングな数字を公開して、府民に警鐘を鳴らした。

 また、北海道の鈴木直道知事も2月末に「緊急事態宣言」を出して、道内のオーバーシュート(感染爆発)を回避したが、実は、緊急事態宣言に法的根拠はなく、知事にそんな権限はない。両者に共通するのは、専門家会議の意見に耳を傾け、意思決定のプロセスを公開し、透明性を担保したうえでメディアをうまく利用して発信力の強化に繋げている点。つまり、現行法の枠内でも、知恵を絞れば実効性のある対策を打てるのです。

 くしくも2人の知事は、猪瀬氏とは縁がある。猪瀬氏は大阪府・市特別顧問を務めており、北海道の鈴木知事は、都職員だった’08年に東京都副知事だった猪瀬氏が、財政再建団体に指定された夕張市に派遣。市長を経て北海道知事へと転身した。

――2人の若い知事に比べて、小池知事の「初動」が遅かったのではないか? と批判的な声も出ている。

猪瀬:大阪府よりも人口が多い首都・東京に、3月の3連休前の段階で、厚労省から同様の文書が届いていないとは考えにくい……。東京五輪への影響を考慮しなければならない事情があったにせよ、小池知事の対応は遅きに失したと言わざるを得ない。

――27日に小池知事は、新型コロナ特措法に基づく「緊急事態宣言」まで「ギリギリのところ」と発言している。緊急事態なら、ロックダウンはできるのか。

猪瀬:首相が緊急事態を宣言すれば、特定された自治体の知事はさまざまな要請や指示が出せる。蔓延防止措置としては、学校や興行場の使用停止の指示や、大勢が集まる催し物の開催中止の指示も可能になるが、住民の外出自粛については要請しかできない。都知事はもちろん、首相でもロックアウトなどできません。

◆東京都の職員をテレワークに

――では、現在の法的枠組みのなかで、どんな方策を取り得るのか。

猪瀬:まず、東京都の職員をテレワークにする。東日本大震災のときはフレックス出勤にしたが、都の職員の多くは神奈川・埼玉・千葉の3県から出勤しており、彼らの移動を制限するのです。警察、消防、教員を除く約4万人の都職員がテレワークにシフトすれば、メディアで大々的に報道され、都知事の発信力強化に繋がる。

 専門家会議に一切諮らず、不透明なプロセスで国家の意思決定を独断したのは大いに問題だが、安倍首相の全国一斉休校の要請には99%の学校が応じた。つまり、強制力を伴わない要請に実効性を持たせるには、知事がリーダーシップを発揮し、どうメッセージを発信するかに懸かってくる。うまくやれば都職員のテレワーク導入に応じるかたちで、出勤停止の要請を受け入れる企業が増える可能性がある。

――ロックダウンした海外の都市では、外出禁止措置が取られるのと同時に、政府が休業補償を打ち出した。

猪瀬:パリでは外出許可証なしに出歩くと135ユーロ(約1万6200円)の罰金が科され、イギリスやスペインなども、正当な理由のない外出に罰金制度を導入しているが、現行法の下では都が外出を禁じることはできない。

 テレワークを多くの企業が導入すれば、人の移動を激減させることもできるが、自宅では仕事ができない職種やフリーランスに給与の補償をしなければ、出勤する人が後を絶たないでしょうね。

 フランスは給与所得者には給与の8割、フリーランスを含む事業者には一律月額1500ユーロ(約18万円)を国家負担で支給することを決めたが、日本のフリーランスへの補償は日額4100円にとどまる……。これでは、人の移動を止められない。

 28日夜、安倍晋三首相は首相官邸で行った会見で「(感染拡大が続くも)現状は緊急事態宣言との関係でギリギリ持ちこたえている状況だ。瀬戸際の状況が続いている」と話し、現時点で緊急事態宣言を発令する状況ではないとの認識を示した。小池知事が訴える「感染爆発の重大局面」のただなかにある首都・東京。今後も長く険しいイバラの道が続くのは間違いない。

◆「感染爆発の重大局面」 4月12日まで自粛要請

 厚労省クラスター対策班は「4月8日までの3週間で、感染者数が530人、うち重篤者数が41人増える可能性がある」との試算を出している。小池都知事は25日の会見で、感染拡大が続く現状を「感染爆発の重大局面」と訴え、4月12日まで大規模イベントの延期や中止、週末の不要不急の外出自粛、平日のテレワークの徹底などを要請した。

<取材・文/週刊SPA!編集部 撮影/山崎 元(本誌) 写真/EPA=時事>
※週刊SPA!3月31日発売号より

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