日本で新型コロナ対策はもう不要?「日本は集団免疫を獲得」説の中身

日刊SPA! / 2020年9月5日 8時50分

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 新型コロナウイルスについては「8月の感染者、月間で最多の3万2000人」などの報道が続き、不安を募らせている人が多い。そんな中で、奥村康・順天堂大学医学部特任教授(免疫学講座)は「日本はすでに、免疫保有者が国民の一定割合に達して収束に向かう『集団免疫』状態に達しており、リスクの高い高齢者施設や病院以外では感染拡大防止対策は不要だ」と断言している。どういうことなのだろうか。

◆コロナ収束は集団免疫しかない?

 奥村特任教授によれば、インフルエンザウイルスが原因だったスペイン風邪や香港風邪、コロナウイルスが原因だったSARS(重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)など、過去のすべてのウイルス感染症は「集団免疫」によって収束している。新型コロナウイルスも例外ではないという。

 集団免疫とは、特定の集団や地域で、特定のウイルスに対する「免疫力(人が生まれつき持っている自然免疫と、特定のウイルスに感染してできる獲得免疫を合わせたもの)」を持つ人が一定の割合に達し、その人たちが壁になって感染が拡大しなくなった状態を指す(免疫力については後に説明する)。

 この状態になっても、高齢化したり基礎疾患を持っていたり、あるいは体調が不調だったりして免疫力が弱い人は、ウイルスに感染して重篤な肺炎などになり、ごく少数の人は死亡する。ただ、死者の数は感染拡大期に比べてきわめて少なくなる。

「一定の割合」とはどの程度なのか、新型コロナの場合、当初は住民の70%程度と考えられていたが、最近はもっと低いと考える研究者が増えている。スウェーデンの公衆衛生庁は「40~45%」としており、宮坂昌之・大阪大学招聘教授は「20%程度」もあり得ると述べている(注1)。

 集団免疫状態になったことを確認するには、何%くらいの住民が新型コロナウイルスに対する免疫を持っているか調べる大規模な調査が必要だが、これは簡単にはできない。

◆1日当たりの死者急減で判断

 代わりに奥村特任教授が判断の基準にしているのは、1日当たりの死者数の動きだ。感染拡大期に急増した死者数が急減に転じ、その後きわめて少ない状態が続いていれば、集団免疫状態と判断できるという。

 厚生労働省のまとめによると、新型コロナによる死者は4~5月に急増し、4月22日には91人に達したが、6月になると減少し、6月中旬~7月中旬には1日に1~2人となり、報告なしの日もあった。

◆新型コロナでなくてもコロナ死に?

 死者数は7月下旬から増加しているが、これは熱中症などで死亡した人も新型コロナによる死者とされていることが影響しているとみられる。厚労省は6月18日、新型コロナウイルスの感染がわかり、その後死亡した人は死因を問わず、新型コロナウイルスで死亡した感染者として公表するよう都道府県などに連絡している。死者の死亡診断書が公表されないため詳細は不明だが、発表された死者に、直接の死因が新型コロナ以外である人が相当数含まれているのは間違いない。

 死者数の動きから国内が集団免疫状態になったと判断した奥村特任教授は7月27日、ほぼ同じ考えの上久保靖彦・京都大学特定教授とともに東京都内で記者会見し、この判断を公表している。

◆社会経済活動が元に戻る

 新型コロナウイルス感染症について政府は、2月1日に「指定感染症」に指定し、PCR検査の陽性者をすべて隔離することにした。その後、全国一斉休校や緊急事態宣言を実施し、住民や企業は外出自粛や経済活動の制限をして、感染の爆発的な増加を抑えた。

 その間にも新型コロナウイルスは目に見えないところで広がり、かなりの人たちが知らないうちに曝露(体内に取り込むこと)したり、感染したりして免疫を持つようになり、集団免疫状態になったと考えられる。

 国内ですでに集団免役状態にあるとすれば、政府や自治体の対策も私たちの対応も大幅に変える必要がある。

 不要不急の外出や県外旅行の自粛、集会の人数制限、マスク着用や社会的距離の確保など、感染拡大期に実施された対策は、原則として必要ないと奥村特任教授は言う。

「新しい生活様式」はやめ、経済活動は徐々に元に戻していけばよい。社会経済活動がコロナ騒動以前とほぼ同じに戻るのだ。

 PCR検査で陽性と判定された人は、症状に応じて対応する。重症や中等症の人は入院し、軽症な人や無症状の人はしばらくの間、症状が悪化しないか注意しながら暮らす。軽症者や無症状の人は体内にあるウイルスの量が少ないので、外出しても他人にうつす可能性はきわめて低いと考えられる。このように入院者を限定し、医療資源を重症者の治療に集中すれば、医療の逼迫は解消されるはずだ。

◆無症状や軽症でもPCR検査は陽性

 集団免疫が達成されたとすると、世の中の出来事もまるで異なって見える。

 7月以降、とくに8月になってからPCR検査の陽性者が急増し、「1日の感染者1500人を超す」などと連日報道されて大騒ぎになった。何人もの知事が緊急事態宣言や警戒警報を出し、帰省の自粛を求めた知事もいた。

 しかし、PCR検査を増やせば、陽性者が増えるのは当然のことだ。陽性者のほとんどは免疫力によって無症状か軽症状で済んでおり、大騒ぎする必要はない。しかもこの人たちは「新型コロナに対する免疫保有者」なのだ。こうした見方に立てば、知事たちの警告は全くの見当外れとなる。

 新型コロナウイルスはいまなお感染拡大中なのか、それとも集団免疫状態になっているのか、政府も、東京都や大阪府も、急いで調査すべきだろう。

◆人を守る3重のバリア

 以上の説明では腑に落ちない方が多いかもしれない。集団免疫を正確に理解するには免疫の仕組みを知る必要がある。

 前出の宮坂招聘教授によれば、人が病原体などの異物から身を守る「生体防御」は3重のバリア(防壁)から成っている。

 第1は、異物が侵入してきたら、皮膚や粘膜とそこに存在する殺菌物資が阻止したり、死滅させたりする「物理的・化学的バリア」だ。

 そこを突破してきた異物には、白血球の一種の「マクロファージ」やリンパ球の一種の「NK(ナチュラル・キラー)細胞」が立ち向かう。これが第2のバリアで、第1と第2を合わせて「自然免疫」と呼ぶ。自然免疫は、あらゆる異物に対して直ちに反応する。

 二つのバリアを潜り抜けてきた異物を攻撃するのが、第3のバリアである「獲得免疫(適応免疫)」だ。これには、リンパ球の一種の「B細胞」が「抗体」(免疫グロブリンというたんぱく質)をつくって攻撃する「体液性免疫」と、リンパ球の一種の「キラーT細胞」が攻撃する「細胞性免疫」がある。

 これらの獲得免疫は特定の病原体などに対して強い攻撃力をもつが、発動するまでに2日~1週間の時間がかかる。また1度経験した病原体は記憶しており、2度目の侵入にはすばやく反応する。この原理を応用したのがワクチンだ。

 つまり、NK細胞・抗体・キラーT細胞などを合わせた総体が「免疫力=体の抵抗力」なのだ。

◆自然免疫をフルに働かせる習慣

 そして最近の研究で、NK細胞やキラーT細胞は学習することがわかってきた。普通の風邪の原因になるコロナウイルスに過去に感染していると、これらの細胞は新型コロナウイルスに対しても力を発揮する。これは「交差免疫」と呼ばれる。

 ただ、抗体には、①ウイルスを不活化し、細胞への感染を防ぐ「善玉抗体」、②ウイルスの感染を促進する「悪玉抗体」、③不活化も感染促進もしない「役なし抗体」があるから注意が必要だ。抗体が増えても、②の悪玉抗体が増えた場合は症状が悪化し、「抗体依存性感染増強現象(ADE)」になることもある。

 免疫力の強さは人により異なり、同じ人でも体調によって異なる。新型コロナウイルスに対しても自然免疫だけで排除できる人もいるし、獲得免疫が出動しても排除できず、重篤な肺炎などになる人も、少数だがいる。

 自然免疫は体調がよいとフルに働くと、宮坂招聘教授はいう。①早起きして朝日を浴び、体内時計を狂わせない、②ラジオ体操やウォーキングで血流を上げる、③ストレスをできる限りなくす、などが有効だ。

◆スウェーデンは集団免疫達成を発表

 目を世界に転ずると、感染者(PCR検査の陽性者)が2500万人を超えたと大騒ぎになっている中で、アメリカ、ブラジル、イタリア、ルクセンブルク、スウェーデンなど多くの国々で、1日当たりの死者数がある時期を境に急減していることがわかる(死者数や急減の時期は国によって異なる)。これらの国々では集団免疫状態になっている可能性が大きい。

 このうち政府が集団免役達成を発表したのが、スウェーデンだ。

 同国の公衆衛生庁は7月17日の記者会見で、首都ストックホルム市では住民の抗体獲得率が17.5~20%に達し、これにキラーT細胞などを介した免疫を合わせると40%近くが免疫を獲得したと判断でき、集団免疫をほぼ達成したと推定できると発表した(注2、注3)。

 同国の新型コロナによる死者(1日当たり)の動きを見ると、4月には40人を超える日もあったが、5月、6月と減少し、7月以降は数人以下の日がほとんどで、報告なしの日もある(注4)。同国が集団免疫を達成していることは、このような死者数の動きからも判断できる。

 新型コロナに対しスウェーデンは、「長期間持続可能な方法で感染のピークを抑え、医療崩壊を来たさないようにする」ことを主目的とし、他の欧米諸国のような「ロックダウン(都市封鎖)」は実施しなかった。

 具体的には、「高齢者施設の訪問と50人以上の集会の禁止」および「飲食店で客同士の距離をとる制限」だけを法律で定め、「可能な限りのリモートワーク」「不要不急の旅行の自粛」「社会的距離の確保」などは「勧告」され、実施するかどうかは国民の自主的な選択に委ねる方法をとった。

 そうした対策を実施している間に免疫保有者が増え、集団免役状態に達したと考えられる。

 集団免疫達成の発表から1カ月余り、人々の暮らしはどう変わったか。ストックホルム市在住の宮川絢子医師(カロリンスカ大学病院泌尿器外科)にメールで尋ねた。

◆スウェーデンではマスクの着用は推奨されていない

 宮川医師によれば、禁止されていた50人以上の集会が10月から500人以上となるなど、規制が緩和され始めた。人々の外出は増え、街は賑わいを取り戻しつつある。

 現在はバカンスシーズンなので、人々は自由に国内を旅行している。例年なら国外でバカンスを過ごす家族が多いが、今年は国外へ出かける家族はほとんどいないようだ。海外渡航は控えるべきとした勧告は、欧州連合(EU)圏内の一部の国に対しては解除され、国境を超えた移動が再開されたが、感染の再拡大はいまのところ見られないという。

 公衆衛生庁発表の翌週、隣国ノルウェーが国境の一部を開放したところ、物価の高いノルウェーから大勢の買い物客がスウェーデンに殺到し、国営居酒屋にはノルウェー人の300mもの行列ができた。

 テレビ局のインタビューに応じる人たちは、だれ一人マスクをしていない。マスクだらけの光景を見慣れた私に、それはとても新鮮に映った。スウェーデンではエビデンスがないという理由で、マスクの着用は推奨されていないのだ。<取材・文/岡田幹治>

注1) 宮坂昌之「「抗原検査」でスーパースプレッダーを検出せよ」(『文藝春秋』2020年8月号)
注2) 宮川絢子「スウェーデン式新型コロナ対策の「真実」」前・後編(メディカルトリビューン2020年8月5日、6日)
注3) 泉美木蘭「政策がナチュラルに無秩序な日本で、スウェーデンのコロナ対策を素直に見てみる」(幻冬舎Plus2020年8月5日)
注4) 武者リサーチ「ストラテジーブレティン(258号)」図表

【岡田幹治】
1940年生まれ。ジャーナリスト。朝日新聞社でワシントン特派員・論説委員、『週刊金曜日』編集長を経て、現在はフリーに。著書は『香害 そのニオイから身を守るには』(金曜日)、『ミツバチ大量死は警告する』(集英社)など

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