自衛隊員の「待遇改善」なしに国の未来は語れない

日刊SPA! / 2020年10月10日 8時53分

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写真は陸上自衛隊公式Facebookより引用

―[自衛隊ができない100のこと/小笠原理恵]―

その100 自衛隊員に「優しい心」を届けよう

◆自衛官も生身の人間。清貧で誇り高い名誉職ではない

 近年、政府が「働き方改革」という政策を打ち出し、国を挙げてさまざまな職場改革が推し進められています。しかし、その流れのなかでも「自衛官の生活や職場環境、勤務時間などの改善を!」と言うと、「自衛官は賃金など気にせず喜んで働いている。心身共に鍛え抜いた誇りある人たちに対し、賃金や待遇の改善など失礼であり不要だ」と批判する人がいました。その根底には「清貧」「質実剛健」「逆境に耐えてこそ」というような精神論がありました。

 でも、自衛官だって生身の人間です。私たちと同じように「欲しいもの」や「やりたいこと」、そして「守りたい家族」があります。普段いくら鍛えていたとしても、心無い言葉に傷つく「傷つきやすいやわらかな心」もあるでしょう。

 海上自衛隊の幹部候補生は、半年から1年、練習艦隊で遠洋航海訓練に出かけます。集団生活に加えて見知らぬ外国での長期訓練は厳しいものです。テロや犯罪が多発するような国もあり、途中で挫折して帰国する人もいます。そんな辛い訓練のなか、ある隊員が「日本に帰ったら最初に行きたい」と夢見ていたのは「コンビニ」でした。日本製のお弁当やお菓子、店内に流れる案内や音楽、聞こえてくる日本語。無事に任務を終え帰国し、念願のコンビニに入ったとたん、屈強な彼が大泣きしたといいます。

「日本だ! 本当に日本だぁ。戻って来たぁ~~!」

 周りの視線が痛くて恥ずかしかったけれど、沸き上がる涙が止まらなかったそうです。ほら、自衛隊員もごく普通の人なのです。仕事だからと我慢をし、規律正しく時には勇気を奮い起こし、職務に忠実に一生懸命働いているだけなのです。

 人生は長い。職業人としてだけではなく、結婚や子供、家族、友人などと過ごすプライベートな幸せもほしいでしょう。それがなくては悲しすぎます。自衛官は機械ではありません。心無い言葉をぶつける人もいますが、応援する人もいると信じていました。

◆本連載を通して広がった自衛官の待遇改善

 この100本の連載の間にさまざまな変化がありました。最初は「自衛官は待遇や生活問題など気にしない。そんなことどうでもいい」と切り捨てる人もいました。でも、「それでは自衛官があまりにも可哀想だ」と、6年間の国会請願で毎年3000人弱の署名があったのです。この声が政府を動かしました。

 トイレットペーパーの「自腹」問題に始まり、給料の増額、引っ越し代の実費支給、災害派遣時の宿営設備の向上、予備自衛官の給料や褒章・職務資格の改善、自衛隊内の法整備など、この連載で取り上げたさまざまな問題が改善されつつあります。優しい皆様の応援に心から感謝します。

 自衛官に心を寄せて動いてくれる国会議員の方々も増えました。本連載の締めくくりに、過日行われた国会議員に請願署名簿を委託する会合(2020年2月14日:衆議院第一議員会館)の様子をお伝えします。以下は、参加された国会議員の当会合での発言です。

※敬称や元大臣などの役職は省略。記載は発言順

杉田水脈・衆議院議員
〇女性自衛官の居室が手狭でロッカーが別室に置かれ、着替えや準備に毎回別室に行く構造は不自由。ベッドサイドで一通りの身の回りのことができるような改善が必要。

鈴木貴子・衆議院議員
〇自衛隊の官舎が地元のハザードマップの津波浸水エリアに引っかかっている。いざというときに出動しなくてはならない自衛官の居住施設や防衛施設の設置個所問題に取りくみたい。

城内実・衆議院議員
〇父が警察官だったため、転勤の辛さはよくわかる。自衛官のなり手がなく人材不足で厳しい中、身の回りや住居の手当をどうにかしてあげたいと思う。

馳浩・衆議院議員
〇自衛隊出身の市議がいると災害時など行政との打ち合わせがスムーズに進む。自衛官を支える地方の議員にも自衛隊出身者が増えるのはいいことだと感じる。

中谷元・衆議院議員
〇昔は師団長などの役職者官舎がありましたが、今はない。老朽化し間取りも狭い官舎に外国の高官を招くことはできない。外国との交流も含めて官舎の改善は必要だ。

大西宏幸・衆議院議員
〇防衛省と自衛隊員の間に温度差があり、自衛隊員の待遇改善が進まなかった状況が長く続いていたが、その接着剤を「自衛官守る会」が引き受けている。この問題を認識し、職場環境を一つでも改善し自衛隊志望者を増やす努力をしたい。

神谷昇・衆議院議員
〇2025年前後に南海トラフ地震が来るかもと予想されているなかで、自衛官の官舎がボロボロで民間住宅にバラバラに住んでいて、緊急参集が可能なのかと危惧する。改善したい。

上野宏史・衆議院議員
〇自衛官募集相談員をしているが、職労改善は重要。「国家国民のために働きたい」と志願した人が最終的には自衛官の道を断念するケースが多い。

小田原潔・衆議院議員
〇自衛官の息子として引っ越し貧乏を経験した。自衛官の退官後の再就職は難しく、事故で保障や賞恤金制度はまだまだ問題が多い。こういった補償も改善したい。

務台俊介・衆議院議員
〇自衛隊には旧軍の記念館があるが、過去の連続性を否定する論調もあり本当にみすぼらしい。戦争に負けたからと言って断絶してはならない。この問題も重要だ。

古川康・衆議院議員
〇自衛隊の生活環境にまつわる問題への対応がこれまでなかった。正面装備より身近な改善で一人ひとりの自衛隊員の方々に政治を実感してもらいたい。

小野田紀美・参議院議員
〇「耐え忍ぶことが良いこと」「美しい日本の精神」っていうのはいい加減やめていただきたい。十分な休息がないと国は守れない。声を大にして、予算獲得を頑張っていきたい。

三ツ林裕巳・衆議院議員
〇階級や特別な役職についた人以外の自衛隊員の退職後の再就職は難しい。自衛官の退官後の将来もしっかり見据えて国会でシェアしていきたい。

三谷英弘・衆議院議員
〇父が海上自衛官でした。官舎や転勤の問題は非常に理解している。災害派遣の救助に時間を割かれて訓練に割く時間が制約される問題も考えたい。

宮崎政久・衆議院議員
〇地元沖縄は国境を抱えているので自衛官に感謝している。平素から困難な状況に遭遇することを前提とした家族の支えと理解が得られるように改善していきたい。

長島昭久・衆議院議員
〇古く耐震対策もできていない官舎が多く。いちいち官舎の外に出てトイレや風呂に行かないといけない場所もある。真冬は大変だ。生活環境も整備していきたい。

 このように、多くの国会議員がさまざまな場所で自衛官の職場環境、生活環境について調査し、問題を変えていきたいと言ってくれるようになったことがこの100回の連載の成果だと思っています。

 小さな灯火はつきました。が、改善への道のりはまだまだ始まったばかりです。この灯火を大事に育て、大きく広げていきたいものです。

 これまでも、これからも。辛くても声を上げられない自衛官を守れるのは、国民の私たちだけなのですから。

参考 会議録を記載した会報
参考 請願署名簿を委託する会合(2020年2月14日:衆議院第一議員会館)の動画

【小笠原理恵】
国防ジャーナリスト。関西外語大卒業後、広告代理店勤務を経て、フリーライターとして活動を開始。2009年、ブログ「キラキラ星のブログ(【月夜のぴよこ】)」を開設し注目を集める。2014年からは自衛隊の待遇問題を考える「自衛官守る会」を主宰。自衛隊が抱えるさまざまな問題を国会に上げる地道な活動を行っている。月刊正論や月刊WiLL等のオピニオン誌にも寄稿。日刊SPA!の本連載で問題提起した基地内のトイレットペーパーの「自費負担問題」は国会でも取り上げられた。『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』(扶桑社新書)を上梓

―[自衛隊ができない100のこと/小笠原理恵]―

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