信号無視、Uber Eats配達員の交通マナー問題を「静岡」で痛感

日刊SPA! / 2020年10月21日 15時53分

写真

静岡駅周辺は飲食店が多く、Uber Eats配達員の姿もちらほら

―[40代日雇い男「Uber Eats」自転車出稼ぎ旅【東京発沖縄行】]―

 東京都では15日、新型コロナウイルスの新たな感染者が284人を記録した。現在も一向に収束する気配がない。

 僕は普段、日雇い派遣の仕事などで稼ぎつつ、時間を見つけてはタイなどの東南アジアを中心に旅してきた。この状況では海外旅行には行けそうもないが、日本国内ならば比較的自由に動けるようにもなってきている。旅がしたい。でも、社会の底辺で生きる僕にはお金がない。そこで、「Uber Eats」の配達で旅費を稼ぎながら国内を自転車で旅するという方法をとることにしたのである。

◆鎌倉から熱海に向けて出発

 所持金3万円で東京を出発し、6日目は鎌倉にいた。泊まっているゲストハウスをこの日チェックアウトして熱海に向かう予定だった。が、台風の影響で大雨が降っていたので一日延泊。もちろん配達もできるはずがなく、一日中ゲストハウスに篭っておとなしく過ごした。

 7日目、台風が日本列島から逸れてようやく雨がやんだ。ゲストハウスをチェックアウトすると、自転車に乗って熱海に向けて出発した。鎌倉では台風のせいでほとんど稼ぐことができなかったので早急に稼ぎたいところだった。が、熱海はUber Eatsの配達エリアではない。一泊だけしてすぐ静岡市に向けて出発するつもりだった。

 左手に海を眺めながら相模湾沿いの道をひた走る。途中で小田原城をゆっくりと見物し、夕方頃に熱海に到着。街中に入った途端に硫黄の匂いが漂ってくる。

◆無人の宿にチェックイン

 その日の宿泊を予約していたのは熱海駅からほど近い場所に位置する「熱海一休庵」である。外観は古びた木造の老舗旅館なのだが、これが今までに泊まったことのないタイプの宿だった。スタッフが常駐していないのである。

 予約確認のメールに「宿に到着したら電話してください」とあったので、宿の玄関前からメールに記されている番号に電話した。その電話でスタッフからチェックインの方法と利用方法の説明を受ける。暗唱番号を押してキーボックスを開けて部屋の鍵を取り、指定された部屋を開けて入る。二段ベッドの置かれたやや狭めの質素な部屋。しかし、ただ寝るだけなのでこれで十分である。

 それにしてもこの宿、まったく人の気配がない。共同のリビングに行ってみたのだが、そこにも誰もいない。しんと静まり返った空間にときおり窓の外で木の葉が風に吹かれてざわめく音だけが聞こえてくる。どうやらスタッフだけでなく他の宿泊客もいないようだ。館内には完全に僕ひとりなのである。

 温泉地の熱海だけあって、敷地内には露天温泉風呂を備えていた。入湯料の300円を備え付けの箱に入れ、温泉の蛇口を捻って木製浴槽に湯を張る。そして湯に浸かり、真っ暗な湯面に反射してゆらゆらと揺れる照明の光を眺めながらその日の疲れを癒した。

◆収入ゼロの日が続いて焦る

 8日目、少し早起きして宿を出発する。この日の目的地は静岡市である。ここでようやくUber Eatsの配達エリアになる。早く配達して旅費を稼がなければと気が焦る。

 しかし、その進行速度は亀のようにゆっくりしていた。宿を出てから静岡市のほうに向かう道はいきなりの急勾配の上り坂だったのである。自分のリュックとウーバーのバッグ合わせて総重量約10キロの荷物を背負った状態での上り坂は本当にきつい。出発早々、顎の先から汗がポタポタと零れ落ちる。

 シャツの汗染みが全面に広がる頃になってようやく上り坂の頂上に到達した。そこからはボーナスタイム突入とばかりに下り坂が延々と続き、風を切って凄まじい勢いで駆け下りていった。

 やがてまた海沿いの道に出た。聞こえてくるのは穏やかな波の音とカモメの鳴き声。海から吹き付ける風がたまらなく気持ちいい。

 そして静岡市に到着。予約していた宿は静岡駅近くの「泊まれる純喫茶ヒトヤ堂」である。古いビルを改装して作られており、1階が喫茶店、2階と3階がゲストハウスになっている。

 昭和レトロな内装や調度品でまとめられたオシャレな店内。しかし、僕はその雰囲気を楽しむよりも先にドミトリールームのベッドに横になった。熱海の峠越えでとにかく疲れていた。それに翌日からはこの静岡市で配達をしなければならないのですぐに体を休めたかったのである。

 9日目、ベッドから起きると、1階の喫茶店でコーヒーとトーストがセットになったモーニングを注文する。朝の新鮮な光で満たされた店内で女性スタッフがロートとフラスコを使用して淹れてくれたサイフォン式コーヒーをいただいた。

◆静岡市は坂道がほとんどなく、配達がしやすい

 そしていよいよ配達開始。ウーバーのバッグを背負って自転車に乗る。鎌倉では台風でずっと雨だったので、配達するのは久しぶりな感じがした。さて、この静岡市ではいったいどのくらい稼げるのか。もしここでも稼げなかったら旅費が底をついてゲームオーバーになってしまうかもしれない……。

 少しばかりの不安を感じながら、飲食店やショップの建ち並ぶ繁華な通りを自転車でゆっくりと走った。しばらくして最初の配達リクエストが入り、そのあともかなり順調にリクエストが入り続けた。

 走ってみて気付いたのだが、静岡市にはほとんど坂道がなかった。これが自転車で配達している僕にとっては本当にありがたいことだった。道が平坦だとどんなに走ってもそれほど疲れることがないのである。

◆Uber Eats配達員の交通マナー問題

 この静岡市はウーバーの配達をするのに最適の場所なのかもしれない。ゲストハウスの雰囲気もすごくいいし、しばらくここに滞在して旅費を稼ごうか……。そんなことを考えながら鼻歌まじりで自転車を漕いだ。しかし、しばらくしてそんな浮かれ気分に水をさすようなことが起こった。

 あるお店に商品の受け取りに向かっていた。信号は赤だったのだが、クルマの来る気配はまったくなかったし、道路の幅も狭かったので僕はスッと渡ってしまった。信号無視をしたのである。

「ちょっと、ちょっと」

 すると、後ろから男の声と原付バイクの走行音が近づいてくる。僕の自転車に横付けして走りながら運転手の中年の男が言った。

「さっき信号無視しただろ」
「はい?」
「見てたんだよ。そういうことをされると、ウーバーの配達員全体の印象が悪くなって、俺が仕事をやりづらくなるんだよ」

 彼はそれだけ言ってブーンと走り去っていく。その背中にはウーバーの四角いバッグがあった。

 どんなにクルマの来る気配がなくても、どんなに道路の幅が狭くても、信号は絶対に守らなくてはならない。だから今のは完全に僕が悪い。いま、世間ではUber Eats配達員の道交法違反に厳しい目が向けられていることを思い知らされた出来事である。認識が甘かった……。

 以後、気をつけなければいけない。嫌な気持ちを少し引きずったまま配達を続けた。しばらくはリクエストが入り続けていたのだが、それも午後5時頃でピタリと途絶えてしまった。おかしい。東京だったらここからがゴールデンタイムでリクエストがじゃんじゃん入り続けるのだが……。

 無駄に稼働を続けても仕方ないので、ゲストハウスに帰ることにした。この日の稼ぎは5741円。とりあえず、この旅がゲームオーバーになることだけは免れたが、尻に火がついている状態であることには変わりなかった。
 
【6日目】
<支出>
食費:1061円
洗濯乾燥:560円
1泊分の宿泊費:1914円
合計:3535円

<収入>
0円

残金:1万6765円

【7日目】
<支出>
食費:759円
入湯料:300円
1泊分の宿泊費:1934円
合計:2993円

<収入>
0円

残金:1万3772円

【8日目】
<支出>
食費:1419円
3日分の宿泊費:10050円
合計:1万1469円

<収入>
0円

残金:2303円

【9日目】
<支出>
食費:2450円

<収入>
5741円

残金:5594円

<取材・文/小林ていじ>

【小林ていじ】
バイオレンスものや歴史ものの小説を書いてます。詳しくはTwitterのアカウント@kobayashiteijiで。趣味でYouTuberもやってます。YouTubeで「ていじの世界散歩」を検索。

―[40代日雇い男「Uber Eats」自転車出稼ぎ旅【東京発沖縄行】]―

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング