<純烈物語>後上翔太は「コロナ禍前とは違うなにか」をまとえる存在<第72回>
日刊SPA! / 2020年11月21日 8時30分

―[ノンフィクション連載「白と黒とハッピー ~純烈物語」]―
◆<第72回>「コロナ禍前と違う何か」をまとえるのは、後上翔太なのではという正直な思い
ライブのステージから離れている間、各番組に出演したさいメンバーがもっとも多く聞かれたのは「休みができたことで新たに始めまたことはありますか?」だったと思われる。リードボーカルとして顔的ポジションにいる白川裕二郎、LiLiCoとの夫婦の日常という切り口で小田井涼平の2人は、そうした発言をするたびにネットニュースでもとりあげられた。
その場合、だいたい後上翔太が最後にまわってきて「プレステ4とウーバーイーツ」と答えるや「そんなん、何もやってないのと一緒やろ!」と酒井一圭に突っ込まれ、オチになる。ファンからすれば、変わらぬ純烈の呼吸だ。
とはいうものの、後上本人は少なからず自分の趣味に対するコンプレックスめいた引っかかりを感じていた。白川の日曜大工、小田井の手先のこと、酒井は家族とのふれあい……いずれも今的な言い回しをするなら“映(ば)える”写真や動画になる。
それに対し、自分はゲーム機のコントローラーを持っているだけという絵ヅラ。それが映えなくても、本人にとってはまごうことなき楽しい趣味なのに、口にするとイマイチという顔をされてしまう。
「映える趣味がある人は、映えるためにその趣味を持っているんじゃないかって勘ぐってしまうぐらい、俺って映えねえなって思ってしまうんです。普通はそんなこと気にせず選ぶのに、他のメンバーが揃いも揃って映えるものばかりなので。ゲームも『ウイニングイレブン』のネット対戦で世界中の人々を相手にやっていて、そこで『世界が相手なんです!』って熱弁を振るえば振るうほど冷ややかな目で見られるんですよね……」
◆新しいことに挑戦するも……
一応、4月頃に何か新しいことを始めようと思い立ち、フライパンを購入しコンビニエンスストアで売られているカットされた野菜を炒めてみたのだが、これが『美味しんぼ』の海原雄山なら裸足で逃げ出すほどのすさまじいシロモノに。ベッチョベチョなのに、ところどころが半生で嫌な歯応えがあり、適当に調味料を入れたところ、なぜか味が薄かった。
それでも残すのは嫌なので無理してすべて平らげた。そこに費やした時間をひとことで表すと「苦行」になるのだという。まるで野菜炒めがまずかったのはフライパンの実力不足だと言わんばかりに後上は以後、二度と使っていない。
初日で見切りをつけた料理と比べると、ネットゲームの方はこの期間中に世界規模でフィールドが広がった。料理やプラモデルや家の中でやることは目の前にあるものだが、こちとら地球上が舞台とあってスケールも大きい。にもかかわらず、どうしてそれをドヤ顔で語ると「シーン」となってしまうのか。
「昔から似たようなことを思っていました。小さい頃、図工や体育が得意というと微笑ましいのに、逆に算数が得意で図工は空の絵を描けと言われて青一色で『空です』と言い張って出したって話すと、ヤバいやつと思われてしまうんですよね。科目が入れ替わっただけなのに、なんで?
勉強は全部0点でも、体育が得意だと『さすがはスポーツマン!』とか褒めてもらえる。平等じゃないの、そこは? 駆けっこが得意な子と勉強ができる子は同列であるべきだと思っていたのが蘇ってきて、そんな不条理さを夜な夜な感じる時間が増えました」
面白いことに、この疑念に関して後上はすこぶる熱く語っていた。他人にはそこかよ!と突っ込まれてしまう内容であっても、真顔で訴えるあたりがおじさん3人と違う妙味であり、人間臭さなのだと思いながら耳を傾けた。
◆一番年下でありながらの“動じなさ”
学生時代に3ヵ月ぐらいかけて一つの作品を作る課題を出され、木を切っただけで「まな板」と称して提出し、先生に怒られると「だって受験には出ないですよね」と面と向かって言った人間である。合理的な発想に基づいた上で他者と違ったことをやるのは、むしろエンターテインメントに携わる上でフックとなり得る。
世の理不尽さを改めて噛み締める時間を過ごしつつ、後上は3月17日にNHK『うたコン』で19日ぶりにステージを踏んだ。曲目の『愛をください~Don’t you cry~』は、この時点でまた3回ほどしかパブリックな場では歌っていなかった。不安とともに、無人の客席による情景が違和感を生じさせる。
それでも精神的ハンディを感じることなくできたのは、後上が本能的に物事を「これと比べたらまだいいのではないか」と考えられる性分の人間だから。この連載を見続けている者ならばそこにある種の強さや、一番年下でありながらの“動じなさ”が感じ取られるはずだ。
「ガランとしたNHKホールの風景は寂しさを拭えなかったですけど、もしも通常通りお客さんがいたら緊張していただろうなとも思ったんです。久々のステージで、ほとんどやっていない曲を満員の前で歌うとなったらテンパっただろうな……だとしたら、この状況で助かったのかもしれないって。そこから今、目の前にある風景はこれまでとはまったく違う別の何かというように感じて、やることができました。
いつもと違うことがハンディになり、逆に救いにもなりで、プラマイゼロということですね。あれが慣れている『プロポーズ』だったら、当たり前の光景とのギャップでもっと不安になっていたのかもしれません。ほぼ初めての曲を初めての環境でやるということだからある種、気持ちの整合性はとれていたんだと思います」
◆無観客配信ライブで感じたこと
イレギュラーなシチュエーションの中、ライブパフォーマンスをする上でどのように気持ちを保つか。それを後上は2020年に培った。いや、その場その場で対応力が必然的に磨かれたと表した方が適切か。
東京お台場 大江戸温泉物語における無観客配信ライブでも1曲目のイントロが流れ、幕が上がると観客が座っていない座席よりもその後方に陣取るマスコミへと目がいった。そこは自然と、人の気配の方に意識が引っ張られたところもあっただろう。
「そうか、あの人たちをニヤニヤさせればいいんだ」
小田井涼平は「ある意味、あの日は集まってくださったマスコミの皆さんとの勝負だった」と言った。それに対し後上は、誤解を恐れずに書くと“責任感担当”とは違う。
自分がベストなパフォーマンスするための意識の持っていき方は、本人に委ねられる。じっさいそれによって、無観客であるがゆえのやりづらさに呪縛されることなくできた。
◆僕らは球種で言えば3つ、ダルビッシュような七色の変化球は投げられない
「幕が上がったらペンライトが振られていないとか、小田井さんいつも通りガーンと攻めているのに響いていないなあとか一瞬、思うんですけどすぐに違う違う、これもちゃんと響いているんだ、意外とそうでもないんだって思いながら、客席の中へ降りていきました。そのエアラウンドもカメラに向けて手を差し出すと、スッと手を出してくださるマスコミさんもいて、いつも通りなんだなと思えた。
結局のところ、僕らはそんな器用にいろいろできるわけではないので、今まで通りに投げるしかないんですよ。球種でいったら3つぐらいしかないのに、いきなりダルビッシュさんのような七色の変化球なんて投げられない。選択肢がない分、悩まずに済んだところはあったと思います。あそこで無観客用に味を変えていつもと違う表現ができたら、もっと電卓を弾くんでしょうけど」
通常、ラウンドでソロ曲を歌う場合は全曲ツーコーラスにサイズを切って、トータル10分ほどの尺にしている。だが、あの日は4曲すべてフルで回ったため約16分に及んだ。
有観客の時でさえ、16分もラウンドをやると回りきってしまうためステージに戻るなどして間を持たせるのに、そこにオーディエンスがいないとなると何周したらいいのか、パフォーマンスを続けつつ考えなければならなかった。案のじょう、後上はエアラウンド開始1曲目で「あ、もう尽きた」と思った。
◆ファンとのふれあいが役立った
それでも慌てる素振りは微塵も見せることなく、どうするかとなった段階で足がマスコミスペースへと向かっていた。球種は3つしかないと言いつつも、ファンとふれあう中で積み重ねてきたことが無人の客席で役立った。
「お客さんもシンプルに握手する方が喜んでくれる人もいれば、こちらが一回無視して素通りすると『ちょっとお!』と返すような絡みを楽しむ人もいたりで、そういう“味変”は今までもしてきたことなので。カメラを持っている方に対し、どうやったらちょっとでも撮りたい絵に近づくかなとか、強く意識しようとしなくてもそういうことは考えながらやっていました。
あそこでマスコミさんの方にいくことが違和感のない純烈だとしたら、そこはいくでしょ……と。今まで培ってきたものから著しく逸脱するのではなく、むしろ培ってきたものの延長線上だから、ちゃんとつながっている。僕は意外と楽しかったな、いい汗かいたなって思えました。終わったあとの囲み取材も純烈マダムがいる時と似た空気感でやっていただけたんで、赤点ではなかったかなと思います」
この2020年も昨年、一昨年と同じペースでライブを続けていたら、別の成長を望めただろう。しかし、こうした状況だからこその伸び方もあるし、無観客ライブの経験は11・5渋谷公会堂でも生かされた。
2021年は、メンバーがそれぞれ吸収したものを形にしていく点での4WAYマッチとなる。その中で「コロナ禍前と違う何か」をまとえるのは、じつは後上なのではというのが、現時点における正直な思いなのだ。
撮影/ヤナガワゴーッ!
【鈴木健.txt】
(すずきけん)――’66年、東京都葛飾区亀有出身。’88年9月~’09年9月までアルバイト時代から数え21年間、ベースボール・マガジン社に在籍し『週刊プロレス』編集次長及び同誌携帯サイト『週刊プロレスmobile』編集長を務める。退社後はフリー編集ライターとしてプロレスに限らず音楽、演劇、映画などで執筆。50団体以上のプロレス中継の実況・解説をする。酒井一圭とはマッスルのテレビ中継解説を務めたことから知り合い、マッスル休止後も出演舞台のレビューを執筆。今回のマッスル再開時にもコラムを寄稿している。Twitter@yaroutxt、facebook「Kensuzukitxt」 blog「KEN筆.txt」。著書『白と黒とハッピー~純烈物語』が発売
―[ノンフィクション連載「白と黒とハッピー ~純烈物語」]―
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