<純烈物語>「苦労を素っ裸で投げたら重くなる」後上翔太の純烈観<第73回>

日刊SPA! / 2020年11月28日 8時30分

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―[ノンフィクション連載「白と黒とハッピー ~純烈物語」]―

◆<第73回>苦労を素っ裸で投げたら重くなる――後上が考える「ちゃんと純烈をやること」

 11月13日に純烈は有観客によるコンサートツアーの再開を発表。もちろん現状を鑑みると予断は許さぬものの、延期となっていた全国ツアーのうち’21年1月7日の相模女子グリーンホールを皮切りに5公演が確定した。

 無観客ライブ、観客1人のコンサートと、段階を踏んできたわけだが、通常とは違う形でのステージを経験してみて改めてわかったことが、後上翔太にはあった。それは「自分たちは、お客さんによって及第点にいけたんだな」との思いだ。

「たとえ配信ライブを定期的に何度もやっていたとしても、そんなにいろんな曲を今までもやってきたわけではない。そこはセットリストの組み方で変化をつけてきただけで、それ以外に無観客だからバリエーションをつけなければとなったら、たとえばアコースティックVer.でやるとかそれぐらいのことで、僕らのやれることによる大きな変化というのは、そこまではないんです。

 じゃあ、今日はよかったとか及第点だったなって何を持って思えるかというと、お客様が目の前にいてくれる状況で何かをやって得られるものだったんだなと。今日はミスったとなっても、ラウンドや終演後の握手で喜んでくださるそのリアクション込みで、その日のライブの評価を自分の中で出せていた。反省点が残ったとしても、あの瞬間に『今日は及第点かな』って思っていたんだよなって、改めて感じました」

 ライブの出来のバロメーターである、オーディエンスのリアクションが目の前から消えた。それは、観客のいないテレビ番組で歌う時と似た感触でもあった。

 ダイレクトな反応がないシチュエーションになると、後上は自分の実力不足を感じてしまうのだという。テレビの場合、スタッフは各自の役割に集中しているから、自分が今やっているパフォーマンスの良し悪しを見極める“物差し”を得られぬ中での歌となる。

 それをライブごとに味わっていたら、日々の中でだいぶ打ちひしがれていた。けれども、観客と接することでそうした辛さを感じずにやってこられた。

「仕事をするたびに力不足を痛感するところを、お客さんの反応によって味わわずにいられた部分は大きかった。そこで落ち込むのではなく、これってみんなが感じることなんだろうな、だったら甘んじてそれを感じて、その上で課題として挑むところと諦めるべきところに分けてしまおうと。全部追いかけてクリアしようと思っても無理なんだから、ハナからその山には登りませんというのがあってもいいと思えたんです」

 登らなくてもいい山と認識できたから、ライブができなかった間も枯渇感には陥らなかった。これは、純烈そのものが「俺の生き甲斐は音楽なんだ! 俺たちの生きる道はステージだぜ!!」というアーティスティックなテイストのグループではなかったのが大きいと後上は分析する。

◆「年内はライブをやらない」と決断できた理由

 自己表現の手段として、音楽一筋の姿勢でやっている人間ほどステージに立てないのはこたえる。それに対し純烈はもともとが素人集団のスタートであり、そこへのこだわりよりも観客を楽しませる方がプライオリティーとしては上にあった。

 バリバリの音楽家としてステージを奪われたら耐えきれなかった。早い段階で酒井一圭が「年内はライブをやらない」と決断できたのも、ならばほかの形でファンに喜んでもらおうというコンセンサスがメンバーやスタッフにあったからだ。

 ライブをやらないことで忘れられてしまうという不安や、ファンに会いたいとの思いは当然あった。それでも、いい意味で割り切れたことにより「無観客も渋公の配信ライブでも、大事だからこそやるからには考えなきゃいけないというところでのバランスは取れていた」

 有観客ライブ再開までに費やす時間は、ファンにやっと会えたと思ってもらえるほどの熱量を生成するための積み重ねの場と、後上は受け取っている。祭りにいく前、浴衣を羽織る時のワクワク感のようなものを両手いっぱいに抱え込んで、幕の前で待っていてほしい。

◆苦労にどういう服を着させて、客に投げるか

「それを頭に描いてほかの仕事をやっていましたね。クイズやお芝居に呼んでもらって、そこでドスベりしても『あの時、必死にやっていたあの人と会うんだ』ってなるじゃないですか。今は開発期間であり研究機関であり、充電期間であり。充電期間は休み明けになるわけで、そこでくたびれていちゃ絶対にいけない。

 こういう状況だからと頭を抱えて深刻に悩んでいては急に元気にならないと思うので、ある程度お気楽というか、解き放った部分を持っておかないと、お客さんに苦労ばかりが伝わってまた違うものになってしまう。苦労はしてもいいけど、それにどういう服を着させてお客さんに投げるかだと思うんで。素っ裸のまま投げつけたら重い!ってなるでしょ」

 後上からその言葉を聞いた瞬間、息を飲んだ。実はこの連載を続けてきた中で、常にこびりついている葛藤を的確に突かれたからだ。

◆純烈のカラーとは真逆のことをやっているのかもしれない

 ノンフィクションとして通常ではあまりクローズアップされない部分を掘り下げていくと、やはり悩みや苦しみ、苦労といったネガティブなものに行き着く。純烈はポジティブなエンターテインメントを提供するグループだから、普段は表に出さないようにしてしかるべきなのだ。

 もしかすると、純烈のカラーとは真逆のことをやっているのかもしれない。それは、ずっと意識の中にあった。

 だからこそ必要以上に重くならぬ表現、書き方を心がけてきたのだが、白川裕二郎の苦悩や小田井涼平の姿勢に心を揺さぶられると、その輪郭をより濃く描いてしまう。味わってきた苦労を口にすることなくメンバーたちがやっているのに、それを台無しにしてはいまいか。

 メンバーもスタッフも「純烈丸」に乗っている人たちは取材に対しいつでも協力的である。原稿チェックで修正が入ることもほとんどない。こちらが興味を抱いて掘り下げようとすると、それに見合った言葉を返してくる。

 苦労を素っ裸のまま投げたら重いとなる――おそらくこれは、後上が先輩たちから教え込まれたのではなく、自身の感性によって導き出したものだろう。実力不足を認識しても、そこでネガティブな方向へいくことなくプラスに持っていける人間だから、いい形でファンとの間合いが取れているのだと思う。

 誰もが明確な“この先”を見極めるのが難しい時代だ。他者に答えを求められぬ中、自分自身で思考しなければ生き残れない。末っ子のお気楽極楽なキャラクターであっても、後上は人前に立つ表現者として頭を巡らせてきた。

◆リーダー酒井の血筋を受け継ぐもの

「有観客ライブを再開するにしても、ソーシャルディスタンスを取って5割ぐらいの客席数にする形がすべてのエンターテインメントの標準となっている。それでも純烈はやらない方がいいのか、あるいはそこで世間とは違う形を見せるのも選択肢の一つだと思うし、その局面やその日によってどういうチョイスがベターなのか、変わってくるのが今ですよね。

 そこは、昨日まで白だと思っていたことが今日は黒と平気で言える酒井さんらしさが武器になってくるんだと思います。リーダーなら、やらないといっていたことも1ヵ月後の世相の中で考えを変えられる。今さら『あの時、やらないって言ったからやらないんだよ』なんて言われたら、チョイチョイ!ってなるじゃないですか」

 独自の感覚で物事を見極めつつ、リーダーの血筋は受け継いでいる。趣味が映えずとも、力不足を味わいつつも、そしてファンとの再開まであと少し時間がかかろうとも、後上は「ちゃんと純烈をやること」を忘れずにコロナ禍の中で生きてきた。

 有観客ライブ再開後は、より後上が考えるところの純烈が具現化される――それが話を聞きながら抱いた予感だった。

◆コロナ下でハマった食べ物

 それでは白川編に続き、この状況下でハマった食べ物を聞いたので、翔ちゃんマニアへお伝えする。これがまた、見事なまでの合理的発想の達人っぷりがいかんなく発揮されたものだった。

「自分はネットでうまいものを調べて食べにいくよりも、お腹が減っている時に温かいものを食えれば基本おいしいんです。ベストなタイミングで食事ができるのが、牛丼。これまでは仕事がある時にお弁当であったりとかみんなで食べにいったりとかだったのが、こうなると自分のタイミングで食事できる。それが牛丼でした。

 5分待って牛丼と、1時間待っておいしいものだったら前者の方がおいしいんですよ。食べるものの内容も大事だけど、自分のお腹の減り具合が味覚には大きく作用する。牛丼の尊さを改めて感じました。あの速さですからね。的確に自分の腹のすき方にマッチしてくれるじゃないですか」

 お腹をすかした翔ちゃんが牛丼にありつく姿が映えるか否か。純子&烈男の皆さん、各自想像してみてください。

撮影/鈴木健.txt

【鈴木健.txt】
(すずきけん)――’66年、東京都葛飾区亀有出身。’88年9月~’09年9月までアルバイト時代から数え21年間、ベースボール・マガジン社に在籍し『週刊プロレス』編集次長及び同誌携帯サイト『週刊プロレスmobile』編集長を務める。退社後はフリー編集ライターとしてプロレスに限らず音楽、演劇、映画などで執筆。50団体以上のプロレス中継の実況・解説をする。酒井一圭とはマッスルのテレビ中継解説を務めたことから知り合い、マッスル休止後も出演舞台のレビューを執筆。今回のマッスル再開時にもコラムを寄稿している。Twitter@yaroutxt、facebook「Kensuzukitxt」 blog「KEN筆.txt」。著書『白と黒とハッピー~純烈物語』が発売

―[ノンフィクション連載「白と黒とハッピー ~純烈物語」]―

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