大麻草をアパートで栽培した男は「成長を見て感動した」と話した<薬物裁判556日傍聴記>

日刊SPA! / 2021年1月10日 15時50分

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イラスト/西舘亜矢子

 556日間薬物事案の裁判を傍聴した斉藤総一さんによる法廷の記録。前回紹介したのは、大麻草17株を栽培し、また大麻76.17gを所持した容疑で逮捕された井上功一被告のケースだった。そして、今回取り上げるのは井上の友人で共犯者の北村拓也だ。

 なお、北村は井上と同様の容疑に加えて普通自動車の無免許運転でも逮捕されている。大量の大麻を栽培&所持していた事件だが、傍聴記では2人の答弁の曖昧さが目立つ。井上は検察官から「少し声が小さいので、なるべく大きな声で答えるように」とたしなめられ、北村は裁判官に「被告人は耳が聞きづらいんですかね?」と確認されたという。それでももちろん裁判は粛々と続き判決はきっちりと下されるのである。

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※プライバシー保護の観点から氏名や住所などはすべて変更しております。

◆高校中退後、配管工として暮らしていた男の大麻栽培記録

 最初は例によって検察による起訴状の朗読から始まります。

検察官「平成28年6月4日付、起訴状公訴事実。被告人は井上功一と共謀のうえ、みだりに平成28年1月下旬頃から同年3月20日までの間、さいたま市浦和区橋場2-13-40 野菊荘201号室において、ロックウールに大麻の種子を播種して、発芽させるなどしたうえ、これらを植木鉢に移植し、水、肥料を与え、照明器具で光を照射する等して、大麻草17株を育成し、もって大麻を栽培し、同年3月20日、前記場所において、大麻である乾燥植物片76.17gを所持したものである。罪名および罰条、大麻取締法違反、第1、同法第24条1項、第2の2第同法24条の2第1項。全事実につき、さらに刑法60条(共同正犯のこと)」

 また、無免許運転の起訴状も読み上げられます。

検察官「平成28年6月14日付起訴状公訴事実。被告人は公安委員会の運転免許をうけないで、平成27年11月2日、午後10時18分頃、埼玉県さいたま市浦和区新町479-3付近道路において、普通乗用自動車を運転したものである。罪名および罰条、道路交通法違反、同法第117条の2の2、第1号、64条1項。以上です」

 これら事実について、被告の北原は「間違いおよび訂正はない」と答えました。続いて検察の冒頭陳述をいくつかのパートに分けて見ていきましょう。

検察官「検察官が証拠によって証明しようとする事実は以下のとおりです。まず被告人の身上経歴などですが、高校中退後、配管工などをして生計を立て、逮捕時は配管業を自ら営んでいました。婚姻歴は1度あり、逮捕時は住居地において妻子と生活をしていました。窃盗の前歴1件、少年時のもの。無免許運転の罰金前科2犯を有するほか、速度違反等の交通違反歴7件を有します」

 身上経歴からは不良というより、単純にかなり人生への見通しというか、脇が甘い印象を受けます。続きを見ましょう。

「犯行に至る経緯および犯行状況など。平成28年7月5日付け公訴事実、平成27年5月頃、中学校の同級生である井上功一から、井上の自宅で大麻を栽培している話を聞き、その後栽培した大麻から採れた乾燥大麻を使用したことがありました。被告人および井上は規模を拡大して、大麻栽培することを話しあい、平成28年1月下旬頃から、井上が借り受けた公訴事実記載のアパートの一室で大麻草の育成を開始しました。
 被告人および井上は、同室の5畳間の洋間において、四方と天井にアルミフィルムを貼付して、照明の強度を増幅させ、植物育成ライトをタイマー付きコンセントに接続して照明時間を管理していたほか、脱カルキ剤や、園芸用の二酸化炭素発生剤を設置して、大麻草の育成を促進させるなどして、大麻栽培を行っていました。
 その際、被告人および井上は、それぞれ自らの費用で、大麻栽培の資機材を購入するなどしていました。また被告人および井上は、同室でいつでも大麻を使用できるよう、前記アパートの台所の流し台上部の物入れ台に、大麻である乾燥植物片を、それと認識したうえで保管していました」

◆大麻を栽培しながら無謀にも無免許運転

 こうして彼らがどのように大麻を栽培し所持していたのかが克明に語られます。テレビやネットニュースで摘発後に押収された大麻の鉢や器具などを見ることがありますが、法廷では大麻の栽培手順が発表されているかのようです。そして、もう一つの交通違反については以下の通りです。

「平成28年6月14日付公訴事実。被告人は平成24年1月6日、無免許等の交通違反により、免許取り消し処分を受けてから、公安委員会の運転免許を受けていませんでした。被告人は平成27年11月2日、無免許で約3.1km走行したのち、警察官から職務質問を受けて、本件犯行が発覚しました」

 それにしても違法に大麻を栽培しながら前歴のある無免許運転を繰り返すのは、よほど緊張感がないように見えます。しかし、一応北村にもそれなりに事情があったようです。弁護士による被告人質問を見ましょう。

弁護人「無免許運転について聞きますね。北村さんは、過去にも無免許運転で、罰金を2回受けていますよね?」
被告人「はい」
弁護人「何で今回また運転してしまったんですか?」
被告人「飼っていた犬の去勢手術をした帰りに、飼っている犬がすごくツラそうな声を出していて、妻が抱っこしたいというので交代しました」
弁護人「そのあと北村さんが運転したということですか?」
被告人「はい」
弁護人「いったん車を停めればよかったんじゃないですか?」
被告人「そうなんですけど、一刻も早く家で様子を見たかったので運転してしまいました」
弁護人「どれくらいの距離を運転してしまったんですか?」
被告人「警察と距離を測ったときは3.1kmということを知りました」

 仮に初犯であればまだ同情の余地もあり、不運だったと嘆くこともできそうな理由ですが、累犯なので「懲りない人」という印象を拭えないのが残念なところです。肝心の大麻についてもただ所持したのではなく、友人と共謀し育成していたわけで、取り調べも甘くなかったと推察されます。この裁判の日まで被告はかれこれ100日近く拘留されているのです。

弁護人「北村さん、勾留されてからどれくらい経ちましたか?」
被告人「今日でちょうど3か月です」
弁護人「拘留中はどんなことを考えていました?」
被告人「妻と子供のことを毎日考えていました」
弁護人「拘留中は何が1番ツラかったですか?」
被告人「妻と子供に会えないことです」
弁護人「そういうツラい思いをしたうえで、大麻について、どうお考えですか?」
被告人「二度と関わりたくないですし、見たくもありません」
弁護人「無免許で運転することはどう思いますか?」
被告人「免許が取れるまでハンドルも握りたくないです」
弁護人「北村さん、反省文をいっぱい書いていますよね? 私も毎日書いてくださいとは言わなかったんですけど、何で毎日これだけの量を書いたんですか?」
被告人「自分のした犯罪がすごく嫌で、すごい罪の意識があって、申し訳ないと思ったからです」
弁護人「今日もこれから書くんですか?」
被告人「書いてきました」
弁護人「今日の朝ですか?」
被告人「はい」
弁護人「反省文に、奥さんと子供について毎回書かれているんですけど、いま奥さんに対して、どういう風に思っていますか?」
被告人「裏切ったことを本当に申し訳なく思っていますし、子供が産まれたばかりで育児も家事も大変なのに、1人でやらせてしまっていることを、大変申し訳なく思っています」
弁護人「小さいお子さんに対してはどう思っていますか?」
被告人「1回しかない成長を、この目で見れないことが、とても申し訳ないと思っています。ちゃんとした父親になりたいです」
弁護人「北村さん、僕が子供と奥さんの写真を見せたときにすごく泣いていましたよね? あのとき何を考えていたんですか?」
被告人「会いたかったです」
弁護人「実家のご家族にも迷惑をかけていますけど、実家の方にはどう思いますか?」
被告人「今回の犯罪以外にも色々と迷惑をかけているのに、心配してくれて、とてもよい家族を持っていると思いますし、もう二度と迷惑をかけたくないです」

◆「アパートで育つ大麻を見て感動していた」

 被告に反省を促すというより、被告が真に反省しているのだと演出するかのような質問です。これが検察の質問になると、まただいぶ矛先が変わります。

検察官「それでは質問をします。まず、井上さんが大麻の栽培をしているのを知ったのはいつですか?」
被告人「1月の初めです」
(中略)
検察官「1月以前、大麻の栽培に関して、井上さんとは、どんなことを話していたんですか?」
被告人「規模をデカくしたいということを聞いていました」
検察官「あなたが栽培に関わることによって、あなたにはどんなメリットがあったんですか?」
被告人「その大麻を吸えるっていうメリットがあったと思います」
検察官「あなた自身も吸おうと思っていたんですね?」
被告人「やめたっていうのは本人達には言っていなかったので、吸えると思っていたと思います」
検察官「あなた自身は吸うつもりは一切なかったと?」
被告人「なかったです」
検察官「そうすると、あなた自身の認識として、メリットは何があったんですか?」
被告人「正直、捕まるまでアパートに通っていたときに成長過程をみて感動していました。毎日行くたびに成長していることが」
検察官「あなたは大麻栽培用の照明器具を購入していましたよね? 購入した時期はいつですかね?」
被告人「2月だと思います」
検察官「どのような方法で購入したのですか?」
被告人「電話で購入しました」
検察官「お金は井上さんからもらわなかったんですか?」
被告人「もらっていません」
検察官「自分のお金を先に出して購入する必要はなかったんじゃないですか?」
被告人「はい。そうですね」
検察官「大麻を栽培していた野菊荘201号室にはあなたと井上さん以外にも出入りはありましたよね? 誰が出入りしていましたか?」
被告人「春日と馬淵と山木と江口です」
検察官「いま名前を挙げた4人は、どうして野菊荘に行くことになったんですか?」
被告人「みんな僕が連れて行ってしまいました」
検察官「あなたどうして連れて行ってしまったんですか?」
被告人「4人とも大麻を吸っていて興味があったんで、連れて行ってしまいました」
検察官「あなたは4人に対して、大麻を吸うよう勧めたことはありますか?」
被告人「馬淵に対しては勧めたことがあります」
検察官「馬淵だけですか?」
被告人「はい」

◆「植物の成長を見ていただけで吸うつもりはなかった」

 検察の被告人質問はこれでおよそ終わりです。前回は主犯と見られる(栽培していた部屋の賃貸契約主)井上功一の法廷劇を紹介しましたが、井上は随分苦しい弁明に追われていました。「仕事の資材置き場として北村にアパートの鍵の場所を教えた。大麻を育成していたと話したわけではないが、北村もわかっていたと思う」と言ったうえで「北村がそこで何をしていたかは知らない」と話します。
 
 一方の北村は井上と共謀したことを認めますが、「栽培に関わるメリットは大麻を吸えることだが、自分は吸うつもりはなかった」と答える。ただ植物の成長を見るのが嬉しかったから関与したというのです。検察官の「子供の出産を控えているのに(犯罪とわかって吸いもしない大麻を育てる理由は)?」という疑問はもっともでしょう。

 被告人がそれについて納得のいく答弁をせずとも、初犯での大麻取締法違反の量刑は決まっており、北村もその例に漏れません。

裁判官「被告人、証言台に立ってください。主文、被告人を懲役3年に処する、この裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予する(後略)」

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 主犯の井上の求刑が懲役3年執行猶予4年だったのに比べ、北村は5年。交通違反分が加算されているのかもしれない。余談だが弁護人に「自発的に毎日反省文を書いているそうだが今日も(裁判後)書くのか?」と聞かれ、「すでに書いてきた」と答えた北村は少しドヤ顔だったそうだ。

<取材・文/斉藤総一 構成/山田文大 イラスト/西舘亜矢子>

【斉藤総一】
自然食品の営業マン。妻と子と暮らす、ごく普通の36歳。温泉めぐりの趣味が高じて、アイスランドに行くほど凝り性の一面を持つ。ある日、寝耳に水のガサ入れを受けてから一念発起し、営業を言い訳に全国津々浦々の裁判所に薬物事案の裁判に計556日通いつめ、法廷劇の模様全文を書き残す

―[薬物裁判556日傍聴記]―

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