菅首相が「選挙に勝てない総裁」と判断されたらどうなるか?/倉山満

日刊SPA! / 2021年1月11日 8時30分

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昨年9月14日、自民党総裁選を終えた(左から)岸田文雄前政調会長、安倍晋三前首相、菅義偉首相、石破茂元幹事長。’21年、菅首相は総裁でいられるのか…… 写真/時事通信社

―[言論ストロングスタイル]―

◆財務省は鉄壁の防御で、景気対策のための、財政出動を阻止する布陣だ

 昨年は世界中がコロナ禍に明け暮れた1年だった。

 その中で我が国では、長く続きすぎた安倍晋三政権が退陣し、菅義偉首相に事実上の禅譲がなされた。コロナ対策に関して、菅首相は「安倍政権の方針を引き継ぐ」と宣言している。当分は、右往左往するだろう。

 コロナ禍で経済は落ち込み、自殺率も上がった。特に女性の自殺率は激増であり、飲食業や観光業は悲鳴をあげている。この経済苦を和らげるためには財政出動で現金給付などの政策が必要なはずだが、財務省が握る財布の紐は緩まらない。

 その財務省で、驚天動地の人事が行われたのをご存じだろうか。財務省ナンバー4の阪田渉官房総括審議官が財務総合政策研究所長に左遷された。しかも国会会期中、予算編成作業の真っただ中に。阪田氏は、5年以内に官僚のトップである財務事務次官に就くと見られていた逸材だが飛ばされた。代わって総括審議官に就いたのが、新川浩嗣元首相秘書官だ。新川氏も財務省のエースと目されており、安倍内閣の末期の首相官邸に入り込み、財務省悲願の消費増税10%に貢献した。

 政治のプロでもなかなか知らない人事だが、度重なる財政出動圧力にさらされている財務省で強烈な引き締めが行われたのだ。財務省は鉄壁の防御で景気対策のための財政出動を阻止する布陣だ。

 覚悟しておいた方がいい。

 昨年は検察人事で揉めに揉めた。安倍前首相は桜を見る会の疑惑で不起訴になったが、菅首相は「安倍再登板」を警戒している。検察にとっても悪夢だ。菅首相は弱小派閥しか率いていないので、政権の難しいかじ取りを迫られるが、検察が表舞台に出てきたときは政争が激化していると見た方がいい。

◆世界に目を移すと…

 さて、世界に目を移すと、大国の指導者が交代する。一つはアメリカ。1月にジョー・バイデンが大統領就任式を行う。

 台頭する中国が取って代わるのを警戒はするだろうが、バイデン政権の最優先事項は環境問題である。バイデン政権は「第七艦隊を動かすと地球環境を汚染させる」などと言い出す勢力も抱える。対中包囲の手綱が緩むと見做して構えておくべきだろう。

 もう一つはドイツ。この国は、アンゲラ・メルケル首相の後継問題に明け暮れることとなる。今のドイツはヨーロッパの要だが、中国やロシアに対する態度がどうなるかは、我々日本人の関心事でもある。

 そのロシアは、中国との同盟を堅持しつつ、ヨーロッパには強く出ている。宿敵のトルコなど、今やウラジーミル・プーチン大統領と盃をかわすかの如き態度だ。

 昨年、トルコの手下のアゼルバイジャンが、ナゴルノカラバフ紛争を起こし、勝利した。ナゴルノカラバフはアルメニアに奪われていた土地だが、アゼルバイジャンは取り返した。この動きの背後には、アルメニアがロシアから離れNATOに接近しようとしたのを看取したトルコとアゼルバイジャンが、プーチンの了解を得て紛争を仕掛けたとされる。このような紛議がロシアの周辺では多発しているのだが、プーチンは舎弟の手綱を引き締め直すだろう。

◆「選挙に勝てない総裁」と、もし菅首相が判断されたら、「菅おろし」の動きも見えてくる

 さて我が日本はどうか。菅首相がコロナ対策を「断固たる信念で風任せ」である以上、不況対策には移れない。しかし、政治日程は容赦なく押し寄せてくるし、重要な選挙が目白押しだ。

 まず4月には、補欠選挙がある。逮捕された河井元法相夫妻の後釜を狙い、与党の自民党と公明党が割れている。連立の行方にも関わりかねない亀裂だ。

 7月初旬には、東京都議会議員選挙がある。公明党と創価学会が最も重視する選挙だ。6月末にずれ込むかもしれないが、いずれにしても都議会議員選挙の前後3か月、つまり半年は解散総選挙が打てない。仮に菅首相が解散を断行しても、創価学会の十分な支援が得られないので、与党が苦戦するので、事実上はこの半年は解散権が封印されているのと同じだ。

 7月にはオリンピックをやるらしい。どんな形になるかは不明だが、内外のしがらみでやめる訳にはいかないとか。パラリンピックの終了が8月の予定で、その頃には秋の政局に向けての動きが活発になっているはずだ。

 9月は、自民党総裁の任期切れだ。今の菅首相(自民党総裁でもある)は、安倍前総裁の任期を引き継いでいるだけだ。その時に支持率がどうなっているか? もし「選挙に勝てない総裁」と判断されたら、菅おろしの動きも見えてくる。その時の自民党は、10月の衆議院任期切れまでに新総理総裁に代え、その御祝儀相場で選挙をやって政権を維持する、と考える。日本の政治家の絶対の原則は「自分は落選したくない」だ。安倍前首相が長期政権を築けたのは、すべての国政選挙に勝ったからだ。つまり自分を当選させてくれる総理総裁だから、引きずり降ろすはずがない。そして安倍政権では、緩やかながらも景気回復をしていた。菅内閣で、景気回復の望みは薄い。

◆「枝野理想シナリオ」に致命的な穴

 ここで夢を見ている人物がいる。枝野幸男、立憲民主党代表だ。自民党は「どんな失政をやらかしても、いつもの民主党が守ってくれる」と思っているだろうが、景気が悪い時は別だ。リーマンショックの時は、国民が自民党を与党から叩き落とした。枝野氏は、その再現を狙っている。自民党が国民に呆れられた時、野党第一党党首の地位にいれば政権が転がり込んでくると本気で考えている。その為に野党内政局を勝ち抜き、衆議院の候補者を頭数だけでも揃えてきたのだ。

 だが安心できる要素がある。「枝野理想シナリオ」には致命的な穴がある。仮に衆議院選挙を勝利しても、参議院の圧倒的第一党は自民党なのだ。ねじれ国会になる。だから、2022年に行われる参議院選挙の勝者こそが日本政治を制するのだ。

 なお、’22年11月にはアメリカ議会の中間選挙がある。これを勝てば、バイデン政権は真の本格始動だ。バイデンの公約はそのまま実行すれば破滅するような内容だ。共和党が勝てばレームダックに追いやれる。つまり、2年後にバイデンは、「破滅」か「公約破り」か「レームダック」なのだ。ならば、日本が力を回復していれば、大チャンスだ。

 他人事のように眺めるのではなく、どうするべきかを考えよう。

【倉山 満】
’73年、香川県生まれ。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中より国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務め、’15年まで日本国憲法を教える。現在、「倉山塾」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰し、大日本帝国憲法や日本近現代史、政治外交について積極的に言論活動を行っている。ベストセラーになった『嘘だらけシリーズ』のほか、最新著書に『保守とネトウヨの近現代史』がある

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