創業87年の銭湯が登録有形文化財に。店主が守り続けてきた「場」とは

日刊SPA! / 2021年2月6日 15時50分

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東京・高円寺にある銭湯「小杉湯」(写真提供 小杉湯 以下同じ)

 東京・高円寺にある銭湯「小杉湯」が、国の登録有形文化財に登録された。

 歴史的な建築だけでなく、施設全体として若者に人気となっている「小杉湯」だが、その魅力は一体何なのか? 店主の平松佑介さんに話を聞いた。

◆小杉湯とは?

――小杉湯の歴史を教えてください。

平松さん:昭和8年創業で今年で87年目です。建物は創業当時のままで、それを改築とか手を入れてこの建物を残し続けているんです。

――87年と思えないほど綺麗ですね。

平松さん:(小杉湯をはじめた)祖父の代からの我が家の家訓が『綺麗で清潔で気持ちのいいお風呂』なんです。それが、2代目の父、3代目の僕に伝わっているということです。

――建物が古いと、それを保つのも大変だと思いますが。

 平松さん:小杉湯は、他の銭湯に比べて掃除の時間がすごく長いんです。番台と脱衣所だけで毎日3時間掃除して、閉店後には浴場を2時間かけて掃除してるんですよ。

◆登録文化財に申請した店主の思い

――今回、なぜ登録有形文化財に申請しようと思ったんですか?

 平松さん:祖父の代から建て替えをすることなく、毎日修繕しながら手を入れながら守ってきたんです。そして僕も、50年100年とこの先も続いて欲しいと思っています。登録有形文化財の申請は、覚悟を持ってこの場所を守っていこうという想いを、4代目5代目にも示す意味もありました。

――銭湯はどんな場だと感じていますか?

 平松さん:僕は、家業が銭湯だったので、毎日このお風呂に入っていましたし、ここが遊び場でした。その中で、いろんな世代の方と挨拶をしたり雑談をしたりする環境がありました。

――SNSなどでの、趣味の合う同世代とばかりのコミュニケーションとは違いますね。

平松さん:そうですね。それに今は、先にその人の名前や職業を知っちゃうじゃないですか。でも、銭湯に来てるおじちゃんたちの名前は知りません。それでも挨拶や会話をするという、中距離的なコミュニケーションの場なんですよね。その「場」をこの先も保っていきたいと思いますね。

◆伝統の中でアップデートされる小杉湯

――そんな中、小杉湯には若いお客さんも多いと聞きます。その理由はなんだと思いますか?

平松さん:各家庭にお風呂がなかった時代は、銭湯がケ(日常)だったんですよ。でも、家庭にお風呂が出来てから銭湯が廃れていくようになりました。

――一方で、スーパー銭湯などは台頭しましたね。

平松さん:銭湯の体験は、スーパー銭湯のようにハレ(非日常)の体験に変わっていったんですね。

――その中で、小杉湯はどういった立ち位置にいるんですか?

平松さん:僕は、銭湯を「ケの日のハレ」と定義するようにしました。ケ(日常)の中に、ハレ(ちょっと幸せな瞬間)が作れるようにということですね。

――そのために、どんなことをされていますか?

平松さん:ちょっといいアメニティを置くようにしています。

――銭湯にはシャンプーなどが置いてないところも多いですし、置いてあってもいわゆる業務用というところがほとんどですよね。

 平松さん:それだと、ちょっと幸せな瞬間にならないんですよね。なので、待合室のドリンクも、コンビニや普通の自販機では買えないものにしたり、アイスもご当地アイスを置いています。

◆日々、場所に愛情をかける

――老若男女に愛される小杉湯という「場」を保つために、今後何が必要だと思いますか。

平松さん:やっぱり、日々、場所に愛情をかけることです。日々の掃除をきちんとして、自分たちにできないところは大工さんにお願いしてやってもらう。この繰り返しですね。

――労力も経費もかかりますね。

平松さん:正直、建て替えてしまった方が格段にメンテナンスは楽だし安上がりだと思うんですよ。だけど、ずっとみんなが守って来た大切なものなので、この先もずっと大切にしたいですからね。

――「場」に、こだわりがあるんですね。

平松さん:コミュニティという文脈で銭湯が語られる時って「人と人」になるんですけど、それだと苦しくなることもあります。だから、銭湯では「場所と人」のコミュニケーションを大事にしたいんです。銭湯って、番台でお金を払ってから、お客さんは全部セルフサービスで、僕らが何かサービスを与えていることはほとんどないんですよ。人と人だとお互いに評価をし合っちゃうけど、場所は人を評価しませんよね。場所を整えておくことで、自然発生的に人が緩くつながって循環して行くようにしています。

 歴史を重ねながら、令和の時代にも寄り添っていく小杉湯。是非、湯に浸かり、店主がこだわる「場」を体感して欲しい。<取材・文/Mr.tsubaking>

【Mr.tsubaking】
Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。

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