1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 社会

「バッハ会長、あなたはウソつきだ」本人を直撃した記者が伝えたかったこと

日刊SPA! / 2021年7月29日 8時50分

写真

東京都庁を表敬訪問したバッハ会長(右)から花束を受け取る小池百合子・東京都知事(左)

◆「バッハ会長、あなたはウソつきだ!」と叫んで会場からつまみ出される

 IOC(国際オリンピック委員会)のバッハ会長がオリンピック開幕前の7月14日、菅首相との会談で「我々が日本国内にリスクを持ち込むことは絶対にない」と語った。さらにバッハ会長は、首相会談直後の囲み取材でプレイブック(ルールブック、感染対策指針)違反の報道について問われても「報告は届いていない」と答えた。このことが「まったく事実と違う」と、オリンピック開幕後も批判され続けている。

 翌15日、バッハ会長を直撃するチャンスがやってきた。都庁での小池百合子知事会談の冒頭が報道陣に公開されることになったのだ。ただし取材可能なのは小池知事らに挨拶するまでの15分間で、質疑応答の時間はなし。会談後の囲み取材も予定されていなかった。

 来日して以降、バッハ会長は一方的に発言するばかりだった。記者クラブ所属の記者にはわずかながら質問の機会があったものの、筆者のようなフリーランスの記者にはまったく質問の機会が与えられてこなかった。そこで、バッハ会長から69歳の誕生日を祝う花束を受け取った小池知事が記念撮影を始めたタイミングで、筆者は大声を張り上げたのだ。

「President Bach! You are liar! Airport is dangerous! Bubble is broken!」
(バッハ会長、あなたはウソつきだ! 空港は危険だ! バブル方式は破綻している!)

 この後も「あなたは“平和の使者”ではない。五輪(強行による感染拡大)で多くの日本人が亡くなるかも知れない。空港で案内役の女性スタッフはワクチン未接種で感染の恐怖に脅えていた」と続けようとした。しかし、すぐに都庁職員に腕をつかまれて強制退場させられてしまった。

 小池知事に対しても「バッハ会長を追及しないのですか。羽田空港の水際対策はザルです。都民の命は二の次なのですか?」という声掛け内容を用意(メモ書き)していたが、質問を発する機会を奪われてしまった。

◆筆者は「報道陣にまぎれた男」「自称ジャーナリスト」と報道された

 なお都庁報道課は「ハフポスト日本版」の取材に対して「取材活動は構わないが、(筆者がしたような)運営に支障が出る行為は困ります」と説明している。しかし、写真撮影自体が困難になったわけでも、続く冒頭挨拶に支障が生じたわけでもない。むしろ、「プレイブックが守られていない」ということについては、オリンピックを都民の命を守る責任がある小池知事が追及するべきことであったとも言える。

 バッハ会長は筆者の直撃に対して平然としていた。「申し訳ないが、何を言っているのか理解できない。言いたいことがあったら書いて渡して下さい」と述べるだけだった。

 バッハ会長への声掛けを含む面談の様子は実況中継(生放送)され、複数のテレビ局が録画映像としても流したが、筆者の声掛けの目的を紹介するメデイアは皆無に等しく、「男性乱入」と不審者が紛れ込んだかのような印象を与える記事が少なくなかった。

 例えば、15日の『デイリースポーツ』が「『お前は嘘つき! 空港は危険だ』叫び強制退場」という見出しで「報道陣にまぎれた男」が叫んだと報じると、『スポーツニッポン』も「IOCバッハ会長に『おまえは嘘つきだ!』男が叫び強制退場」と銘打って「ジャーナリストと称する1人の男性」が強制退場されたと伝えた。

 さらにはテレビ朝日も「自称・ジャーナリストの男性」と紹介するなど、速報として伝えたメディアの中で、筆者に声掛けの理由を直に聞いたり「フリージャーナリスト」という肩書で以前から取材活動を行っていることを確認したりする記者はいなかった。

◆羽田空港では、五輪関係者の動線は完全に分けられていなかった

 バッハ会長への声掛けのきっかけになったのは、7月6日の野党国会議員による羽田空港の視察だった。五輪総点検ヒアリングチームを発足させた野党議員はすぐに、五輪関係者の来日が本格化していた羽田空港の水際対策を現地でチェック。「選手や大会関係者らが入国する際の空港内の動線は、一般の搭乗客などと完全に分けられている」と語っていた菅首相のウソを暴いた。視察後の会見で長妻昭・元厚労大臣は、安心安全を保証する“バブル方式”(五輪関係者の行動エリアを限定して、一般日本人との接触を回避する)の欠陥をこう説明した。

「(五輪関係者と一般日本人が動線で分けられている)入国の手続きの外を出てしまうと、そこで混じってしまう。一番驚いたのは、トイレやコーヒースタンド。見送りに来ている一般の日本国民と、新規入国者がトイレもコーヒースタンドも同じものを使えてしまうのです」

 羽田空港2階の到着ロビーで取材をしていると、バブル方式が破綻していることはすぐに確認できた。長妻氏が問題視していたコーヒー店に英国人報道関係者がいたので、「コーヒー店の利用は禁止されていないのですか?」と声をかけると、「NO!(禁止されていない)」という回答が返って来た。そこで「(店内に)日本人がいて、感染のリスクがある」と指摘したが、「私は知らない。『空港全体がバブル』と日本政府が言っている」と言い張った。

 トイレが共用可能であることも確認した。五輪関係者の一団の後をついて行くと、そのうちの一人が駐車場のすぐ近くのトイレに入っていったのでその後をついて行き、隣で用を足すことができることも確認した。

◆羽田空港の日本人スタッフは感染拡大を危惧していた

 そこで、空港内にいた警備員に海外五輪関係者と日本人の混在ぶり(バブル方式の穴)を伝えてみた。するとその警備員は、「危惧しています」と問題があることを認めた。

 到着ロビーの1階下のエレベーター前には、「東京2020」と書かれた青いユニフォームを着た案内役の若い女性が立っていた。同じ階のハイヤーやタクシー、バス乗り場へと誘導するガイド役をしていた。彼女に「ワクチンを打ちましたか」と聞くと、「まだです」と答えた。

――けっこう危ないですよね。
女性ガイド:そうですね。
――(来日五輪関係者に)感染した人が紛れ込んだりして、接触してしまったら。
女性ガイド:怖いですね。ワクチンの接種券は届いているのですが、7月末から8月頭に予約開始みたいで、それまでは(ワクチン接種は)できないので……。

 これはまるで“現代版学徒動員”だ。ワクチン未接種の若者が感染の恐怖に脅えながら、五輪関連業務の最前線に送り込まれていたのだ。

「我々が日本国内にリスクを持ち込むことは絶対にない」と断言したバッハ会長に対して「あなたは嘘つきだ」と叫んだのは、羽田空港での現地取材で“バブル方式”が破綻していることを確認していたからなのだ。筆者は、多くの日本人が不安に思っていること、疑問に思っていることをぶつけ、バッハ会長がそのことについてどう考えているのかを問い質したかった。

◆広島訪問のバッハ会長を直撃するため、広島空港へ

 しかしバッハ会長は、筆者の声掛けの主旨を理解することもなく、自らの発言を訂正する素振りも見せなかった。そこで翌7月16日、広島訪問予定のバッハ会長への再直撃を狙って、広島空港で待ち構えることにした。都庁での直撃が途中で遮られたため、言い残してしまった文言をぶつけてみようと思ったのだ。

 16日10時すぎ、広島空港にはすでに報道関係者が駆けつけていた。地元テレビ局の記者は「バッハ会長が有観客を菅首相に提案したことについて聞いてみたい」と意気込み、その後に私も続こうと思っていた。しかし、警備体制は予想以上に厳しかった。

 報道陣がVIP用空港出口に近づけないように広島県警の警察官が規制線を張り、バッハ会長に声が届く範囲への接近を阻んでいたのだ。到着時間が近づくと、出口の前に黒いバンが横付けされて、一瞬バッハ会長の横顔が見えた。しかし、5秒足らずで車内へと乗り込んでしまった。

 バッハ会長が平和記念公園で献花した後、湯崎英彦知事や被曝者らと面談した時も、厳戒態勢は続いていた。普段は誰もが入れる平和記念公園への立ち入りが、その時間帯は禁止されていたのだ。

 そのためバッハ会長の広島訪問に抗議する市民有志は、献花台に最も近づける公道に集合して、マイクを使ってデモ行進を始めた。「バッハは広島を利用するな! 広島は命を大切にする。命を大切にしないバッハは帰れ! 人殺しオリンピック反対。“ぼったくり男爵”は帰れ!」という訴えが大音量で繰り返され、「Go out Bach(バッハは出ていけ)」と連呼していった。

 デモを主催した久野成章氏は終了後、囲み取材で地元記者から「今日は人類初の核実験が行われた日ですが、その日にバッハ会長が訪問されたことはどう思いますか」と聞かれて、こう答えた。

「バッハ会長には、その日についてまったく知識がないということです」

◆「日本は独裁国家に逆戻りしてしまったのか」との錯覚に陥った

 広島では二度目のバッハ会長直撃はできなかったが、東京五輪公式映画監督を務める河瀬直美監督と話をすることができた。平和記念公園近くのホテルで待機している時のことで、「バッハ会長と同じ便で広島入りをした」という河瀬監督に、緊急事態宣言下での五輪開催について聞いてみたのだ。

――緊急事態宣言下での五輪開催についてはどう思われますか?
河瀬監督:大変ですね。こんなところでオリンピックをやれるのも、やる国も日本ぐらいなのかなと思ったりします。反対の意見もたくさんありますが、こんな状況でもやるというのは、他の国ではできないのではないでしょうか。
――独裁国家に近いような……。政府が(反対意見を)抑え込んでいると。
河瀬監督:ありがとうございます。

 羽田空港でも広島でも、日本が民主主義国家から一昔前の独裁国家へと逆戻りしたかのような錯覚に陥った。バッハ会長は17日の来日後初の記者会見でも「コロナ対策は機能している」と発言した。こうした事実とは異なる「安心安全」が強調されたまま、情報公開も不十分で取材の自由もない。そして、菅首相と小池知事らは下僕のようにバッハ会長に付き従い、国民の不安や中止・延期を望む声を無視してオリンピックの開催を強行した。日本人の命が軽んじられる異常事態は、いつまで続くのだろうか。

 なおバッハ会長への声掛けは、小池知事の“記者排除”の産物でもある。筆者は都知事会見で「排除」発言を引き出した2017年9月以降、3年9か月にわたって質問者として指されていない。そこで筆者は、会見終了直後に退出する小池知事に向かって声掛け質問を続けてきた(横田一著『仮面 虚飾の女帝・小池百合子』の冒頭で紹介)。短いフレーズでインパクトのある言葉をぶつける経験を重ねてきたことが、バッハ会長への声掛けに役立ったのだ。

文・写真/横田 一

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング