1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 社会

ジェネリック医薬品の供給が「不安定」になった理由とは?メーカー幹部からは怒りの声

日刊SPA! / 2021年10月31日 8時51分

写真

爪水虫薬に睡眠導入剤の成分が誤って混入した事件で謝罪する小林化工の社長(中央)

日本の医薬品市場は世界3位の規模を誇るが、コロナワクチンの開発では日本の製薬メーカーは完敗した。それだけではない。ここにきて目に余る不祥事も続発している。今、この業界で何が起きているのか? 気鋭のジャーナリストがその闇に光を当てる。

◆医療業界で続発する不祥事と政府による薬価引き下げ政策

「いつものお薬、在庫が切れているので、今回は同じ成分の、別のお薬に変更となりました」

 かかりつけの医師が出してくれた処方箋なのに、薬局でこんな“言い訳”を耳にする機会が増えていないだろうか?

 実は今、医薬品業界で、静かに、そして、ゆっくりと、大きな地殻変動が起きている。コロナ禍の喧騒にかき消されているが、この1、2年の間で、ジェネリック(後発医薬品)を中心に薬の供給が極めて「不安定」になっているのだ。

 確かに、数年前から薬の流通が滞るアクシデントはあった。だが、今回の供給不足はその比ではない。なぜなら、慢性心不全の標準治療薬として用いられる「ビソプロロール」や副腎皮質ホルモン製剤の「デカドロン錠」(デキサメタゾン)、さらには、新型コロナ感染症の血栓症や人工透析にも使用される抗凝固薬「ナファモスタット」といった、命にも直結するキードラッグも多く含まれているからだ。

「ビソプロロール」は今年7月、供給が一時停止。最小限の影響でとどめる代替薬もあるが、高血圧症や不整脈、狭心症といった基礎疾患の心臓負担を軽くする重要な薬であるため混乱が広がった。

 日本薬剤師会が’21年8月25日付で公表した「ジェネリック(後発医薬品)の供給状況」に関するアンケートによると(回答数166薬局)、入手困難となっていた医薬品は実に3173品目にも上る。市場から姿を消した理由は「出荷調整」が最多で、回答中7割が「入手困難」を訴えた。

◆出荷調整で消えたジェネリック
※9月30日時点

・ビソプロロール(沢井、サンド、テバ、トーワ、日医工、日本ジェネリック)
心臓を休ませ、血圧を下げる薬。高血圧症のほか、狭心症や不整脈、慢性心不全の治療に使う。業界大手企業の供給不調が原因

・デカドロン錠 ※デキサメタゾン(日医工、セルジーン)
新型コロナ感染症の免疫暴走抑制。リウマチや喘息等にも使う。強力なステロイド系抗炎症薬で、コロナ禍において需要拡大

・エルデカルシトールカプセル(沢井、日医工)
骨粗しょう症治療薬。副甲状腺機能低下症の治療薬でもあるアルファカルシドールへの切り替えによる玉突き供給不足が問題視された

・ヘパリン(エイワイファーマ、沢井、日新等)
血液凝固阻止剤。新型コロナ感染症の治療の現場でも活躍。カテーテル時の血栓の溶解に使われる。妊娠時の不育症で薬不足が深刻

・プロポフォール(日医工、マルイシ、ファイザー等)
全身麻酔・鎮静用剤 主に手術用だが、新型コロナ感染症の人工呼吸器・ECMO使用時に使う。これによって需要が拡大した

◆薬価の強引な引き下げが薬の供給不足を招いた

「ここ数年、薬の製造停止や出荷停止、自主回収、出荷調整などの問題はずっと続いていましたが、そこに新型コロナ感染症による需要の変化や輸入薬の製造トラブルが直撃しました。今後、短期で出荷再開できるものもありますが、長期にわたって供給の目途が立たない薬も少なくない。すでに薬局では、薬剤師が医師に同種・同効薬に代えてもらえないかと変更を依頼するケースがかなりあると聞いています」

 日本薬剤師会で常任理事を務める有澤賢二氏は、供給が滞っている現状をこう分析する。

 だが、なぜ今、このような異常事態が起きているのか? これには、国が半ば強引に推し進めてきた「薬価の切り下げ政策」が大きく関係している。

 少子高齢化の影響で社会保障関連予算は年々増大しており、医療費も診療報酬はすでにギリギリまで切り詰められているが、薬価もこの流れを受けて予算削減の格好の標的となっている。

 加えて、昨秋の菅政権誕生をきっかけにその締めつけが一段と厳しくなった。菅義偉首相(当時)が昨年10月に行った所信表明演説で、これまで2年に一度だった薬価の改定(事実上の引き下げ)を毎年実施すると表明。これを裏付けるかたちで、今年4月、1万7600品目ある薬のおよそ7割が価格を引き下げられたのだ。

 そもそも医師の処方箋が必要な薬の価格は、政府によって事実上“独占的”に決められている。そのため、日本の製薬会社は、長年にわたって薄利多売を強いられてきたと言っても過言ではない。

 日本の大手製薬会社10社の研究開発費の平均は1485億円(’17年)だが、これだけのコストをかけてもペイできず、すでに細菌感染症の治療で広く使用されている「セファゾリン」(抗菌剤)など多くのキードラッグが原価割れする事態となったのだ。

 薬価切り下げ政策の影響は計り知れない。その最たる例が、世界に後れを取った新型コロナウイルスのワクチン開発と言えよう。「ゲームチェンジャー」として期待されたmRNAワクチンの開発はファイザーやモデルナなど米国の製薬会社が先行したが、実は、かねてより日本の第一三共と東大医科学研究所も共同研究を続けていたのだ。

 だが、予算の都合で’18年に予定していた模擬ワクチンの臨床試験は頓挫。今なお開発に至っていないという経緯がある。

◆製薬業界を巡る不祥事は起きるべくして起きた!

 薬が市場から消えた要因はほかにもある。ここ最近、医薬品業界で頻発している不祥事がそれだ。

 昨年12月、睡眠導入剤が誤って混入した「爪水虫の薬」を服用した後に70代の男女2人が死亡。15人が自動車・転倒事故等に遭ったとする事件が起きた。中堅医薬品メーカー・小林化工が製造販売する経口抗真菌剤「イトラコナゾール錠50『MEEK』」を巡るこの事件は、当時大きく報じられたが、同社の若い社員が夜中に「ワンオペ」で作業していたところ、同じ棚の睡眠薬の原料を誤って混入させてしまったことが原因だった。

 医薬品の製造管理と品質管理に関する基準(GMP)に照らすと、この薬の製造は原則2人で行うことが明記されているため、明らかなルール違反に当たる。だが、この事件は見方を変えると、経費削減でギリギリまで追い詰められた製薬業界で、起きるべくして起きた“悲劇”とも言えるのだ。

 小林化工の小林広幸元社長は、事件を受けて開いた会見でこんな悲痛な胸の内を吐露している。

「今は、製造販売を中止するという判断をすべきだったと考えている。当時は、医療用医薬品は患者の生命に直結する、市場から一気に500品目の供給を止めるということはできないと判断をした」

 つくっても、つくっても儲けは出ない。だが、薬を安定供給しなければ多くの人の生命にも関わる事態になる……。製薬会社としての社会的責任を全うしようとするあまり、やむなく「ワンオペ」の作業を黙認してきた苦渋の思いが垣間見えるのではないか。

 立ち入り検査の結果、183品目が別の工場で製造する等、承認書通りの製造が行われていなかったことも判明。福井県は合計12品目の承認を取り消し、116日間の業務停止処分と業務改善命令を通達した。

 だが、製薬会社を巡る不祥事はこれにとどまらない。下記をご覧いただければ、医薬品業界がいかに追い詰められているかが一目瞭然だろう。

◆製薬会社不祥事

・’19年12月 協和発酵バイオ
抗がん剤・マイトマイシンを承認時と異なる原材料、手順で製造。GMP・薬機法違反で18日間の防府工場の業務停止・業務改善命令を受けた

・’20年6月 武田薬品
米国FDA(食品医薬品局)が無菌製造・管理不適合として警告し、乳がんや前立腺がん治療薬リュープリンなどが一時製造中止。供給不安が続く

・’21年2月 小林化工
爪水虫薬「イトラコナゾール錠」に睡眠導入剤を誤って混入。健康被害245人を出し、GMP・薬機法違反で116日の業務停止処分・業務改善命令

・’21年3月 日医工
品質試験の「不適合品」を再処理して出荷。品質管理体制にも不備。医薬品医療機器等法(薬機法)に基づく32日の業務停止命令

・’21年8月 久光製薬
サロンパスホットを製造する際に規格外着色料を使用していた。医薬品製造販売業として4日間、鳥栖工場は8日間の業務停止命令

◆医薬品メーカーの幹部の怒りの声

 今年3月には、業界大手の日医工が同じGMP違反で32日間の製造販売業の業務停止命令という行政処分を受けている。6月1日~7月13日には、厚労省が沖縄県を除く46都道県のジェネリック製薬工場に一斉に立ち入り検査を実施。GMP違反で摘発される製薬会社が相次いだ。

 問題なのは、この大掛かりな摘発劇をきっかけに、多くの製薬会社が自社の薬を自主回収する動きを強め、薬の製造も見合わせるようになったことだ。もちろん、その影響はすぐさま露見した。新型コロナ感染症の第5波が拡大し、治療に必要な麻酔薬(人工呼吸器やECMOで使う)や抗凝固剤、解熱鎮痛剤などの需要が高まるなか、薬の増産どころか、薬の自主回収や出荷停止で供給不足が加速する事態となったのだ。

 ある医薬品メーカーの幹部が筆者に話してくれた、諦めにも似た怒りの声が印象的だった。

「供給が滞れば他剤で凌ごうと全国の薬局で取り合いが起き、既存の卸先優先で供給制限がかかるのは当然のこと。私たちは薬の許認可や薬価算定の権限を持つ厚生労働省には逆らえません。ですが、薬価削減でメーカーが安全確保に資金投入できなくなるほど追い詰めておきながら、ジェネリックだからほかの同種・同効薬があるからいいじゃないかって……。今の混乱を生んだのはすべて厚労省の無作為ですよ」

 政府による強引な薬価の引き下げ政策は、薬の安全性も、安定供給も蔑ろにするものなのだ。

写真/朝日新聞社

【小笠原理恵】
おがさわら・りえ◎国防ジャーナリスト、自衛官守る会代表。著書に『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』(扶桑社新書)。『月刊Hanada』『正論』『WiLL』『夕刊フジ』等にも寄稿する。雅号・静苑。@riekabot

―[消えたジェネリック医薬品]―

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

ミッション中・・・

10秒滞在

記事を最後まで読む

ミッション中・・・

10秒滞在

記事を最後まで読む

10秒滞在

記事を最後まで読む

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください