今日打ち上げ「H3ロケット」は7年遅れ…日本の宇宙開発“致命的な遅延”をもたらした理由
日刊SPA! / 2024年6月30日 8時50分
◆内閣府の誤算だった、ロケット技術の喪失とスペースXの台頭
しかし、内閣府は2つのことを見落としていた。ひとつは、「技術というものは開発を続けていなければ簡単に失われるものだ」ということである。
日本は1985年から94年にかけて完全な新型ロケットH -Ⅱを開発した。その後H -Ⅱの低コスト版H -ⅡAと、打ち上げ能力増強版のH -ⅡBを開発したが、共に完全新規開発ではなかった。そしてH -Ⅱでロケットの新規開発を経験した技術者は2010年代半ば以降、順次引退していく。このままいけば、経験者から若い技術者への技術継承ができず、日本はせっかく獲得した技術を喪失することになる。
もうひとつは、「革新的技術の開発次第では、従来では不可能なほどの低コスト化と大量打ち上げが可能になる」ということだった。2007年にファルコン1ロケットの打ち上げに成功した米スペースX社は、ファルコン9ロケットの開発に取りかかっており、しかも第1段を再利用しようとしていたが、内閣府の視野にスペースXの野心は入っていなかった。
ただしこれを全面的な内閣府の失策とするのは若干酷ともいえる。というのも、2008年から10年の段階では、日本だけでなく欧州もまた、スペースXを甘く見ていたからである。前述した通り、当時欧州では、スペースXに関して「お手並み拝見」、もっと露骨に言えば「宇宙は甘くないぞ。やれるもんならやってみろ」という雰囲気だった。
◆ようやく始まったものの、7年遅れた「H3」
新ロケット開発に向けた議論は、2012年7月の新体制本格始動から始まったが、内閣府が宇宙利用に固執した結果、1年遅れた。JAXAと産業界は「ここでロケットを新規開発しないと、日本から技術が失われる」と訴え、やっと2014年から新ロケット「H3」の開発が始まった。最初2010年頃に開発開始という想定からは4年遅れである。技術継承という点では、首の皮一枚、ぎりぎりのところでなんとかつながったというタイミングだった。
H3は当初2020年初号機打ち上げ予定だったが、新規開発の第1段主エンジン「LE -9」の開発が難航して2年延びた。加えて、2023年3月の初号機打ち上げが失敗し、原因究明と対策に1年をかけ、2024年2月、2号機が打ち上げに成功した。
ここでの遅延が3年。着手までの遅延6年を加えると当初想定より7年遅れたことになる。
その間に、スペースXは、ファルコン9の第1段の再利用を達成し、再利用による打ち上げ機会増大を使って従来とは桁違いの衛星数の通信衛星コンステレーション「スターリンク」の打ち上げを始め、さらに超巨大なスターシップの開発に手を付け、技術開発を突き詰めることで、それまでの世界の宇宙開発をひっくり返してしまったのである。
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