「追懐」うながすドキュメンタリー~阪神85周年記念公式映画封切り

スポニチアネックス / 2020年2月14日 17時42分

『阪神タイガース THE MOVIE』が上映されたTOHOシネマズ西宮OSには「憧球 31」として掛布雅之氏のサインが書かれていた

 【内田雅也の広角追球】飛行機の機内誌が好きだ。読むと言うより、ヘッドホンで音楽を聞きながら、眺めるのが習慣になっている。

 プロ野球キャンプ取材の沖縄から休暇のため12日、西宮の自宅に帰ってきた。行きは1月号だった日本航空(JAL)機内誌『SKYWARD』は2月号になっていた。必ず読む浅田次郎の『つばさよつばさ』でクスッと笑い、ページを行ったり来たり繰っていた。

 中ほどに『旅する日本語』というコーナーがあった。放送作家・脚本家の小山薫堂の連載で、毎号1つのことばを紹介している。

 「追懐」とあった。

 「ついかい」と読む。<昔をなつかしく思い出すこと。追想>と意味が記され、小文が付されている。

 大学に入学した息子のアパート探しに夫婦がそろって久々に上京する。<初めてデートした映画館。よく待ち合わせをした喫茶店。ケンカのきっかけとなった歩道橋>。青春時代を過ごした街を巡る<小さな旅>は<最高に幸せな時間となった>とあった。

 新たに知った「追懐」という言葉は、幸せを意味しているのだなあ、と思い、機内誌はかばんに入れて持ち帰った。

 さて、14日昼前、西宮の自宅から最も近い映画館、TOHOシネマズ西宮OSに出向いた。この日封切りの映画『阪神タイガース THE MOVIE~猛虎神話集~』を観るためだ。「球団創設85周年記念 公式ドキュメンタリー映画」とうたっている。

 「神話」はバックスクリーン3連発(1985年)、江夏豊のノーヒットノーラン・サヨナラ本塁打(1973年)、吉田義男、藤田平、平田勝男、鳥谷敬らのショート列伝から昨季最終盤の怒濤(どとう)の6連勝まで8題。ナビゲーターに掛布雅之、阪神ファン歴70年近い石坂浩二がナレーションを務める。

 甲子園球場に最も近い映画館、封切り初日の初回上映だが、平日の昼間である。入りは2~3割といったところか。人数は数えることができた。

 客層は高齢の方が目立った。2席前方では独りで来ていた銀髪の老婦人が上映前にパンフレットを読んでいた。目の前を「えらい、すみませんなあ」と言いながら、列の中央の席に陣取った上品な老夫婦がいた。恐らく40歳代の女性2人組は大きなポップコーンを手にしていた。

 日ごろ、甲子園球場で見かける阪神ファンとはずいぶん風情が違っている。笛やラッパや太鼓に合わせ、メガホンを振り、叫ぶ。時に痛烈なヤジを飛ばす。そんな激しい姿はなく、誰もが静かにスクリーンに見入っていた。そして、目は輝いていた。

 あれは、何かを懐かしんで見ている目ではないか。そうか。皆、追懐しているのである。

 銀髪の老婦人は1985年の優勝を今は亡き、若き日の夫とともに祝ったかもしれない。老夫婦は江夏がシーズン最多奪三振を王貞治から奪った瞬間(1968年)を甲子園のデートで観ていたか。女性コンビは金本知憲や赤星憲広が活躍した2003、05年優勝当時、同じ職場で歓喜していたろうか。野球には、阪神の歴史には、ファンそれぞれの思い出が刻まれている。「野球は記憶のスポーツ」というのは何も選手だけでなく、ファンにも言えることだ。

 映画の監督を務めた石橋英夫は西宮市出身らしい。少年時代は「阪神タイガース子供の会」に入っていたそうだ。甲子園球場が<遊び場だった>とパンフレットにある。

 <それぞれのタイガースに対する思いを納得、そして共有することができるように構成・演出することを心がけました>と記している。

 「六甲おろし」とともにエンドロールが流れ、場内が明るくなった。皆、いい顔をしている。まさに「追懐」で幸せになれる時間だった。=敬称略=(編集委員)

 ◆内田 雅也(うちた・まさや) 沖縄には再度19日に入る。例年、この「中抜け」の間にキャンプでの調整が驚くほど進む。今年は昨年より9日も開幕が早く、調整ピッチも速い。次に見る時は3月並みの状態だろうと楽しみにしている。今月12日で57歳となった。大阪紙面で――近年はスポニチアネックス、今月からスポニチ虎報でも――掲載の『内田雅也の追球』は14年目を迎えている。

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