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【昭和の甲子園 真夏の伝説(1)】名電・工藤 浮いて落ちる“魔球”で金属バット時代初の快挙

スポニチアネックス / 2022年8月6日 10時3分

長崎西戦でノーヒットノーランを達成し、帽子を掲げる名古屋電気・工藤公康

 甲子園の熱い夏が始まった――。第104回全国高校野球選手権が6日に開幕。幾多の名勝負が繰り広げられた聖地で、今年はどんなドラマが生まれるのだろうか。今回は「昭和の甲子園 真夏の伝説」と題して、今も語り継がれる伝説の試合を10回にわたってお届けする。

 夏の甲子園に金属バットが導入されてから8年目、歴史的な記録が生まれた。1981年(昭和56年)愛知・名古屋電気(現愛工大名電)のエース工藤公康(元西武など)が導入後初めてのノーヒットノーランを達成した。2回戦(初戦)長崎西相手にキレのいい速球とタテに割れるカーブで16奪三振。初回に与えた四球と1失策。73年、北陽(現関大北陽・大阪)の有田二三男以来の快挙となった。後にプロ通算224勝。名球会、野球殿堂入りする名投手が全国デビューした試合だった。

 

~浮き上がって落ちるカーブ 長崎西から三振の山~

 1メートル76、70キロ。投手として体格に恵まれているわけではない。だが、左腕から繰り出される投球に誰もが息を飲んだ。速球が伸び、カーブは1度浮きあがってからストーンと落ちた。長崎西ナインのバットが面白いように回った。

 初回先頭の江頭に四球を選ばれ、続く吉岡に送りバントを決められる。1死二塁。ここから奪三振ショーが幕を開けた。3番・野下は外角直球で空振り三振。4番・萩はカーブで空振り三振。2回先頭の松尾哲のバットも外角に落ちていくカーブに空を切った。これで3連続。立ち上がりの緊張も和らぎ、工藤が乗った。

 以前からカーブは得意な球種だったが、愛知代表となり関西入りしてから大きな変化があった。練習時間に制限があり宿舎で時間をもてあましていたとき、左手の指先でボールをポーンと挙げる動作を繰り返していた。その中で、独特のボールを「抜く」感覚が指先に残った。練習で試すと落ちとキレが格段によくなった。

 3回、自らセーフティーバントの処理を誤り出塁を許したが、ご愛敬。毎回の三振と内野ゴロ、力ない内野飛球。8回を終わって13奪三振。外野に飛んだ当たりはわずかに1つだけだった。

~報徳・金村、早実・荒木の陰で注目されなかった大会前~

 大会前「注目される投手」の上位に工藤の名はなかった。人気では2年生の早実(東東京)荒木大輔と「沢村2世」と呼ばれた京都商(現京都先端科学大学附属高)の井口和人。実力派といわれたのは福島商の左腕・古溝克之、秋田経大附(現ノースアジア大学明桜)の松本豊。打者としても評価が高かった報徳学園(兵庫)金村義明にも注目が集まっていた。

 名古屋電気は春2度、夏1度の甲子園出場経験があったが、工藤入学後、54年夏は愛知大会決勝で敗退。2年時の55年夏は準決勝で敗退している。55年秋も県大会で西尾東に敗退。これで工藤の闘志に火が付いた。学校と合宿所の13キロの通学コースを毎日走って通った。3年生で迎えた最後の夏、愛知大会の本命は3季連続の甲子園を目指す大府だった。エースは後に巨人にドラフト1位指名され、完全試合、日本シリーズMVPなどを獲得する槙原寛己。この年のセンバツでは金村擁する報徳学園を快速球で牛耳りプロから熱い視線を送られていた。

 「打倒・大府」と意気込む工藤に試練が待ち受けていた。7月26日の5回戦・東邦戦。3回、打席に立った工藤は顔面に死球を受けた。ボールは右まぶたの上を直撃し、流血。試合は23分間中断した。背番号1のユニホームは血に染まった。その時の傷はプロに入っても消えなかったほどだ。工藤は周囲の心配を振り切って試合に戻った。ハンカチで血をぬぐいながら投げた。東邦に4安打完封勝利。準々決勝は阿久比に快勝。大府は準々決勝で古豪・中京(現中京大中京)に敗退した。名電は準決勝、決勝と接戦を制し、最後のチャンスで夢の舞台に立つことができた。

~9回2死 8度首を振った102球目 歴史を刻んだ~

 6回には女房役の4番・山本幸二(元巨人)が左翼へ中押しとなるソロアーチをかけた。9回にもダメ押しとなる2点を追加。その裏、工藤がマウンドに向かうと、甲子園のスタンドはざわめいた。あと3つのアウト…。工藤の表情は変わらない。先頭の寺岡を外角カーブで空振り三振。続く別宮もカーブで三振。最後は1ボール2ストライクから1球ファウルの後、捕手・山本のサインに8度も首を振った。ようやくうなずいて投げたこの試合、102球目。ブレーキ鋭いカーブに江頭のバットが回った。

 金属バットの打者28人に1本の安打も許さず16奪三振。歴史的なノーヒットノーラン達成。はにかみながらマウンドを降りてきた工藤は山本の手を握った。

 「きょうはカーブがよくキレていた。ウォーミングアップから調子がよかったし、自信を持ってマウンドを踏めた。でも、まさか…。初めての記録ですし、最高にうれしい」

 ヒーローの傍らで山本は「サインに首を振ったのではないんです。カーブは決まっていた。あれは相手を惑わす工藤の作戦だったんです」と種明かしをした。名古屋電気・中村豪監督は「冗談で“早く打たれろ”と声をかけたぐらい。あいつは明るい性格でチームの人気者。一生懸命に練習した努力がこの結果を生んだんでしょう。本当によくやった」と夏の甲子園初勝利を喜んだ。一方、長崎西の斎藤監督は「力不足です。4回あたりからこれは打てんと…。選手には打席の前に立たせ早いカウントで外角の

直球を狙わせたが、カーブにきりきり舞いさせられた。直球も手元で伸びるし予想以上に工藤君はよかった」と脱帽だった。

~阿久悠氏 甲子園の詩「懸河のドロップ…少年名投手」~

 作詞家の阿久悠氏はスポニチ本紙の「甲子園の詩」で工藤のカーブを「落ちるカーブ いやいや昔流に それはドロップといわせてほしい もっというなら 懸河のドロップ」と称し、工藤の出現を「大器とか、逸材とか、目玉といった評価とは違った。少年名投手の感じがして好ましかった」と書いた。

 青空の甲子園に童顔で大きな眼、不思議な魅力を持つニュースターが誕生した。

~劇的進撃、準決勝はライバル金村との死闘、56奪三振~

 3回戦に進出した工藤は北陽と対戦。後に西武でチームメートとなる高木宣宏と投げ合い1―1のまま延長へ。12回主将の中村稔のサヨナラホームランが飛び出し劇的勝利。工藤は4安打21奪三振無四球、失点1、自責0の内容で8強をつかんだ。149球の熱投も工藤は「延長に入ってからはボクがしっかりしなければという気持ちが心から湧いてきた。ちょっと力んだけど11、12回は落ち着いて投げられた。ベンチに帰ってくるたびに18回やってもいいぞとみんなにいっていました。ホームランは中村が打ったんだけどボクが打ったようにうれしかった」と笑みを浮かべた。準々決勝は志度商(香川)。工藤は5回右翼へ甲子園1号。自らのバットで先制すると2安打12奪三振の完封勝利を挙げた。

 3試合で49奪三振、防御率0・00。準決勝は早実・荒木を撃破した報徳学園の金村が相手だった。7回まで毎回先頭打者を出塁させる苦しい投球。7回には金村にダメ押しの二塁打を浴びた。12安打3失点で敗戦。通算奪三振は7つ加えて56。「上腕が棒のようになっていた。優勝はしたかったけどいい体調を維持することがいい投手の条件。それができなかったんですからしょうがない」この時、工藤公康18歳。フィジカル面を重視し48歳までプロ現役を貫いた男らしい言葉を残して聖地を去っていった。

~盟友ナベQも同じ日、甲子園で投げていた~

 ○…工藤がノーヒットノーランを達成した81年8月13日、縁がある2人の投手も甲子園のマウンドに立っている。「名古屋電気―長崎西」の前に行われた第1試合で後に西武で左右の両輪となり黄金時代を築いた前橋工(群馬)渡辺久信(現西武GM)が先発している。1年生エースの渡辺は10奪三振5失点。9回サヨナラで京都商に敗退した。また第3試合では福岡大大濠の森山良二が先発。こちらも後に西武で同僚になる右腕だ。森山は1失点で函館有斗(現函館大有斗)に完投勝利。3回戦鎮西(熊本)に負けたが存在感を示した。工藤は81年ドラフト6位、渡辺は83年1位、森山も86年1位で西武に入団。88年は3人揃って2桁勝利(渡辺15勝、工藤・森山とも10勝)同年日本シリーズでも3人揃って勝ち投手(渡辺第1戦、工藤第3戦、森山第4戦)になり日本一に貢献している。昨年まで森山はソフトバンク・工藤監督の下、投手コーチを務め、今季もタカ投手陣をけん引している。

~最強全日本 名電から工藤ら3人指名 金村1位 田子は2位~

 秋のドラフトで工藤が西武から6位指名。金村は近鉄1位。鳥取西の田子讓治はロッテ2位。捕手では工藤の女房役・山本が巨人に2位指名された。野手では名古屋電気の主将・中村稔が日本ハム3位。都城商の加藤誉昭もヤクルト

2位。また同大会に出場した3年生では工藤と延長を戦った高木が広島に3位指名されている。

 【昭和56年出来事】1月=レーガン米国大統領就任 7月=チャールズ皇太子、ダイアナ妃結婚 8月=台湾遠東航空機墜落、作家・向田邦子さん事故死 10月=サダト・エジプト大統領暗殺▼プロ野球=セ巨人、パ日本ハム▼ヒット曲=「ルビーの指輪」「奥飛騨慕情」

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