【内田雅也の追球】希望から奇跡への道
スポニチアネックス / 2024年9月22日 8時1分
◇セ・リーグ 阪神6ー5DeNA(2024年9月21日 横浜)
横浜スタジアムでの勝利から約1時間後、阪神監督・岡田彰布と新横浜駅で一緒になった。偶然同じ新幹線だった。
プラットホームでファンに少し右手をあげ、笑顔を作っていた。「いやあ、疲れたよ」と苦笑いした。延長10回、3時間54分の激闘だった。
佐藤輝明の決勝弾は鮮やかだった。10回表1死、J・B・ウェンデルケンの内角速球を右翼席上段まで運んだ。前夜は5打数無安打でブレーキ。しかも5打席とも内角速球に詰まっていた。意外性の男である。前の打席、8回表にローワン・ウィックの内角速球を右翼線安打して修正の感覚を得ていたのだろうか。
周囲が打つ時は打たない。誰も打てない時に打つ。打てないと見ていると、とんでもない当たりを打つ。だから周囲も「よくわからない」と口をそろえる。
そう、わからないのが野球である。新幹線に乗る前、岡田は野球の本質を突く言葉を残した。
「もう、ここまで来たら、何が起きるかわからんよ。誰にもわからん。何勝何敗でどうとか、誰が先発投手やからどうとか、そんな計算なんてできんよ。思った通りにいくかいな。不格好でも何でも最後に1点多ければ勝ち。それで最後に勝っていた者が勝者なんよ」
この日もそんな泥くさい展開だった。4点先取しながら逆転された。マツダスタジアムでの巨人敗戦が伝わり、わき返った8回表、同点に追いついた。希望を追いかけ、その希望から奇跡が見えてきたのだ。
実は奇跡は日常にひそんでいる。天才物理学者アルベルト・アインシュタインの名言にある。「人生には2通りの生き方しかない。奇跡などないように生きるか、すべてが奇跡であるかのように生きることだ」。優れた論文を立て続けに発表した1905年は「奇跡の年」と呼ばれた。
野球場は奇跡が起きる場所と言われる。数々の劇的な試合が生まれた。そもそもボールの形状も塁間の距離も「神がつくった」とされるほどの奇跡的な絶妙さである。
米作家ジョン・アップダイクは「すべての野球ファンは奇跡を信じる。問題はいくつまで信じられるかだ」と書いた。
阪神は奇跡を信じている。ならば阪神を信じ、きょう22日から甲子園での巨人2連戦に臨みたい。実はもうすでに奇跡への道を歩んでいるのかもしれない。 =敬称略= (編集委員)
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