「ボーク!」じゃない… 早大・伊藤樹が魅せた意地と技術のワンプレー 元NPB審判員記者が解説
スポニチアネックス / 2024年11月24日 0時22分
◇明治神宮大会 大学の部 早大 1―2 環太平洋大(2024年11月23日 神宮)
早大は延長タイブレークの10回に1点を先制も、逆転サヨナラ負けで初戦敗退となった。先発の3年生右腕・伊藤樹投手が、延長10回1死満塁から暴投。「もう少し前半から僕がテンポよく抑えていれば…」と144球で8安打2失点(自責点0)に号泣した。OBで、国鉄(現ヤクルト)などで活躍した徳武定之さんが14日に悪性リンパ腫で死去。小宮山悟監督は勝利を届けることができず「彼ら(選手)が一番感じているでしょう。悔しさ、今日の敗戦を忘れずに」と話した。
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記者は11年から16年までNPB審判員を務めた経験があり、いまでも少しだけ職業病が残っている。
守備者と走者が近づくプレーが起これば「妨害が起こるか…!?」と目をカッと開くし、投手がセットポジションに入れば、ついつい息を止めて「ボークはないか…」と凝視してしまう。息を止めるのは投手の投球動作の制止を確認するため。呼吸をしていると自分自身が動いてしまい「ノイズ」になる。
記者は早大―環太平洋大のナイターをネット裏の記者席から観戦した。「職業病」のせいで試合序盤から早大の先発右腕・伊藤樹の一塁けん制が気になった。セットポジションで背中側に投げることになる一塁けん制の際、打者側となる左肩が三塁方向に少しだけ動いた後、一塁方向にけん制動作をスタートさせているように見えた。いわゆる「左肩が入った」動きで、これは投球に関連する動作として扱われ、投球動作の変更としてボークが宣告される動き。何度か「自分が球審だったらボークを宣告するだろうな…」という場面があった。もちろん記者を務める現在、ゲームに関与するポジションにないので心の中に留めておいた。
ただもう1人、ボークだと思っている人がいた。環太平洋大・野村昭彦監督。試合の中盤に伊藤が一塁けん制をした際、三塁側ベンチを飛び出して球審に確認を求めた。試合後の取材では「ピッチャーのけん制でどうしても肩が一度入るので、やっぱり上手いのは上手いでいいんですけど(球審に)あまりに酷かったら注意してください。すぐに(ボークを)とらなくてもいいのでという感じで言いました」と確認内容を明かしていた。
野村監督がベンチを飛び出した瞬間、何を抗議するのか分かった。実際に内容は予想していた通りだった。そして次を考えた。伊藤は故意にボークの動作をしていたわけではないだろう。一塁へ強くけん制を投げようとすると、右投手は自然と反動を使いたくなるため左肩が「入る」ことがある。スコアレスで進行した投手戦だったことも心理的に作用したのかもしれない。
そして審判員のマインドで次を考えた。ボークを宣告された、注意を受けた、または相手から疑義をもたれた投手のけん制は「置きにいく」ようになる。大抵はボークを宣告されるリスクを避けようと、ゆっくりとセーフティーなけん制をするようになるのだ。プロ野球の投手だってそうだった。ただ驚くことに伊藤は違った。
0―0の8回1死一塁、早大の守備。間合いを置いた伊藤は鋭いターンで一塁に矢のようなけん制を投じ、走者はタッチアウト!けん制の際に伊藤の左肩は入ることなく、お手本のような正規のモーションでアウトを奪った。プレッシャーをかけられても、それに動じない意地、すぐに修正できる技術が詰まったワンプレー。アンパイア目線では9回まで無失点に抑えたこと以上に評価したいとさえ思った。
タイブレークに突入した延長10回に2点を失ってサヨナラ負けした伊藤は泣いていた。重い責任を背負ったエースはまだ3年生。あと1年、この投手はまだまだ大きくなるに違いない。(元NPB審判員、アマチュア野球担当キャップ・柳内 遼平)
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