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「イケメン」よりも「いい男」!映画ファン必見の名著『ボンクラ映画魂』が復刊!

日本タレント名鑑 / 2016年3月30日 11時25分

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愛すべきボンクラ男たちはどこへ…?

 かつて洋泉社から発売されていた映画ファン必見の名著、『ボンクラ映画魂』が徳間書店から20年ぶりに復刊された。著者である杉作J太郎氏が、彼の人生を通して見続けた東映のアクション映画や任侠映画に登場する人々を紹介する人名辞典になっている。

紹介されているのは高倉健や菅原文太、松田優作などの主役級の俳優から、名前を聞いても全くピンとこないが、映画での活躍や死に様を聞いて「あ、あの人!」と思うような脇役の大部屋俳優まで。

 田中邦衛が『暴動島根刑務所』(1975)では養豚場の豚をかわいがる気のいい囚人で、飼育を否定され絶望し自殺したことが、大暴動への引き金となっていく……など、おなじみの役者陣の意外なフィルモグラフィも新鮮だ。

スターだけじゃない!名画を支えた脇役たちにもスポットライト

 もちろんその中には『ラストサムライ』(2003)での老剣士役で世界に強い印象を与えた、「5万回斬られた男」、福本清三も含まれている。そういった斬られ役や「東映ピラニア軍団」と呼ばれた、名脇役たちにも多く項が取られている。むしろ読みどころは彼らについての文章である。

 スタントで生命に関わる危険なシーンを演じてもろくに評価されないもの、劇中で極悪非道の大悪党を演じている役者がプライベートでは子供たちに無料の習字教室を開いていた話……。

 どの項目も読みのがせない。役者は東映所属の役者たちだけにとどまらず、刑事ドラマ『大都会PARTⅢ』(1978)で、ランニング一丁で東京タワーを登る凶悪犯を演じた歌手・三上寛や、内田裕也に勝新太郎など他社や他業種のスターが東映作品にゲスト出演していたものまでキチンと網羅されている。 

梅宮辰夫、渡哲也……東映ファンも必見の『ボンクラ映画魂』

 東映娯楽路線の黄金時代、それを彩った男たちの群像が浮き彫りになっている本書は、単なる映画紳士録にはとどまらず、梅宮辰夫の項の「梅宮辰夫を理解しようとするな~何となく感じればそれでいい~そうそれが梅宮辰夫という存在なのである」(抜粋)などに代表されるような、作品や俳優の演技を鑑賞した杉作氏が彼らの作り出す世界に思いを馳せる文学的、詩的なコラムも少なくない。

 中でも巻末「わ」の項のラスト、渡哲也について書かれた、渡の不器用で寡黙だがかっこいい男の生き様に憧れて人生を大きく踏み外してしまった自戒を込めた文章は心を鷲掴みにされる。個人的には70年代特撮番組『突撃!ヒューマン』(1972)に主演した夏夕介の項で書かれている、「泣きながらヒーローのヒューマンをTVの前で本気で呼んでいる少年に、自分の喪失した情熱的な何かを見いだす」文章が心に強く残った。

今は亡き往年のスターたちの仰天エピソードも多数

 実際に杉作氏が役者たちに会った話も多く、安岡力也にエロ本を買っているのを見つかった話、先ほど逝去した安藤昇と記念撮影する際に、安藤の薦めで1つの椅子に2尻した話……などなどいい話が満載だ。時が経ったためか、前の刊行時よりも多くのスター、男たちがいなくなってしまっているのは誠に残念である。しかし、大幅に加筆修正され、大増量版となっている本だけに、この手のエピソードも20年前から大きく更新されており、読み応えも倍増している。

 映画ガイドとしてももちろん優れており、細かい索引、作品ガイドもついているので、他の追随を許さぬほど資料価値も高い。また、当時の東映に代表される、日本映画界の内幕をパロディとして描いた氏のマンガ作品も随所に挿入されている。

ゲス<ボンクラ男!東映映画で人生を学べ!

 「ボンクラ」とは本書の中では決して悪い意味の言葉ではない。不器用ながらも映画の中で熱くその生き方を貫こうとする男たちへの称号である。彼らの中で燃え上がった情熱を少しでもスクリーン上に焼き付けようとしていた役者やスタッフ達、そしてスクリーンの中の彼らを見続け、彼らの志を感じ取っていた著者、杉作J太郎。彼のボンクラな男達に向ける視線は尊敬に溢れ、また優しさに満ちている。

 彼らの不器用かつ熱い生き方、映画内での燃えさかり方は我々の人生にも何かを教えてくれるのではないだろうか。まさに「人生に大事なことはすべて東映映画から学んだ」と言える本である。1人1人のエピソードの中には、随所にこれらの東映ジャンル映画が作れなくなった世界、彼らの居場所がなくなった世界を嘆き、「ボンクラな男たち」よりも「金や女にモテる男たちこそ是」とされた世界になってしまった事への嘆き、恨み、諦念が充ち満ちている。なぜこのようないい男たち、好漢たちが評価されぬ世界になってしまったのか、と。

DVDでも動画配信でも!ボンクラ男たちにはいつでも会える

 本書はさながら、いまはもうどこかへいってしまった怪獣、恐竜たちを慈しむように紹介していく図鑑のようである。彼らは強くて怖かったがとても優しかった。そして太古の生物達のように、次第に滅びかけているかのようである。

 また、それは彼らの作品を上映する映画館の方も事情は同じだ。かつて本書で紹介されているような作品をよく上映していた新宿昭和館や大井武蔵野館や浅草の名画座など、ワイルドな映画館はもはやほとんど残っておらず、シネコンに支配されているのが実状だ。しかし、逆に今の方がこの手の東映の作品を見やすくなっているとも言える。かつて刊行されていたときと異なり、今はこの本で紹介されている東映の諸作品は杉作氏たちの尽力によってかなりの割合でDVDになっている。また、CSには東映チャンネルがある。『狂った野獣』などの刺激的な東映の名作が手軽に御家庭で見られる環境なのだ。動画配信サービスでもNETFLIXで『仁義なき戦い』も見られるご時世だ。20年前よりかなりハードルは下がっていると言えるだろう。だから今こそ、本書の利用価値はより上がっているのではないだろうか。

 男達が数十年前にフィルムに焼き付けたボンクラ魂は、いまだTVドラマや映画、Vシネマ、そんな中で今も変わらず燃えている。ビデオ屋の100円レンタルコーナーで、CSチャンネルの中で。この本はその最良の手引書、案内書である。たとえ全く東映映画を知らない人でも、心引かれるエピソード、興味を持つ人物が必ずいるはずである。「映画」というものに興味がある人なら、必携の内容であると断言できる。

 

◆ 文/多田遠志

映画ライター。『映画秘宝』ほか各種媒体にてコラムを執筆中。
LOFTグループのライブハウスなどで定期的にイベントを開催している。

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