男性ブランコ・平井まさあきが考えるコントとドラマの役作りの違い『ライオンの隠れ家』
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年11月29日 15時0分
ボケとネタ作り担当の平井まさあきさんと、ツッコミ担当の浦井のりひろさんからなるお笑いコンビ・男性ブランコ。「キングオブコント2021」準優勝、「M-1グランプリ2022」ファイナリストとして、コントも漫才も得意とするコンビだ。
そんな男性ブランコの平井さんが、連続ドラマ初レギュラーで出演しているのは『ライオンの隠れ家』。主人公の弟が働くデザイン会社のデザイナー兼CEO役を演じている。普段、コント師として別人になりきる平井さんが、本作の役柄とどのように向き合っているのか。思いをかけ違わないために大切にしている相方とのコミュニケーションの取り方も話を聞いた。
自分の中に眠る発想に気づく
――連続ドラマのレギュラー初出演の感想は。
まず驚いたのは、僕が演じる船木真魚という役について詳しい資料をいただいたことでした。その資料を読むと、船木はアーティストさんたちの才能に惚れ込み、「プラネットイレブン」というデザイン会社を立ち上げた人物だと書かれていました。きっと根が優しいだけではなく、自分が心から好きな絵を描く方々、驚くような作品を生み出す方々と一緒に仕事をしたいという強いリスペクトの念を持っているんだと感じました。その気持ちを大切にしながら、現場でもフランクに接することで、船木という人物像を作ることができるのではないかと思いながら演じています。また、船木の喋り方に関しては、もしかすると僕が自然に言いやすいセリフ回しに調整してくれたのかなと思うほど、無理なく作らずに演じられています。
――「プラネットイレブン」はハンディキャップのある人も採用している会社。撮影現場には、本作の自閉スペクトラム症監修を務める「さくらんぼ教室」に通う生徒さんも参加されています。
皆さん、とても素直な方ばかり。実際にアーティストとして活動されている方の作品を見る機会もあったのですが、どの作品もご自身が「これがきれいだ」「こう表現したい」と思うものを、余計なフィルターを通さず自由な発想で作られているなと感じました。その表現からは、根源的な欲求や純粋な創作意欲が伝わってきて、「僕の中にもまだ眠っている発想があるかもしれない」と気づかされ、勉強になりました。
役作りはプロの成せる技だと実感
――デザイナー兼CEOという役柄ですが、平井さんご自身はイラストは得意ですか。
絵は好きですが、イラストが得意な坂東(龍汰)くん(主人公の弟で自閉症スペクトラムの青年・小森美路人を演じている)と比べると僕のは落書き程度ですね(笑)。「美術館に通っています!」というほどではありませんが、絵を見ることは好きです。特に好きなのは、ルネ・マグリットの「紳士が雨みたいに降っている絵(『ゴルコンダ』1953年)」やヒエロニムス・ボスの作品など、少しユニークな絵ですね。また以前、僕たちの単独コントライブのポスターを作っていただいた画家の網代幸介さんの絵も大好きです。そう考えると、自分の好みに合う絵には触れてきたのかなと思います。
――坂東さんと共演された印象を教えてください。
坂東くんは最初からずっと明るくて、自然と人の懐に入ってくれる方です。話しやすくて、現場の空気を明るく盛り上げてくれる存在ですね。
でも本番になると、瞬時にみっくん(美路人)に切り替わるんです。それを目の当たりにして、「役者の方たちはこうやって役を自分の中に落とし込んでいくんだ」と感心しました。まさに職人技というか、プロならではの技術だと感じました。坂東くんは自分の内面と役をしっかり結び付けているようで、彼にしかできない小森美路人という青年を作り上げていると思います。それが彼の役作りにおける魅力であり、引き込まれるポイントだと感じました。
コントは瞬発的に分かる役柄が重要
――平井さんはコントでも様々な人物を演じられますが、ドラマとはどのような点が異なりますか。
コントは瞬時にキャラクターを理解してもらう必要があるのに対し、ドラマでは物語が進む中で徐々にキャラクターの本質が明らかになっていくという違いがあります。我々男性ブランコは5分から10分くらいのコントをやることが多く、その短い時間で深い人物描写をすることは難しいんです。
さらに、1日に複数のネタを披露することもあるので、1つ1つの役を深く掘り下げることが難しく、視覚的にもキャッチーなキャラクターを選びがち。たとえば、キャラクターに「こういう生い立ちがある」という設定があったとしても、それを見た目や最初の一言で伝えられるか、1分以内に観客にそのキャラクターを理解してもらえるかが勝負。
そのためコントでは説明的な表現や、少し過剰な演技をすることが多いんですが、ドラマではそうした演技をすると逆に「そんな人はいないだろう」と離れていってしまうきっかけになると思うんです。ドラマでは、所作や目線、言葉のトーンなど、細かい部分を通じてキャラクターを自然に伝えていくことが必要であり、それが視聴者にとっての楽しみでもあると思います。ここが、コントとドラマの大きな違いですね。
コンビの仲の良さは会話
――本作には“愛のかけ違い”というキーワードが隠れていますが、平井さんが思うコミュニケーションの大切さ、思いが食い違わないようにするための方法は何でしょう。
きちんと会話をすることが大切だと思います。時には話すことが面倒くさくて「察してくれよ」と思うこともありますが、それは近しい間柄の家族や恋人、僕で言えば相方に対しても、そんな都合良く自分のことを察してくれるような相手はいないんだぞと考えるようにしています。
自分自身ですらなかなか制御できない感情ですから、それを周りの人たちに「察してくれ」は難しいですよね。だからこそ、「察してもらえなかった」ことに腹を立てるのではなく、こちらから働きかけて、きちんと話すようにしています。それがお互いの理解を深めるための一番の方法だと思っています。
――これまでのコンビ活動の中で、“食い違ってしまったな”と思うエピソードを教えてください。
僕と相方の浦井は、これまで大げんかをしたことはないんですが、互いにイライラすることはあります。ただギスギスした関係になるのが面倒で黙ってしまうこともありました。でも、それが積もりに積もったら、いずれどこかで爆発してしまうので逃げずに話すようにしています。
以前、単独ライブの公演期間中だったのですが、別のコントを作ってほしいと言われていたんです。その昼公演と夜公演の合間をぬって2本の台本を仕上げて、浦井に「これ、チェックしてくれ」と渡したら、その場で浦井が台本を胸に乗せて寝てしまったんです。その浦井の行動にとてもムカついてしまったのですが、その場では何も言えなかったんです。後日、別のユニットコントの本番が終わった後も、その際の腹立たしさがまだ残っていて、普段なら2人で楽屋を出て駅まで一緒に帰ることが多いのですが、そのときは浦井を置いていくくらい早歩きをして帰りました。
その僕の様子を見た浦井が「こいつ、怒っているな」と気づいて、翌日「ちょっと飲みに行こう」と誘われました。そこで「最近、怒っていることあるよね?」と聞かれて、そのときの出来事を話したら、「すまなかった」と謝ってくれたんです。そこで僕も浦井に「逆に、僕に対して何か言いたいことはある?」と尋ねるというような会話をしました。この出来事がきっかけで、余裕がないときでも話し合いの時間を持つようにしています。もっとも、ここ数年は日常的に会話をしているので、改まった話し合いはあまりしていません。でも、あの出来事をきっかけに、話すことの大切さを改めて実感しています。
取材中、ネタ作りを担当する平井さんらしい捉え方で、コントとドラマそれぞれで役になりきり、観客に届けるまでのスピードを丁寧に教えてくれた。なりきることは同じであっても、伝えられる情報量でかけ違いが起こってしまう。表現者と観客の間でかけ違いが起きないように練られたテクニックを目の当たりにして、相手を受け取めること、働きかけることのさじ加減の難しさを教わった。
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