想像力だけで動物を描き続けた男 -- 死後評価の無名画家、アロイス・ツェトルの非現実的アート

tocana / 2014年6月8日 19時0分

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 1955年冬のある日、オテル・ド・ドゥルオーというパリのオークション会場にどよめきが起こった。

 出品された絵画の作者の名前はアロイス・ツェトル。まったく無名の画家で、おまけに半世紀以上前に亡くなっていた。

 しかし、陰影の技法をほとんど用いない作品は誰の目にもその美的価値が明らかで、それは同じく19世紀の動物画といっても、たとえばジョン・ジェームズ・オーデュボンとはまったく別の種類の優雅さをたたえていた。

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 もちろん、出品された時点では「見込み落札価格なし」。当時の無名作者の作品にはよくある設定で、つまり出品者は作品の価値をはかりかねるので「いくらで落札されてもかまわない」...という意味だ。

 しかし、当然のようにまたたく間に価格は釣り上がり、文字通り、飛ぶように売れていった。

 そして興奮も冷めやらぬ半年後に同じくオテル・ド・ドゥルオーにて第二回目のオークションが開催された。第一回の盛況を見た主催者の意向で、第二回オークションには様々な興行的趣向がほどこされた。豪華なカタログもその一つで、序文はなんとアンドレ・ブルトンが書いている。


・アンドレ・ブルトンによる序文

 これまで知られることのなかった画家アロイス・ツェトルの画室に埋もれていた作品の半分が先頃、競売において引く手あまたであったことは、これらの作品の放つ誘惑の大きさを示したものであり、愛好家たちの間で繰り広げられた激しい争奪戦はそれを端的に物語るものであった。今回の2度目にして最後の売り立てには、前回に劣らない優れた水彩画 170点が出品されるが、これは更なる評判を呼ばずにはおかないだろう。

 アロイス・ツェトルに関する伝記的な詳細は一切伝わっていないので、この高地オーストリアの染色職人が1832年から1887年の間に、これほどまでの熱意をこめて作り出した、かつて見たこともないような豪奢な動物譜がどのような事情によって企てられたものなのかは、ただ恣意に想像をめぐらすより他はない。(アンドレ・ブルトン『シュルレアリスムと絵画』より引用)


 この序文後半では、ブルトンは「アロイス・ツェトルとアンリ・ルソー」の類似を指摘している。

 ...だが、あえて筆者の意見を述べるが、私はむしろ「アロイス・ツェトルとフェルディナン・シュヴァル」または「ヘンリー・ダーガー」との親和性を強く感じる。

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