破壊された“中東のベニス“ ― 「湿地のアラブ人」が作った美しい楽園とは?

tocana / 2014年12月17日 12時0分

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 アラブ人と聞いて、砂漠地帯に生きる人々の姿を想像する読者が多いのではないだろうか。実際、中東の大部分では緑の少ない乾いた大地が広がっており、水や樹木は富の象徴と見なされるほど貴重なものだ。しかしアラブ人の中には、辺り一面が水で満たされた湿地帯で、代々独自の生活様式を守りながら生きる「マーシュアラブ(湿地のアラブ人)」と呼ばれる人々も存在する。

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■知られざる「マーシュアラブ」の暮らし

 この「マーシュアラブ」たちが暮らしているのは、その名の通り、イラクのチグリス・ユーフラテス両河川流域に広がる、知る人ぞ知る湿地帯だ。四国(18,800平方キロメートル)をはるかに上回る23,000平方キロメートルの面積を誇るこの湿地帯に、彼らは無数の小島を浮かべ、家を建てて生活してきた。その光景は、「中東のベニス」に喩えられるほどの美しさであるという。

 葦を組み合わせて作られた家屋が乗る小島は、泥とイグサからできている。これらの資材は付近一帯で調達可能なものであり、木材やクギが使われることはない上、マーシュアラブたちは、たった3日間で作り上げてしまう。

 いくつかの部族で構成されている彼らは、過去5,000年にわたり、この風土と調和した独自の生活様式を受け継いできた(「中東のベニス」という言葉は適さないほど長い歴史だ)。他の土地から逃れてきた奴隷や農奴にも寛容な社会が形成されており、ピーク時の人口は50万を超えていたようだ。


■楽園に訪れた危機

 しかし、この楽園のような場所に最大の危機が訪れたのは、1990年代初頭のことだった。当時のサダム・フセイン大統領によって迫害された人々をかくまった罰として、湿地帯の水を抜くことが決定されたのだ。これだけ広大な土地から水を抜くことは不可能にも思えるが、当時のイラク政府は灌漑技術を応用し、湿地帯に流れ込む河川の水をせき止めることでやってのけた。

 そして湿地帯に残った水は腐り、マーシュアラブたちの生活は破壊されてしまった。やがて彼らは、生きるために代々の定住地を離れざるを得なくなり、都市部や難民キャンプへと散っていく。彼らの伝統的な生活様式は、このまま永遠に失われてしまうかに思われた。


 しかし、転機は2003年に訪れた。「イラク戦争」が勃発、アメリカ軍の攻略によってフセイン政権が弱体化し、湿地の再興運動が盛り上がり始めたのだ。そしてマーシュアラブたちは、湿地帯に注ぐはずの水をせき止めていたダムを決壊させることに成功、現在は面積の4分の1が回復されるまでに至る。

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