近親相姦の嫌悪は文化か、それとも本能か!? 最新研究が紐解く「インセスト・タブー」の謎

tocana / 2015年9月1日 17時0分

 幼少期をともに過ごした期間もまた重要な要素であるという。もちろんきょうだいの多くは同じ環境で育てられるものだろうが、一緒に過ごした期間が長ければ長いほど、きょうだいの間の利他心が強まるということだ。しかもこれは、実のきょうだいではない継子や養子に対しても同じく育まれるものだという。

 そしてリーバーマン氏らの研究チームは、調査の結果、異性のきょうだいと一緒に生活していた期間の長さや親密さが、近親相姦への嫌悪の強さに関係していることを明らかにした。つまり、「ウェスターマーク効果」が実証されたということだ。もしも近親相姦に対する嫌悪感が文化的なものだとすれば、このような要因には左右されないはずであるため、やはりそれは人間の本能に由来するものであると結論づけたのだ。

 幼少期に生活をともにすることできょうだいと他人を区別し、近親相姦への嫌悪感を引き起こすメカニズムを人間が自発的に発達させてきたのだとすれば、確かに近親相姦のタブーが間接的に人間の本能に根ざしているものと言えるのかも知れない。しかしこのリーバーマン氏らの研究は、親や学校の性教育の影響を過小評価しているなどの指摘もあり、まだ議論の余地は残されているようだ。ともあれ、どうして近親相姦(とりわけ親子姦、きょうだい姦)を想像すると、強烈な嫌悪感が引き起こされるのか? 近親交配で生まれた子どもが遺伝的に不利となることは明らかだが、人間を含む動物は、それを研究の結果というよりも本能的に"勘付いて"いるが故に、嫌悪感とリンクさせることによって避けていることになる。


■近親相姦による子どもの半数は先天的異常を持って生まれる!?

 では、近親相姦で生まれた子どもは、どれほど遺伝的に不利なのか? 2002年にチェコスロバキアの子どもたちを対象にして行なわれた調査では、驚くべき数値が出ている。第一度近親者(親子またはきょうだい関係)の間に生まれた子どもの約半数(53%)は、何らかの異常を持って生まれるというのだ。具体的には、重度の先天性異常や産後間もなく死亡してしまうほどの疾病を持って生まれた新生児は42%にのぼり、ほかにも軽度の知的障がいを持って生まれてくる新生児は11%を占めるという。確かにこれほどの確率で生まれてくるのであれば、遺伝学など知りもしない時代の人類でも、近親相姦の危険性に気づくことができるだろう。

 しかし、もっと危険をはらんでいるのが、ある共同体の中で世代を超えて近親婚が行なわれているケースだ。古代ローマの貴族階級の間では、異なる家系のものと結婚することによって財産が分散したり、権力の継承において混乱が生じたりするのを避けるために近親婚が奨励されていた。また中世のヨーロッパの貴族の間でも、同様の理由で近親婚が多く行われており、劣性遺伝に起因する血友病などの多発に苛まれていたという。

 結論を言えば、殺人や食人に並ぶ禁忌である近親相姦のタブーが本能によるものなのか、それとも文化的な要請によるものなのか、まだ完全には白黒ついているわけではない。しかし最近の人類学系の研究では、近親交配によって障がい児や奇形児が多く生まれた結果として、人類の進化の可能性が広がったとする説も登場しており、近親相姦に関する議論はますます一筋縄ではいかなくなってきている。今後どのような新説が登場するのか、実に興味深いテーマなのだ。
(文=仲田しんじ)

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