新卒一括採用・終身雇用は日本人に合っている。だから今後も変わらない
LIMO / 2019年4月7日 20時20分
新卒一括採用・終身雇用は日本人に合っている。だから今後も変わらない
日本企業は新卒一括採用が普通なので、新年度となった今月初め、各社一斉に入社式が行われました。この制度は合理的なので今後も変わらないだろう、と久留米大学商学部の塚崎公義教授は説きます。
就活時期の変化は新卒一括採用とは無関係
経団連が就活のスケジュールを決めなくなると、就活スケジュールが変わり、それによって新卒一括採用の慣習が崩れるかもしれない、と考えている人がいるようですが、そうはならないと思います。
就活スケジュールが変わると言っても、大学卒業時に新卒一括採用をすることを前提として在学中に採用活動をすることは従来どおりであり、その時期を在学中のいつにするのか、というだけの話だからです。
それ以外にも、新卒一括採用が変わらないと考える理由は複数あります。「そもそも新卒一括採用・終身雇用は合理的だから」「新卒一括採用・終身雇用は日本人に合っているから」「新卒一括採用が変化する契機が見えないから」といったところでしょう。以下、順に見ていきましょう。
新卒一括採用・終身雇用には合理的な面も
新卒一括採用は非合理的だから、米国的な採用に変えるべきだ、という人がいますが、どちらも一長一短であり、変えるべきだとは言えないでしょう。
日本企業の新卒採用はポテンシャル採用ですから、「今何ができるか」ではなく、「鍛えれば使い物になりそうか」が問われます。そして入社後は、様々な仕事を経験します。そうした働き方を「メンバーシップ型」と呼びます。
プロ野球の球団が「野球の経験はありませんが、体力と運動神経には自信があるので、立派な野球選手になれると思います」という学生を採用し、投手も捕手も代打も経験させる、といったイメージですね。
多くの人はジェネラリストとなり、あるいは得意分野を見つけてスペシャリスト的な働き方をする人も出てくるでしょうが、いずれにしても様々な仕事を知っているので、視野が広がるとともに、他の部署の事情も理解できるので、部門間の調整等も容易になります。
欧米型の採用には問題も
一方で欧米企業の採用は即戦力採用ですから、「投手募集。投手としての実績のある人優先」というわけですね。「私は投手です。たまたま今はA球団にいますが、給料が高いB球団への移籍を希望します」という人を採用するわけです。こちらの方が日本のプロ野球界に近いですね。
雇う側としては、専門性の高い人材が採用できるというメリットがありますが、働く側は大きなリスクに晒されます。最初にどこかの三流企業で投手として採用され、実績を積めば一流企業に転職する可能性もありますが、最初に三流企業に採用されるまでが大変です。現に欧米では若者の失業率が高くなっていますし、運が悪ければ一生無職で過ごすリスクも小さくありません。
また、たまたま最初の採用が投手だと、一生投手として過ごすことになります。もしかすると、捕手としての才能が素晴らしいものであったとしても、その才能が発見されることがないまま一生を終えることになるわけです。
日本人には終身雇用が似合っている
医学の知識になりますが、日本人は、不安を感じさせる遺伝子(SS型セロトニントランスポーター遺伝子)を持っている割合が高いそうです。災害が多い日本列島で生き延びるには、不安を感じてリスクを避ける人の方が有利だったということなのでしょうか。
一方で米国は、わざわざ大西洋を渡って先住民族と戦って一攫千金を得ようとした人々の作った国ですから、その国には平均的な日本人とは異なる性格の人々が集まっていると考えるべきです。それならば、「米国のシステムだから日本も真似しよう」ということにはならないはずでしょう。
したがって、日本人には終身雇用が合っているのです。「新卒で採用して、一生雇うと保証してあげるから、生涯所得の期待値が米国企業より安くても我慢してね」と言えば、企業側も助かるでしょうし、雇われた労働者もハッピーでしょう。
仮に平均的な日本人が終身雇用でなくなったら、不安で仕方なく、多少高い給料をもらったとしても、将来が不安で消費をせずに貯蓄に励むでしょう。皆が倹約して貯蓄に励んでしまったら、消費が伸びずに景気が悪くなり、失業者が増えてしまうと思われます。
今ひとつ、終身雇用制が日本人に向いていると考える理由があります。それは、上記とは全く異なる理由で、日本人が恥の文化を持っていて真面目に働くから、というものです。
仮に外国で終身雇用制が採用されたら、「仕事をサボってもクビにならないし、運が良ければ仕事をしなくても給料がもらえる窓際族という恵まれたポストに就けるかもしれない」と考える労働者が大勢出てくるかもしれませんから。
新卒一括採用を最初にやめる企業は損をするかも
「皆で一斉に申し合わせて新卒一括採用をやめる」ということは、今の日本では考えにくいでしょう。冒頭に記したように、新卒一括採用・日本的雇用には合理的な面も多いからです。
そうだとして、ある会社が「我が社は新卒一括採用をやめる」と言い出したとします。その会社が得をするならば、後に続く会社が出てくるかもしれませんが、その会社は損をする可能性の方が高いのです。それは、労働者の能力を会社の外から評価することが難しいからです。
一般企業は、優秀な社員は厚遇して囲い込みますから、優秀な社員はあまり辞めないでしょう。優秀でない社員の中でも、我慢強くない人、人間関係がうまく築けなかった人などは、転職したがるでしょう。
もちろん、即戦力を採用しようと募集している企業を受けに来る労働者の中にも優秀な人はいるでしょうが、期待値として見れば、優秀でない人である可能性が高いと言って良さそうです。
そうであれば、わざわざ中途採用して他社の企業文化に染まった人を採用するよりも、新卒を一括採用した方が得だと言えるでしょう。
上記のような理屈を考えることも重要ですが、それより何より、もしも中途採用で優秀な人材が簡単に採用できるのであれば、すでにそういう会社が多数出てきているはずで、日本的な新卒一括採用はとっくに消え去っていたでしょうから(笑)。
プロ野球の選手や為替のディーラーのように、会社の外の人にも各労働者の能力がわかりやすい仕事の場合には、中途採用や引き抜きなども多いでしょう。
就職氷河期に正社員になれずに非正規労働者として働いている優秀な人や、育児のために退職していたが育児が一段落したので再び働きたいと思っている優秀な人などを、急成長していて新卒採用だけでは社員数が集まらない会社が、正社員として採用する、といったことも合理的でしょう。
しかし、それ以外の仕事の場合には、新卒一括採用が原則として残ると思われます。例外的な中途採用が次第に増えていくことは時代の流れとして考えられますが、原則と例外が入れ替わることは考えにくいでしょう。
本稿は以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。
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