痴漢”対策”だけが盛り上がる不思議。「痴漢は犯罪、撲滅を」じゃないの?
LIMO / 2019年5月30日 19時45分
痴漢”対策”だけが盛り上がる不思議。「痴漢は犯罪、撲滅を」じゃないの?
5月中旬からツイッターで話題になっている、痴漢に対する自衛策の問題。発端は、とある女性が中学生時代に電車で痴漢に遭った際、相談した保健室の先生から「次からは安全ピンで痴漢を刺して」とアドバイスされたという5月14日の投稿でした。
その投稿が拡散されるや否や、賛同や共感の声が多数あがる一方で「過剰防衛だ」「冤罪を助長する」といった意見もあり、いまなお白熱した議論が続いています。
ツイッター上で巻き起こっている痴漢対策の議論
5月24日には「女性が男の悪人を攻撃していいのなら、男性も女の悪人に反撃していい。顔面をボコボコにし、二度と子供の産めない体にしてやりましょう」といった、この問題に対する“自称・風刺漫画”が大炎上しました。
また、5月27日には、シヤチハタ印などで知られる印章・文具メーカーのシヤチハタが痴漢対策用のハンコを発売することをツイッター上で表明。痴漢被害や冤罪被害をなくすための対策として、男性専用車両導入の是非も議論されています。
さらに、「電車内で痴漢を見たら車内非常ボタン(緊急停止ボタン)を押していい。車内非常ボタンは犯罪行為を目撃した場合や急病の人がいた場合での使用が推奨されている」という意見も。これに対し、「痴漢ごときで電車を止められたら困る」「損害賠償を払う自己責任を持つなら押せばいい」といった反論も多数出ていました。
このようにツイッター上では「痴漢に安全ピンは過剰防衛か否か」という対策の話にとどまらない、さまざまな声が巻き起こっています。
痴漢”ごとき“という反論が出る異常さ
安全ピンから端を発し、日々盛り上がっている痴漢対策問題。しかし改めて考えてみると、痴漢がまるで日常の風景のごとく当然の存在として見なされ、痴漢そのものをなくそうという議論よりも痴漢対策の議論の方が過熱している現状は本末転倒にも思えます。
痴漢は被害者がいる犯罪行為であるにも関わらず、被害者のことを顧みず、痴漢をする人間よりも痴漢対策をする側を非難する人がいる…。一連の痴漢を巡る議論を見ていると、痴漢という存在そのものに慣れきってしまっている状況の異常さを感じずにはいられません。
また、多くの人は痴漢に関する問題に「関わりたくない」と距離を置いていることも見て取れます。「痴漢はいなくなった方がいいけれども、男性が女性に痴漢するのは仕方がない。自分は冤罪に巻き込まれたくない」というのが多くの男性の本音なのでしょう。
しかし、この関与したくないという意識は、痴漢に対する感覚を麻痺させがちです。そしてその感覚の麻痺こそ、痴漢行為をする人の安心材料となってしまっているのではないでしょうか。
痴漢に対して無関心でいる男性も大きな障壁に
痴漢を巡る議論は、男性が加害者であり女性が被害者である場合が多いので、往々にして男性 vs. 女性という構図になります。特に痴漢の被害に遭ったことのある女性は自身の辛い経験から、「男性=痴漢をする」という前提のもと意見を述べる場合も。
こうした時に多くの男性が、「逆差別だ」「冤罪を助長する」と怒りをあらわにしている光景を何度も目にしてきました。このように男女が互いに糾弾し合うだけになると、次から次へと怒りの矛先探しに躍起になってしまい、痴漢撲滅という本来の目的を見失いがちになります。
そもそも安全ピンという対策法に共感していた女性が多いのは、電車内で痴漢に遭った際には大声を出したり助けを求めたりすることが非常に困難だからです。先述の通り「関わりたくない」という男性も多い現状。痴漢をされたときに勇気を出して隣の男性に小声で助けを求めたら、「自分に言われても困る」と返された、という被害者女性の声もあります。
痴漢の被害に遭いたくない、痴漢を撲滅したいと考える女性にとっては、痴漢行為を行う男性だけでなく、痴漢行為はしないけれども「痴漢は仕方ない」と無関心を決め込む男性という2つの障壁が存在してしまっているのです。
痴漢対策以外のアプローチからも痴漢撲滅の可能性を
今のように痴漢対策議論が白熱していることは、痴漢行為を行う人に対するアラートという一定の効果を持つかもしれません。しかし安全ピンもハンコも、対症療法に過ぎないでしょう。
一方、痴漢を巡る問題の根本的解決策として「満員電車の解消」があります。しかし現実的に、都心の満員電車が解消される日はいつ訪れるのでしょうか。また電車が混んでいようが混んでいまいが痴漢をしない人はしないのであって、社会や痴漢行為をする人の思考が変わらなければ意味がないのではないかとも思います。
最近では、痴漢行為の中には反復性のある精神疾患がある場合も指摘されています。覚せい剤のように「痴漢をやめたくてもやめられない」という依存症に陥っている人に対しては、適切な治療が必要になってきます。そして、そのような依存症には誰しもが突然陥ってしまう可能性を持っています。
もちろん「病気なら何やってもいいのか」という意見もありますし、病気か否かの判断も非常に難しいでしょう。しかし、「そもそも痴漢をする人の思考や心理状態はどうなっているのか」「自分も被害者になるかもしれないし、加害者になるかもしれない」という認識を広げることで、見えてくる光もあるはずです。
痴漢に対して無関心でいることや「仕方ない」と見なす異常さに気付き、多角的なアプローチからより現実的な解決方法を探る。痴漢被害や冤罪をなくすために必要なことは、痴漢そのものを撲滅させること。男女の対立構造で語られがちだった痴漢問題は、いま、男女問わずすべての人が当事者意識を持って真剣に考えるタイミングに来ているのではないでしょうか。
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