子育て家庭と地域のつながりのミスマッチ。なぜ孤立と社会の不寛容が生まれるのか
LIMO / 2019年6月2日 19時45分
子育て家庭と地域のつながりのミスマッチ。なぜ孤立と社会の不寛容が生まれるのか
「人に迷惑をかけたくない」と周囲の視線に敏感になって、親が育児を抱え込み、家庭の心理的な門戸が閉じられる。
家庭が子育てを囲い込むうちに、地域の住民にとって子どもが「他人」や「騒音」になる。
ルールを厳格に守ることを他人に求める人が、子どもをコントロールできない親に怒りを募らせ、親はますます厳重に子育てを家庭に囲い込む。
そのうちに、子を育てる親が見知らぬ人の親切に対しても疑心暗鬼になって、家庭の中の空気がよどみ、支配や共依存といった極端な人間関係が生じやすくなる……。
* * * * *
これは筆者の妄想に基づいて創作した架空の地域の風景です。あるひとつの事象が、めぐりめぐって思わぬ影響を与えて合っているディストピア版「風が吹けば桶屋がもうかる」的なもので、決して普遍的な話ではありません。
とはいえ、子育て・家事・地域活動に追われながら、広く浅く雑多な人間関係を結んでいると、少しずつ見えてくることがあります。それは、「多くの社会問題は地続きなのではないか」ということです。
そして、改善すべき点は山ほどあるのでしょうが、もし、地域の雰囲気が変われば、冒頭の連鎖とは逆の良い変化も起きるのかもしれない、ということです。
子育て世代の9割が「子育てには地域の支えが重要」と感じている
「子どもは地域で育てるもの」というのは、ひとつの理想ではあります。とはいえ、あまりにも漠然としていて、イメージ先行型の言葉であることは否めません。
それでは、子育て中の親は地域のつながりについて、どんな考えを持っているのでしょうか。
内閣府によって行われた「家族と地域における子育てに関する意識調査」によれば、「子育てには地域の支えが非常に重要/やや重要」と回答した子育て世代にあたる20代~50代の割合は、9割にのぼっています。
その「支え」は具体的にどんなことを指すのでしょうか。男女の回答(複数回答)を合わせたものを多かった順に並べていくと、以下のようになりました。
(1) 子どもの防犯のための声かけや登下校の見守りをする人がいること
(2) 子育てに関する悩みについて気軽に相談できる人や場があること
(3) 子育てをする親同士で話ができる仲間づくりの場があること
(4) 子どもと大人が一緒に参加できる地域の行事やお祭りなどがあること
(5) 子育てに関する情報を提供する人や場があること
上記の他に4割を超えた回答は、男性が「子どもと一緒に遊ぶ人や場があること」、女性は「不意の外出や親の帰りが遅くなった時などに子どもを預かる人や場があること」でした。
つまり、本音を言えば、子育て中の家庭の多くは「もし安心できる環境がそこにあれば誰かに悩みを相談し、困ったら子を預け、人が大勢集まる楽しい雰囲気の場所に出向いて子を思い切り遊ばせたい」と願っているのではないでしょうか。
「地域を支えたい」と考える潜在ボランティアの存在も
続いて、地域社会において、子育てに関する活動の支え手として参加したいと思う活動について20代~70代が回答した内容を男女別に分けると、以下のような割合になっています。
【男性/参加したい地域活動(複数回答可)】
1位・・・子どもと大人が一緒に参加できる地域の行事やお祭りなどを行う活動(38.3%)
2位・・・子どもの防犯のための声かけや登下校の見守りをする活動(37.5%)
3位・・・子どもと一緒に遊ぶ活動(35.4%)
4位・・・子どもにスポーツや勉強を教える活動(35.1%)
5位・・・地域の伝統文化を子どもに伝える活動(20.6%)
【女性/参加したい地域活動(複数回答可)】
1位・・・子どもの防犯のための声かけや登下校の見守りをする活動(44.4%)
2位・・・子どもと大人が一緒に参加できる地域の行事やお祭りなどを行う活動(34.7%)
3位・・・子どもと一緒に遊ぶ活動(29.5%)
同3位・・・子育てをする親同士で話しができる仲間づくりの活動(29.5%)
5位・・・不意の外出や親の帰りが遅くなった時などに子どもを預かる活動(25.2%)
このように、実行にうつしていなくても「誰かの役に立ちたい」と考えている人がこれだけの割合いることは、子育て家庭にとってとても救いになることです。
実際、筆者の家庭の場合は地域のボランティアサッカーコーチや、放課後や登下校の活動を見守るシニアボランティアの皆さんに支えてもらった経験があり、皆さんには感謝の言葉を一言で表せないほどです。
とはいえ、厳しい現実もあります。
子育てに欠かせない要素を、人手・お金・愛と、ものすごく乱暴に分けるとします。もし、不運にもある家庭でそのうちの何かが欠けてしまった場合、当事者が助けてくれるつてを自ら見つけ、自分からしかるべき場所に飛び込んでいかない限り、地域の誰かが助けにくい構図ができあがっているように思います。
優しい人はたくさんいるのに「不寛容」の空気が広がるのはなぜ?
話変わって、3月に発表された『世界幸福度ランキング』では、日本は156の国と地域中58位と、前年より順位を下げましたが、その原因となっていたのが92位の「寛容性」。
寛容性が失われると、大きな影響を受ける存在はたくさんあるのでしょうが、そのひとつが子どもです。仮に他者に寛容になるための成長のプロセスが、周囲の大人の手本や子ども自身の失敗の積み重ねによって培われるのだとしたら、今は大変に厳しい状況です。
いくら道徳の授業で正論を伝えても、家庭外の多様な考え方や優しさに触れることなく寛容性を培うことは難しく、不寛容が連鎖していくのではないかと筆者は危機感を感じています。
冒頭のような状況が訪れぬよう、孤立した家族が門戸を少し開きたくなるような地域づくりは、どうしたら実現するのか。優しい人はたくさんいるのに、子育て家庭が「社会の寛容性が低い」と感じる原因はどこからきているのか。
その問題を真剣に考えることは、根っこでつながった数々の社会問題を根本から解決することはないにせよ、小さな波紋を起こすことにつながるのではないでしょうか。
【参考】
平成25年度「家族と地域における子育てに関する意識調査」報告書 全体版(内閣府)
World Happiness Report 2019(SDSN:持続可能な開発ソリューション・ネットワーク)
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