”尼ター”も登場、お寺の生き残りをかけた宿坊ビジネスとは
LIMO / 2019年8月1日 20時15分
”尼ター”も登場、お寺の生き残りをかけた宿坊ビジネスとは
港区芝にTemple Hotel 正伝寺がオープン
日本全国に77,000以上存在しているお寺。その数は実にコンビニエンスストアよりも多いと言われていますが、うち30パーセントが檀家減少や墓じまいの増加などの問題に直面しており、将来的には消滅することが予想されています。
そんな中、お寺の未来を支える事業を行う株式会社シェアウィングが、東京都港区にある日蓮宗 松流山 正傳寺(しょうでんじ)に宿坊「Temple Hotel 正伝寺」をオープン。ここは単なる宿泊施設ではなく、観光誘致や教育環境の提供、人手不足への対応などさまざまな可能性を持ち合わせた場所なのだとか。7月24日に行われた記者説明会を取材しました。
住職の働き方改革としても期待されている宿坊
株式会社シェアウィングが行っている事業「お寺ステイ」は、存続の不安を抱えるお寺に事業参画して宿泊できる“宿坊”として生まれ変わらせ、お寺本来の魅力や姿を広く発信する体験ステイサービス。2017年にはすでに直営1号店となる「Temple Hotel 高山善光寺」を2017年にオープンさせています。
「“宿坊”というスタイルにこだわる理由は、長期的な滞在によって仏教体験を促せること、またゆったりとした時間の中で自分の心身を整えられることにある」と、同社代表取締役社長である雲林院奈央子さんは説明しました。
一方で、住職の業務負担の減少も一つの目的としています。特に地方では空き寺や廃寺が年々増加しているだけでなく、複数の寺院の住職を兼務していたり住職と別の仕事をこなさなければ生活できなかったりする方も少なくありません。お寺の存続には収益構造だけでなく、住職の働き方改革も解決しなければいけない課題となっています。
都心でも相次ぐ墓じまい、檀家制度の崩壊
正傳寺の住職である田村完浩さんによると、正傳寺でも5年ほど前から毎年数件の墓じまいが続いていると言います。
そもそもお寺の檀家とはサザエさん一家のような大家族を基準に成立していますが、現代の都心においてそのような家族形態は皆無に等しい状態。地元のお墓を守れなくなったために正傳寺にお墓を引っ越すケースも見られますが、墓じまい件数を超えるほどではないため、やはり東京でもお寺の運営が困難になっていることがうかがえます。
住職の田村さんはそんな状況で新たな収益源を模索していたところ、宿坊オープンの話をもらい、ただの宿泊ではなく、お寺に関わり、お寺や仏教に触れて親しみを持ってもらう期待を込めて承諾したそうです。「今後どうなるかはまだ不透明だが、お寺のさらなる発展に寄与したい」と展望を語りました。
正傳寺があるのは、都営地下鉄 三田線 芝公園駅、都営地下鉄 浅草線 大江戸線 大門駅、JR山手線 京浜東北線 浜松町駅から徒歩8〜11分圏と、複数の路線からアクセスしやすい港区芝。正傳寺に声をかけた経緯について雲林院さんは「都心にあって観光資源が豊富な港区という立地的メリットだけでなく、新しいお寺を作っていくことに積極的なご住職がいること」と述べました。
本堂隣の建物にオープンした「Temple Hotel 正伝寺」の中を案内してもらうと、中は1階と2階が分けられており、ホテルというよりゲストハウスに近いスタイル。各部屋にバス、キッチンが付いており、各部屋最大6人までの2組が宿泊でき、一棟貸しにも対応しています。
AIアバターによる遠隔接客サービスで住職の負担をゼロに
お寺の存続が危ぶまれながらも、宿坊という宿泊施設を運営していくことに住職が難色を示すのは当然です。しかし、「Temple Hotel 正伝寺」の業務について住職はノータッチ。お寺のIT化によって、それを実現しているのです。
具体的には24時間の完全無人化システムを採用しており、また開発会社・株式会社UsideUによるAIアバター「尼ター」が遠隔接客サービスを行います。来年導入予定の尼ターは5か国語対応で、チェックインの遠隔操作や緊急時の対応などの業務も遂行するとのことです。
AIアバター導入のメリットについて株式会社UsideU代表取締社長の高岡淳二さんは、おもてなしを効率的に行い人手不足に対応しているだけではないと言います。操作するオペレーターが誰であってもアバター自体のブランド統一感が出やすいこと、オペレーターの身なりや化粧などの環境準備や顔をさらすストレスがなくなること、オペレーターによる簡単なPC操作でアバター画面に動画や地図などの情報を表示させながら説明ができることなど、多くの利点があるそうです。
大学との提携で次世代を育てる役割も担う
さらに「Temple Hotel 正伝寺」の特筆すべき点は、東洋学園大学とも連携し、学生たちがインバウンド観光客を誘致したりお寺を活性化したりするためのマーケティングを学ぶ機会としても提供されていくこと。宿泊客がお寺でできる仏教や日本文化にまつわる体験について、学生たちの企画を積極的に採用していくそうです。
日本で宿坊が活発化したのは江戸時代。当時は世界的に見ても極めて珍しく、一般庶民が自由気ままに旅に行く文化がありました。その旅を支えていたのが、宿坊だと言われています。
人が亡くなった時の供養だけでなく、人々の幸せのためにあらゆる人を受け入れ、人と人を繋ぎ、また寺子屋のように次世代のための教育に寄与していたのがそもそものお寺でした。
そう考えると「Temple Hotel 正伝寺」は何も目新しいことはなく、本来のお寺の姿を取り戻し、お寺に関わるすべての人を幸せに導く“お寺の原点回帰”。全国の困っているお寺のロールモデルとなるのか、今後に注目したいところです。
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