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年130万着を売る「空調服」開発者の市ヶ谷弘司さんに聞くヒットの裏側

LIMO / 2019年8月30日 20時20分

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年130万着を売る「空調服」開発者の市ヶ谷弘司さんに聞くヒットの裏側

 服につけた小型ファンから外気を取り入れ、体表面の汗を気化させることで、暑い環境でも涼しく快適に過ごせるということで知る人ぞ知る商品となっているのが「空調服」だ。2005年から本格販売を始め、その間、室温の高い工場やビニールハウス、建設現場、屋外作業の従事者などを中心に、愛用者は増加の一途をたどってきた。

 本格販売前のプロトタイプの販売から数えると15年ほど経つが、この間にもNHK「おはよう日本」、フジテレビ系「めざましテレビ」、テレビ東京系「ワールドビジネスサテライト」などメディアでも数多く取り上げられ、世界的デザイナーのヨウジヤマモトとのコラボレーションなど、その活躍範囲はさらに広がりを見せている。

 2019年の出荷数は前年の2倍以上の130万着を見込んでいるというが、開発者であり、株式会社空調服の代表取締役会長を務める市ヶ谷弘司さんに、現在の利用シーンから将来的に見据えていることまでを話してもらった。

その人にとって「快適な環境」をつくる

――炎天下や猛暑、高熱な環境下で働く人たちを中心に、空調服がよく利用されています。具体的に、体温をどのくらい下げるのでしょうか?

市ヶ谷:よく聞かれる質問ですが、具体的に何度というわけではなく、「ちょうどよくなる」というのが答えです。人間の体には、もともと発汗による気化熱で体温を下げる機能が備わっていて、われわれは「生理クーラー」と呼んでいます。この「生理クーラー」をサポートするのが空調服の役割です。

 たとえば、暑くなると、暑さに対応した量の汗が出ます。出た汗がすべて蒸発すればちょうどいい温度になりますが、蒸発できないと、脳は「冷却が足りない」と判断して、もっと余計に汗をかかせます。それが蒸発できなければ、さらに無駄に不快な汗が出て暑苦しくなってしまうのです。

 ところが、空調服で服の中に空気を取り入れ、汗を蒸発させることで、体は冷却され、脳も快適だと判断を下すのです。そうすると、それ以上には汗は出ません。そのため「ちょうどいい温度」がキープされることになるのです。

 かつては3時間ほどしか稼働できませんでしたが、バッテリーを改良することで、いまは8時間の連続使用にも耐えられ、それこそ猛暑の中、屋外で作業する方々を中心に重宝してもらっています。汗が即座に蒸発することで、嫌な体臭も軽減されるようです。

――汗を気化させて快適な状態にするのが目的なので、外部環境はあまり関係ないということですか?

市ヶ谷:日本はもちろん、それより温暖な国でも効果を発揮します。ただし、バッテリーを使う関係上、消防士など水にぬれる可能性のある職場での使用はお勧めしていません。

 また、「生理クーラー」を利用していることで特有の現象もあります。夏場に暑い屋外からキンキンにクーラーのきいている室内に入ると、取り入れる外気温が急激に下がりますが、汗はまだ出ている状態のため、冷え過ぎてしまうこともあります。

 また反対に、冷えた室内から外に出ると、汗をかくまで数分はかかり、その間は「生理クーラー」が働かないため、暑い思いをすることになります。そういった時は、一時的にファンを切り、汗をかいてから回すと効果的です。実際、使い慣れた方は、そうして使ってくださっていると聞いています。

スポーツ観戦や音楽フェスなどにも

――真夏に外で働く人などを中心に支持を得てきた空調服ですが、暑さに困っている人は、ほかにもたくさんいます。今後は、どのように使われていくと考えていますか?

市ヶ谷:実のところ、最初は作業現場など限定されたシチュエーションだけではなく、一般向けに広く普及していくと思っていました。日本も都市部を中心に平均気温は上昇を続けていますからね。ところがその読みは外れて、当初は「作業用の服」として認知されていきました。それだけ、実用度が重視されたわけです。

 そうしたこともあって、当初は作業服のようなデザインがメインでしたが、中には空調服を着たまま通勤する人もいることがわかり、迷彩柄を採用したり、2019年には女性も違和感なく着られるようなデザインの製品を発表するなど、さまざまなシーンで使えるモノづくりに力を入れています。服自体は長そでで、空気が行きわたる形なら問題なく、生地だって裏地をきちんと貼れば何を使っても構いません。デニム生地を使ったモデルもあるほどです。

 もちろん日本だけではなく、暑さに困っている国はたくさんありますし、日常を含めて活用できる場所は、まだまだあります。すでに、異業界から提携の声もいただいています。それに、屋外で体を冷やしたい、快適に保ちたいというシーンは作業現場だけに限りません。夏場のスポーツ観戦、音楽フェスをはじめとする各種イベントなど、数え上げればキリがないでしょう。観客もそうですし、スタッフの熱中症予防にだって力を発揮します。

デニム生地の空調服などラインナップも広げている

 急速に体を冷却するという点で、空調服はアスリートにも効果的だと考えています。この時季は寒冷地でトレーニングするようですが、空調服でクールダウンすれば、わざわざ遠方に行かないで済むかもしれませんし、これまで夏場は短時間しか練習できなかったのが、回数を増やすこともできると思います。もちろん、そのためにはファンの性能を上げるなど、利用分野ごとにカスタマイズしないといけません。

 また、これからはオフィスやリビングといった一般的な室内での利用にも対応していきたいと考えています。エアコンを使う頻度が減ると電気代も下がりますし、省エネに貢献できます。ファンを小型化すれば音は軽減できますし、一般の人は作業現場ほど長時間は使用しないでしょうから、バッテリーも小型化することで、よりデザイン性を上げることもできます。

「数年後には『夏の定番』にしたい」

――最近は空調服の類似品も出てきました。

市ヶ谷:発明者としては、フォロワーが登場して認知度が上がり、市場が成長していくのは喜ばしく思っています。ただ、中には、単に服にファンをつけただけで、「生理クーラー理論」にのっとっていない服もあります。汗をかいてもきちんと気化されないのでは、単にファンのついている腰のあたりが涼しくなるだけで、これではほとんど意味がありません。

 また、空調服は電気製品でもあります。粗雑で耐久性の低いつくりだと、回路のショートなどにつながる恐れもありますので、うちでは信頼性や安全性という点にも気を遣ってつくっています。手前味噌かもしれませんが、こうした電気製品としての品質も見極めて手に取ってほしいと思います。

 「空調服」の名前は、うちで商標として使用していますが、「生理クーラー」は、その考え方を正しく広め、より多くの方に理解していただきたいという意味でも、商標登録をして使っています。

――今後はより一般化し、多くの人が利用する。そんな世界を思い描いているわけですね。

市ヶ谷:いまはTシャツやノースリーブが夏の定番の服装ですが、少し先には「まだ、そんなのを着ているの?」といった世界になっているかもしれません。熱中症対策だけではなく、自分自身やご家族の日焼け防止にも役立つと考えています。

Tシャツに代わって、空調服を「夏の定番」にしたいと話す市ヶ谷さん

 おそらく10年も経てば、空調服は特定の業種・業界で働く人たちだけの服ではなく、もっと幅広い層が利用するものになっているだろうと考えていますし、そうするために、今後もいろんな取り組みに注力していくつもりです。

 いまはまだ「知る人ぞ知る」かもしれませんが、メジャーになりつつあると肌でも感じています。これが普及していくことによって「暑さに対する悩み」が解消でき、快適な暮らし、さらには地球環境の改善に役立つよう、これからも取り組んでいきたいと思っています。

 

■市ヶ谷弘司(いちがや・ひろし)
 株式会社空調服代表取締役会長、株式会社セフト研究所代表取締役社長。1947年生まれ。1991年にソニーを早期退職後、株式会社セフト研究所を設立。ブラウン管測定器の販売で赴いた東南アジアで、エネルギーをほとんど必要としないクーラーを発明、開発準備中に「生理クーラー理論」を着想。この理論を応用した「空調服」を開発し、製造。また、その販売のため、2004年に株式会社ピーシーツービーを設立し、2005年に株式会社空調服に社名変更。著書に『社会を変えるアイデアの見つけ方』(クロスメディア・パブリッシング)がある。

(https://amzn.to/2Hk9qTr)

市ヶ谷弘司氏の著書:
『社会を変えるアイデアの見つけ方(https://amzn.to/2Hk9qTr)』

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