「監察医 朝顔」東日本大震災を真っ向から描いたドラマに、令和の私たちが心を揺さぶられる理由

LIMO / 2019年9月29日 19時45分

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「監察医 朝顔」東日本大震災を真っ向から描いたドラマに、令和の私たちが心を揺さぶられる理由

9月23日に放送された最終回の平均視聴率が13.3%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)を記録した上野樹里さん主演のドラマ「監察医 朝顔」(フジテレビ)。今期ドラマの全話平均視聴率でもトップとなり、かつての“月9”人気を復活させたと言っても過言ではありません。

医療と刑事というヒットドラマのキーワードをしっかりおさえつつも、監察医と警察の連携や家族の愛、登場人物たちの心の葛藤をありありと描くストーリー展開が素晴らしく、実力派揃いのキャストや主題歌など、あらゆる点で高評価を得た作品でした。

「朝顔」以前に東日本大震災を描いた民放連ドラ「最高の離婚」

そして何と言っても本作の特徴は、東日本大震災を真っ向から描いているところです。原作となった同名漫画では、主人公の法医学者・朝顔は阪神淡路大震災による被災が原因で母を失っていますが、今回のドラマ化にあたりその設定を変更。朝顔の母・里子(石田ひかりさん)は東日本大震災で津波に飲み込まれて行方不明となり、父の平(時任三郎さん)はその遺体や遺品を今なお探し続けているというストーリーでした。

東日本大震災そのものを描いたり、彷彿とさせる描写をちらつかせたりする映画や単発ドラマ、NHKの朝ドラはこれまでにもたくさんあります。しかし、民放で放送される連続ドラマでは、筆者の知る限り2013年1月にスタートした「最高の離婚」(フジテレビ)くらいしかありません。

「最高の離婚」は、東日本大震災直後の交通機関のマヒから帰宅難民となった濱崎光生(瑛太さん)と光夫の取引先で働く星野結夏(尾野真千子さん)、そしてもう1組の夫婦を通して現代のリアルな結婚観を描いた作品。日本中が震災によって混乱し、また人とのつながりや愛を求めていたあの日の帰宅途中に出会った二人から、30代のリアルな結婚や夫婦の在り方を問うストーリーでした。

「東京ラブストーリー」を手掛けた坂元裕二さん脚本による本作は大きな反響を呼び、数々の賞を受賞するなど大ヒット。当時の日本は、震災で経験した死や孤独への恐怖から結婚が増え、「震災婚」と呼ばれる現象が起きていました。本作は、震災から2年弱しか経っていない中だからこそ、震災で変わった人々の結婚観や他者との繋がりへの渇望などがリアルタイムで共感を呼んだのでしょう。

「最高の離婚」が示した、東日本大震災を描くドラマのハードル

「最高の離婚」は主人公カップルの出会いこそ東日本大震災でしたが、主たるテーマは結婚や離婚、そして家族の在り方。電車で帰れなくなった多数の人々が、ひたすら道路を歩いて自宅へと向かう帰宅難民のシーンはあれど、激しい揺れのシーンや津波のシーンは出てきませんでした。

しかし、2013年当時に何かしらの形で東日本大震災を出すことは制作陣として非常に勇気のいることだったはず。民放の連ドラは批判を受けて打ち切られる可能性も十分にあるからです。

実際に当時は、光生が結夏との結婚を後悔していることを「あの日あんなことがなかったら結婚しなかった」と発言する第1話が放送されると、「不謹慎だ」という批判が少なからずありました。しかし、回を追うごとにストーリーのテンポや脚本の妙が評判を呼び、最終的には続編も作られるなどのヒット作となります。

この「最高の離婚」のヒットは、東日本大震災を扱うドラマの方向性を決めたと言っても過言ではないように思えます。それは、今なお行方不明者が2500人以上もいるあの震災を、安易にお涙頂戴の道具として使うことは絶対にできないと。

被災者だけでなく日本中の心の傷となっている東日本大震災をドラマ内に登場させれば、多くの視聴者の同情や悲しみの涙を誘えることは想像に難くありません。

しかし、移り変わる日本人の震災を通した心象を十分に組み込んだ素晴らしい脚本がなければ、直接的な被災者だけでなく、すべての日本人の心に土足に踏み込んでしまうことになる。東日本大震災を出すからには、その描写やストーリーにおける存在意義を抜きにしても、ドラマ自体のクオリティそのものが相当高くなければいけないのです。

原作と設定を変えてまで東日本大震災の津波警報音や遺体安置所、心のトラウマを抱えながらも遺体を探し続ける遺族の姿までも描き切った「監察医 朝顔」には、そうした「最高の離婚」を経て震災描写に挑んだ制作陣の気概を感じられずにはいられませんでした。

震災が単なる“平成の歴史”として忘れられることがないように

自分が被災したわけでも家族を失ったわけでもないのに、なぜ朝顔が母の里子を亡くした仙ノ浦駅で被災がフラッシュバックしたシーンを見て涙してしまうのか。なぜ、平が舅の浩之(柄本明さん)から疎まれながらも、泥だらけになりながら妻の遺体や手掛かりを必死に探す姿に胸が苦しくなるのか。

それは、東日本大震災以降の私たちにとって、日本各地で頻発するあらゆる自然災害を他人事と思えなくなっているからではないでしょうか。母を亡くした朝顔はあの時の自分だったかもしれず、妻の遺体を探し続ける平は明日の自分かもしれない。そして朝顔と平を残してこの世を去ってしまった里子の亡霊は、未来の自分かもしれない。

東日本大震災から8年以上が経った今、私たちは自然災害で被災した場所や人を伝えるニュースを目にすると震災以前のようには傍観できなくなりました。被災した方々を他人事として捉えられず、自分と同一視せざるを得なくなったからです。今回の台風15号で起きた千葉県の大規模な停電や断水にも、日本中の人が関心を寄せ、早急な対応策を求めて強い憤りを露にしたのもそうした意識が働いていたように思います。

その傍観しない視点を持ち続けてこそ、東日本大震災を“平成の歴史”として過去に置き去りにせず、“令和の未来”として語り継いでいくことができるのでしょう。令和最初の“月9”が「監察医 朝顔」であったことに、東北出身の筆者は今後のドラマ界の希望を見た気がしました。

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