「財政破綻が不安」と言いながら日本国債を買う人がいる。その理由とは?
LIMO / 2019年12月1日 20時15分
「財政破綻が不安」と言いながら日本国債を買う人がいる。その理由とは?
財政破綻を心配している人は多いですが、そうした人の中にも日本国債を買っている投資家は大勢います。その理由について久留米大学商学部の塚崎公義教授が解説します。
財政の破綻を心配している人は多い
日本政府の財政収支は大幅な赤字を続けていて、政府の抱える借金は巨額に上っています。そこで、日本政府は将来は破産する(財政は破綻する)と考えている人は大勢います。
筆者は心配していないのですが、それは置いておくとして、心配している人の中にも日本国債を買っている人は大勢います。普通に考えれば、多くの人が財政破綻を心配するような国の国債がマイナス金利で取引されているのは不思議なことですが、それが日本では起きているのです。では、なぜ彼らは日本国債を買っているのでしょうか。
投資家たちは、「明日までは大丈夫だろう」「他の投資家も買うから大丈夫だろう」「資産と負債が両建てなら安心だ」と考えて買っているのでしょう。以下、順に見て行きましょう。
明日以降のことは明日考えよう
手元に現金を持っている投資家は、「明日以降のことは明日考えるとして、今日は何をしようか」と考えるはずです。日本国債を買わないとすると、選択肢は限られます。
現金で持っていると大きな金庫が必要ですし、強盗のリスクもあります。メガバンクに預金したとしても、日本政府が破産する時にはメガバンクも一蓮托生でしょう。
そうなると、円を米ドルに替えてドルを持つしか残っていませんが、それには為替リスクがあります。
「明日までに日本政府が破産する可能性」と「明日までにドル安円高になって為替差損が発生するリスク」を比べれば、明らかに前者の方が小さいでしょう。それならば、日本国債を持つインセンティブとしては十分です。
実際には、ドルが値上がりして儲かる可能性もあるのですが、投資家たちはリスクを嫌う人が多いので、「儲かるか損するか五分五分ならば、ドルには投資しない」ということで日本国債を選ぶ人が多いのです。
こうして投資家たちは、「とりあえず国債を買って明日まで持っていよう。明日のことは、明日考えよう」という行動を取ります。明日も明後日も、同じ行動を取るでしょう。したがって、結局ずっと日本国債を持っている、というわけです。
社債であれば、金利が低くて倒産可能性が高い会社の社債を好き好んで持つ投資家はいません。国債購入という代替手段があるからです。しかし、国債には「為替リスクなしに使える代替手段」が無いので、消去法的に国債が買われるのです。
他の投資家も買うだろうから大丈夫だろう
投資家は考えます。「自分は、いろいろ考えて日本国債を購入した。他の投資家も、同様に行動するだろう。それなら、しばらくは日本政府は破産しないだろう」と。
借り手が破産するか否かは、借り手の借金が多いか否かによるのではなく、借り手の資金繰りが回るか否かによります。
したがって、いくら借金が多くても、皆が喜んで(消去法的であっても自発的に)金を貸してくれるのであれば、政府が破産することはないのです。
あとは、他の投資家がいつまで政府に金を貸し続けるのか、ということですが、「少なくとも当分の間は大丈夫そうだ」と皆が感じるならば、少なくとも当面は大丈夫になるでしょう。
「当面は大丈夫」が永遠に繰り返されれば、永遠に破産しないわけです。これは、筆者が政府は破産しないと考える根拠の重要な一つです。
ハイパーインフレは気にしない、という投資家も多い
「日本国債は、いざという時に日本銀行が買ってくれるから安心だ」と考えている投資家もいるでしょうが、そうした人は「その時には超インフレになるはずだ」ということを心配するのが普通です。超インフレになれば、日銀券は紙くず同様になってしまうからです。
しかし、投資家の中には、超インフレを気にしない人も大勢います。たとえば銀行預金を預かって国債を購入している銀行は、国債を日銀が買い取ってくれて、紙幣を受け取ったら、それをそのまま預金者に渡せば良いので、紙幣が紙くずになろうと関係ありません。
そこまで割り切って考えるならば、日本国債はかなり安全な投資対象です。日本政府が破産することは考えにくく、最後の最後は政府が日銀から現金を借りてきて、それで国債を償還することで破産を免れることになるのでしょうから。
それがハイパーインフレを招く「禁じ手」であるとしても、他に手段が無い場合には、「破産するよりマシ」という最後の手段として用いられるはずです。そう考えることにより、銀行等は国債を買うリスクを感じずに済むようになるのです。
財政破綻を心配している人も日本円紙幣を持っている不思議(笑)
余談ですが、財政赤字を心配している人も、ほぼ全員が日本銀行券(紙幣)を持っているでしょう。日本政府の子会社が発行した紙切れを大事に抱えているのは、不思議なことですね。実は、これも本質は日本国債を持っている投資家と同じなのです。
日常生活には日本円が欠かせません。「日本政府が破産することを心配して日本円を持たずに不便な生活をするデメリット」と「日本政府が明日までに破産して紙幣が紙くずになるリスク」を比べて、前者の方が大きいから紙幣を大事に持っているのですね。
本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。
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