新型肺炎の致死率は本当に低いと言えるのか?
LIMO / 2020年2月23日 20時20分
新型肺炎の致死率は本当に低いと言えるのか?
新型肺炎の致死率は低いと言われていますが、死者数を患者数で割るという計算方法に問題があるかもしれない、と久留米大学商学部の塚崎公義教授は心配しています。
新型肺炎は急激に増加中
新型肺炎の患者数は、急激な増加を続けています。新しい病気なので、治療法が確立されておらず、潜伏期間が長いことから感染の拡大を防ぐことが容易ではない、と言われています。
感染が始まった中国の武漢市で圧倒的に患者数が増えているほか、他の地区や他の国への感染の広がりも続いています。中国の近代化やグローバル化によって人の移動が増えたこと、中国の春節の時期に行われた人々の大移動によってウイルスが拡散したこと、なども感染拡大の要因だと言われています。
筆者は、新型ウイルスに詳しいわけではなく、病状等々もよく知りませんが、門外漢としてこの問題を眺めた時、大いに気になっていることがあります。それは、「感染は拡大しているが、致死率はそれほど高くない」という楽観論についてです。
今後、ウイルスが突然変異して致死率が高まる可能性もあるのでしょうが、筆者が心配しているのは、現状の致死率が本当にそれほど低いのか、ということです。
致死率は2〜3%程度だと言われていますが、それは死亡者数2,250人を患者数(治癒した人も含む累計、以下同様)76,796人で割った値のことです。その計算方法で良いのでしょうか。疑問が2つあります(出所:ncov.dxy.cn(https://ncov.dxy.cn/ncovh5/view/pneumonia?fbclid=IwAR3QfqZThx2iPPDL0EF2C-OgP8mKzU-jXgmoMQgSA96tlQkpI_XWJdXEQsE)、2月22日午前6時現在)。
これから死ぬ人のことを考えていない
患者数76,796人に対して、死亡者は2,250人、治癒した人は18,860人であり、残りの大多数の人は「今後、死ぬか治癒するか」です。上記の2〜3%というのは、残りの大多数の人が全員治癒すると仮定した場合の致死率なので、本当にそれで良いのか、心配です。
結論の出た人(すでに死んだ人と治癒した人の合計)に占める死者の比率は結構高いので、結論の出ていない人が同じ確率で死亡するとすれば、大ごとです。
数日前の患者数で割るべきでは
仮に新型肺炎という病が、罹患して数日後に症状のピークを迎えるものだとします。その場合、罹患した数日後に死亡するか、その山を乗り越えれば回復に向かうか、ということになります。
そうだとすると、死亡者を今日の患者数で割るのは不適切です。今日までの死亡者数を、数日前までに罹患していた患者数で割るべきです。
通常であれば、今日の患者数も数日前の患者数も大差ないのでしょうが、今回のように患者数が急増している場合には、この差が結果に大きな影響を与えかねないので、心配なのです。
武漢の死亡率が他より高い理由を考える
武漢市の患者の死亡率は、全体の死亡率より高くなっています。その理由が「武漢は医療体制が患者数に追いついていないから」ということであれば、武漢以外の地域については比較的安心でしょう。
武漢の方には申し訳ありませんが、武漢が封鎖されているため、他の地域の患者数が限定的で、十分な治療が受けられることで死なずに済んでいる、ということになりそうです。
しかし、新型肺炎が発病してから死亡するまで長い期間を要する病だとした場合には、「武漢は昔から患者が多かった。昔から患者だった人が亡くなっているから、死亡率が高いのだ。武漢以外の患者は発病してから日が浅いので、死亡率が低いというだけのことだ」ということも考えられます。そうだとすれば、心配です。
致死率が低い可能性も当然ある
致死率が低い可能性も、当然あります。医療従事者の多くがそう言っているわけですから、むしろその可能性の方が高いのかもしれません。
第一に、データ的には「湖北省以外の地域では、中国国内でも外国でも死者数が治癒数より圧倒的に少ない」ということが根拠となるでしょう。湖北省では患者が多すぎて医療体制が崩壊しており、それが高い致死率の原因となっていますが、「医療体制が崩壊していない地域では致死率は非常に低い」という可能性もあるのです。
第二に、たとえば「新型肺炎は、罹患した直後は死ぬ人がいるが、罹患した当日を生き延びれば、翌日以降は死亡する可能性はほとんどない。もっとも、治癒するまでには長い療養期間が必要だが」という可能性です。
そうだとすれば、上記の計算式で正しいということになります。結論の出ていない人は、全員が治癒するわけですから。
第三に、新しい治療法が早期に確立されて治癒率が一気に高まる可能性です。世界中の研究者が熱心に研究しているでしょうから、この可能性にも期待しましょう。
もう一つ、これは望ましいことではありませんが、統計に表れていない罹患者が数多くいる可能性もあります。「罹患しても症状が出ないから検査を受けていない人」が多いとすれば、そうした人を分母に加えた致死率は低くなるはずですから。
統計を扱う場合には色々なことを考えて慎重に
繰り返しになりますが、筆者は新型肺炎については門外漢です。したがって、「致死率はもっと高いはずだ」などと言う根拠は何も持っていませんし、そんなことを言うつもりもありません。
ただ、統計を扱う際には、様々なことを考えて慎重に扱うべきだ、という一例として新型肺炎の致死率について考えてみただけです。あしからず。
末筆ながら、亡くなられた方にはお悔やみ申し上げます。患者の方にはお見舞い申し上げると共に、回復をお祈りしております。そして、医療関係者等々に対しては、感謝の気持ちを込めて敬意を表したいと思います。
本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。
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