私の存在意義は「うちの子のママ」だけなの!?…子育て中のアイデンティティ・クライシス
LIMO / 2020年3月17日 10時45分

私の存在意義は「うちの子のママ」だけなの!?…子育て中のアイデンティティ・クライシス
あなたは「〇〇ちゃんママ」、と「我が子の名前+ママ」の呼び名で声をかけられたとき、抵抗感がありますか? それとも特に何とも思わないでしょうか?
母としての自覚がイマイチ芽生えてなかったころ、筆者は子どもの検診で病院を訪れたときに初めて「〇〇ちゃんママ」と呼ばれました。「え、私のこと?」とどこか他人事のような新鮮な気持ちで受け止め、「そうか、私はママになったんだ」としみじみ感じると同時に、言いようのない不思議な気分が湧いて来たのです。
当たり前のように呼ばれてきた自分の下の名前。家族や友達と過ごしてきたこれまでの自分。それらが突然すうっと遠のいてしまったように感じました。
「○○ちゃんママ」への感じ方は人それぞれ
このような違和感を持つのはおかしいことなのでしょうか。
一度、インターネット上でママたちに問いかけてみたことがあります。その時に寄せられた声が「わかる!抵抗あるよね派」と「別に…考えすぎじゃない?派」とに大きく2つに分かれたことも、筆者にとって印象的なできごとでした。
例えば…
「抵抗あるよね派」の意見
「子どもの付属物になったような気分になるので、その呼び方はイヤです」(1歳女の子のママ)
「○○ちゃんママと呼ばれると、一線引かれた気持ちになる。あなたとは“子どもありき”の付き合いです!と宣言されたようで、ちょっと寂しいかな…」(3歳男の子のママ)
「保育園のママ友など、相手の名前がわからないうちは仕方ないけれど、だんだん親しくなって名前がわかってきたら、やっぱり自分の名前で呼ばれたいですね」(2歳男の子のママ)
「考えすぎじゃない?派」の意見
「別に呼び方はなんでもいいです。子育て界の暗黙の了解のようなものかと思っています」(4歳・3歳姉妹のママ)
「子どもを介して付き合う間柄なんだから、その呼び方が一番便利。特に顔しか知らないレベルのママ友は、それ以外に呼びようがないですし」(1歳女の子のママ)
「ママと呼ばれることに憧れがあったので、そう呼ばれると単純にうれしいです」(4歳男の子のママ)
どちらの意見もなるほど、と思えますよね。特に子どもを介しての付き合いとなるママ友同士では、お互い下の名前は知らないなんてことも多々あります。子どもの名前はすんなり覚えられても、その親の氏名まで把握する機会はそうそうないものですし、慌ただしい母業のさなかでそこにまで脳内リソースを割けない!ということも。
このように「○○ちゃんママ問題」への感じ方が大きく分かれるのは、ママたちの「アイデンティティの揺らぎ」の起きやすさに個人差があるからではないか、と筆者は考えています。
「アイデンティティの揺らぎ」が少なく、母である自分とこれまでの自分をほどよく切り分け、どちらも“私”だと受け入れられる人にとっては、「○○ちゃんママ」は特に抵抗を感じる呼び名ではないのかもしれません。
自分が自分でなくなるような危機感
子どもを産んで育てるというのは、女性にとって世界を一から組み立てなおしていくようなインパクトのある出来事。さらに妊娠中から産後しばらくの間は、“母”という不馴れな立場でさまざまな決断や行動をしなければなりません。
そんな未知の世界を手探りで歩んでいるさなかにかけられる「○○ちゃんママ」という呼び名。「アイデンティティの揺らぎ」を起こしやすいタイプの人であれば、ゆっくりと母という“役割”に染められていく感覚に、自らのアイデンティティの危機を感じることもあり得るでしょう。
──ママである自分と、ママじゃない自分。どちらも自分のはずなのに、ママじゃなかったこれまでの自分がどこかへ消えてしまいそう…。
子育てをすることは、ある意味、自分が信じる “正しさ”や“価値観”をリレーのバトンのように我が子に手渡していく作業。足元がしっかりしていないと、たちまち不安に包まれてしまいます。どうしたら自分を見失う不安にかられることなく、「ママとしての私」と折り合いをつけることができるのでしょうか。
自分に名前をつけてあげよう
「アイデンティティの揺らぎ」に振り回されがちな子育てステージにおいて、有効な方法の一つが「自分に名前をつけること」ではないかと、筆者は考えています。
リアルの人間関係から離れた場所に、一つ居場所を作ってみること。その際には、ハンドルネームやユーザーネームのように、自分で名前を設定することがポイントになります。創作のペンネームでも、オンラインゲームのアカウント名でも、なんでもいいのです。
世の中に匿名で何かを投げかけるとき、あなたは自分になんという名前をつけたいですか? 単なる思いつきでもいいのですが、できれば今の自分が持っている特性や嗜好に思いをめぐらせ、名前に反映させてみてください。
──人からどう呼ばれたい? どういうイメージで見られたいと思ってる?
あらためて自分の名前や居場所を用意することで、「これまでの私」とも「ママである私」とも距離をおいた視点から、今の自分を眺めてみることができるのではないでしょうか。
世間に求められていると感じている“役割”と、自分が本来持っている“個人”としての特徴との間には当然ギャップがあるでしょう。同時に、案外重なっている部分があることにも気づくかもしれません。子どもを産む前には考えもしなかった理想の自己イメージを発見して、驚くこともあるのでは…。
まとめにかえて
「○○ちゃんママ」と呼ばれることで発生するモヤモヤした気持ちは、自己の軸や足元が揺らぐことが主な原因と考えられます。
自分は誰なのか、何が好きで何が嫌いなのか、何を考えて生きてきたのか。自己を見つめることで、「これまでの私」と「ママとしての私」は、緩やかなグラデーションを描いてつながっていくことでしょう。いつしか「○○ちゃんママ」と呼ばれることへの抵抗感も薄れているかもしれません。
自分が立っている場所を踏み固める作業は、子育て中のアイデンティティ・クライシスを乗り越える大きな力になるはずです。
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