コロナ不況はリーマンショックより対応が困難。V字回復はあり得るか?
LIMO / 2020年4月19日 20時15分
コロナ不況はリーマンショックより対応が困難。V字回復はあり得るか?
新型コロナ不況はリーマンショックより対応が困難だが、一度回復し始めれば回復も早いはずだ、と筆者(塚崎公義)は考えています。
リーマンショックは単純だった
リーマンショックは深刻な不況でしたが、「金融機関の収益が悪化して金融システムが痛み、金融仲介機能が麻痺したことで、実体経済にも深刻な打撃が加わった」という従来型の金融危機でした。
したがって、何をすれば良いかは分かっていたわけです。金融システムを健全化して金融仲介機能を回復させること、並行して落ち込んだ需要を回復させること、そのためには金融を緩和し、金融機関に公的資金を注入し(増資させて政府が引き受けることで金融機関を健全に戻す)、減税や公共投資で需要を刺激する、というわけですね。
それ以上に重要なことは、とにかく思い切り頑張れば良かった、ということです。大きな怪獣が出現したので、思い切って持っている武器を全部使って攻撃した、というわけですね。
それに対して今次新型コロナ不況は、未知の病との戦いであることに加え、思い切り攻撃すれば良いというわけでないので、対応が困難です。
医学的には「ウイルスを殺そうと強い薬を使うと副作用で人間が死んでしまう」ということがあるのでしょうが、本稿の関心事項は「外出の自粛をやりすぎると需要が減りすぎて経済が死んでしまう」ということにあります。
これは、政府にとって難題です。自粛が足りなければ感染が拡大して大勢の死者が出かねませんが、自粛が過ぎれば不況が深刻化して大勢の失業者や自殺者が出かねませんから。
政治家が保身を図るとすると自粛過剰になる、という問題もありそうです。自粛不足で感染が拡大すれば、必ず批判されるでしょうが、自粛しすぎて不況が深刻化しても「自粛しなければ大勢の死者が出ていたはずだ」と言えば追求はかわせるからです。
まあ、日本の場合には感染拡大の時期を遅らせることができているので、欧米の例を見ながら判断できるわけですから、不幸中の幸いと言えるのかもしれませんが。
今次不況は需要の喚起が困難
リーマンショックの時には、「人々の所得が減ったので消費が減った」「企業の売り上げが減ったので設備投資が減った」ということだったので、需要喚起策として減税や公共投資が有効に機能しました。
銀行が貸し渋りをして設備投資資金が借りられない、という企業も多かったですが、金融システムの強化をはかり、金融仲介機能を回復させたことで貸し渋りが減り、設備投資が増える、ということができました。
しかし今回は、人々の所得が減ったから消費が減ったというわけではありません。人々が外出できないので買い物ができないのです。したがって、消費税を減税しても国民に現金を配っても、消費は戻らないでしょう。
消費が戻らなければ、設備投資も出ないでしょう。そもそも設備投資したくても、設備機械メーカーの生産体制が機能するか否かも疑問ですし。
公共投資をすれば良いと筆者は考えていますが、政府は感染拡大を防ぐという観点から消極的なようです。
そうした時の政府の対応として、ぜひとも頑張ってほしいのは、倒産と失業の増加を食い止めることです。苦境に立たされている企業に資金繰りを付けることと、雇用調整助成金等の拡充により解雇を思いとどまるように促すことが重要です。
将来需要が戻った時に倒産してしまった企業は戻れませんが、倒産寸前で持ちこたえた企業は再び元気になるでしょうから、その境界線を越えずに済むように支援をお願いしたいのです。全国民に広く浅く現金を配布するよりも、遥かに効果的な財政支出だと思います。
回復は迅速と期待
悪い話ばかりではありません。今次不況は急激に需要が落ち込みましたが、新型コロナの収束宣言が出たら迅速に需要が戻ると期待しています。
金がないから消費しない、というわけではなく、金はあって消費したいのに外出できない、というのが現状ですから、収束宣言が出れば直ちに押さえ込まれていた需要が顕在化するはずです。
設備投資も、消費が戻れば戻るでしょう。収束宣言が出れば、先行きの不確実性も和らぐでしょうから。
リーマンショックの時には、銀行の貸し渋りに懲りてトラウマになった企業が「借金をして設備投資をする」ことに抵抗を感じたようですが、今回は特に銀行の貸し渋りも生じていないようなので、企業のトラウマが悪影響を及ぼすこともなさそうです。
一部には、部品の入手困難による生産面の混乱を心配する声もありますが、災害で工場が壊れてしまった場合とは異なりますので、影響は短期的でしょう。
主要な部品を作る企業が倒産してしまった、という場合には影響が大きいかもしれませんが、そうした部品メーカーについては製品メーカーがしっかり支援して倒産しないように守っているはずだ、と信じることにしましょう。
リスクシナリオとしては、インフレの可能性を頭の片隅に置いておく必要があるかもしれません。たとえば世界的に「食料を多めに持っておきたい」と考える人が増えると、食料の需給が逼迫して食料価格が上がるかもしれません。
もうひとつのリスクシナリオとしては、金融危機の可能性を頭の片隅に置いておく必要もあるかもしれません。国内では不良債権の増加で銀行が貸出に慎重になる可能性、海外では途上国からの資金引き揚げによって通貨危機が発生する可能性、景気悪化による財政赤字で財政破綻が懸念される国が出てくる可能性、などですね。
あくまでもメインシナリオではなく、リスクシナリオですが、これらのリスクについては別の機会に論じることとしましょう。
本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。
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