新幹線「利用者8割減!」人の動きが止まった日本の未来予想図
LIMO / 2020年4月23日 0時0分
新幹線「利用者8割減!」人の動きが止まった日本の未来予想図
新型コロナウイルスの感染拡大によって、政府からの「緊急事態宣言」が当初の7都府県から全都道府県に拡大され、自宅待機や在宅勤務が主体になりつつあるという方も多いのではないでしょうか。その結果、「人が移動をしなくなっている」というのは、誰もが感じていることではないかと思います。
この記事では、「東海道新幹線」のデータを活用しながら、「人の移動」が実際にはどのくらい落ちているのか、またこの状況が続くとすると、社会はどのように変化していくのかについて考察していきます。
月次の利用率「前年比▲85%」の衝撃
東海道新幹線の中でも、まず「のぞみ」から見ていきたいと思います。
JR東海が4月16日に発表した「輸送量の推移」(※1)を見ると、4月1日から15日までの新幹線「のぞみ」の月次利用状況は、対前年比で14%となり(東京口)、対前年同月比では▲86%ということになります。
また、「ひかり」「こだま」を含めた新幹線全体で見ると、前年比で15%(東京口)ということで、対前年同月比▲85%となっており、ほとんどの人が利用していない状況となっています。
また、新幹線の大阪口での月次利用状況も14%となっており、対前年同月比で▲86%ということで、「東京からも大阪からも移動がほとんど止まっている」という状況だということがわかります。
※1 https://company.jr-central.co.jp/ir/passenger-volume/_pdf/000040326.pdf
2月まではここまで酷い状況ではなかった
この4月からは、データの取り方が変わったのですが、2月までは4月ほどの状況ではありませんでした。
1月の「のぞみ」の月次利用状況は103%(対前年同月比+3%)、2月は92%(同▲8%)、3月は40%(同▲60%)ということで(※2)、2月までは4月のような状況ではなかったといえます。
2020年4月7日に政府から緊急事態宣言が出され、埼玉県・千葉県・東京都・神奈川県・大阪府・兵庫県・福岡県の7都府県に対して適用されたことによる影響が大きかったと見てよいでしょう。
ちなみに、2019年度の輸送量というのは、のぞみ・ひかりの場合は「小田原~静岡」、こだまの場合には、「新横浜~小田原」の累計断面輸送量となっています。2020年度の数値とはとらえ方が異なる点は注意が必要です。
※2 https://company.jr-central.co.jp/ir/passenger-volume/_pdf/000039526.pdf
「人の移動」回復は緊急事態宣言次第か
昨年のわずか十数%の利用率となってしまった新幹線。このあと、どうなるのでしょうか。
「このあと新型コロナウイルス感染が収束してくれば、人の移動が回復していき、時間をかけて以前の利用率に戻ってくる」というのは、現時点では誰もが期待をしているところでしょう。これが現時点でのメインシナリオです。
しかし、収束のメドが立たない中で、「人の移動」に対する考え方の変化が起きているのも事実です。
筆者の父親はすでに70歳を超えていますが現役で、勤務する会社の会議がZoomで行われるとのことで、スマホからオンラインで仕事を始めるようになっています。そもそも出張が多かったのですが、現在はすべて家からの対応となっています。
「人が動かない社会」になるのか!?
今後、たとえば「特効薬が開発される」「ワクチン接種ができる」というような環境に至るまでに1年以上かかるという前提になった場合には、これまでのような「移動してから何かをする、始める」という行動は取りにくくなると考えられます。
そうなった場合は、「人の移動が回復して……」というシナリオについて、当分は前提に置くのさえ難しく、その間に人の行動が変わってしまうという気さえします。
ここまで見てきた新幹線でいえば、その利用目的は、「ビジネス」「旅行」「帰省」などが考えられます。「旅行」や「帰省」などはプライベートな事情が強く反映されますが、こと「ビジネス」に関しては、政府や自治体からの要請に従わざるを得ないという背景があります。
したがって、新幹線に限らず、「ビジネス需要の移動」は大きく減少することになるかと考えられます。資料は古くなりますが、運輸総合研究所の調査によれば、新幹線の主な需要は「ビジネス(仕事)」です(※3)。このビジネス需要がなくなると、東海道新幹線を運営するJR東海などは、すでに減便を強いられているものの、いま以上に運行本数の大幅な見直しやオペレーション体制の再構築を迫られる可能性が高くなるでしょう。
※3 https://www.jttri.or.jp/members2/kenkyuh/21_sato.pdf(P.21)
インフラ・装置産業の宿命は「稼働率」
こうした状況は、何も新幹線を運営するJRだけに限りません。同様な移動のインフラである飛行機も、直面している状況は変わらないのです。航空会社もすでに運航本数の大幅な削減などを発表し、実施しています。
このようなインフラの収益を考える上で重要なのは、保有している機械や装置(鉄道会社であれば車両、航空会社であれば機材)の稼働率です。これらの産業は「装置産業」とも呼ばれます。
冒頭に、「東海道新幹線の利用率が対前年比で8割以上減」という話に触れました。装置産業は、固定費を超える売上高があった場合には、収益率が高くなりますが、固定費が大きい分だけ、装置や機材の稼働率が落ちて売上高が小さくなると、損失が大きくなってしまうという特徴があるのです。
今後の2つのシナリオ
では、こうした運輸インフラの今後はどうなっていくのでしょうか。
「楽観的なシナリオ」としてあるのは、早期に(これが予想できないので、みな困っているのですが)新型コロナウイルス感染に収束のメドがつき、再び運行・運航ができるようになるのであれば、国民の生活に必要なインフラであることも考えると、当面の資金繰りは、銀行などの金融機関からの融資でつないでいくことは可能でしょう。これは、多くの人が望んでいるシナリオだといえます。
しかし、「悲観的なシナリオ」も考えておくべきでしょう。先ほど「固定費」の話をしましたが、この固定費は、事業を通常通りしていても、していなくても発生する費用です。稼働率が低く、固定費をカバーできる売上高が十分にない状況が続くと、金融機関の融資だけではつなぎきれないという可能性もあります。その場合には、競合企業同士の統合、業界における再編、またそうした選択肢すらも取れない場合には国有化などの話に発展してしまいかねません。
新型コロナウイルスによって「人の移動」が制限され、輸送という社会インフラを担う企業が想像を絶する状況に直面しているのが現在です。今後、いまの状況が続けば、そもそも「人が移動して経済が回る」という発想を転換しなければならないかもしれません。
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