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コロナによる金融危機はこう起きる〜不況下のリスクシナリオ

LIMO / 2020年6月14日 20時0分

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コロナによる金融危機はこう起きる〜不況下のリスクシナリオ

深刻な不況が金融危機を招く可能性は否定できないので、リスクシナリオとして頭の片隅に置いておくべきだ、と筆者(塚崎公義)は考えています。

* * * * *

新型コロナ不況の深刻化にともなって、金融危機の発生を心配する人が増え始めているようです。そこで、リスクシナリオとして金融危機を考えるシリーズを記すことにしました。第1回の今回は、起こり得る金融危機の概観です。

金融危機は何度も起きてきた

過去、金融危機は何度も発生しました。典型的なのは、バブル崩壊による不良債権の増加で銀行経営が傾き、金融仲介機能が麻痺してしまった場合です。日本の平成バブル崩壊後の金融危機、米国で不動産バブル崩壊後に起きたリーマンショック、等々は、規模も影響も巨大なものでした。

新興国から大量の資金が流出して新興国通貨が暴落し、通貨危機が発生したこともあります。アジアの通貨危機は記憶に残っている人も多いでしょう。

先進国でも政府債務が拡大して返済不能となったケースがありました。ギリシャの債務危機は記憶に新しいですね。

今回懸念されているのは、深刻な不況が原因で金融危機が発生するかもしれない、ということです。どのようなことが起こり得るのか、考えてみましょう。

皆が危ないと思うと本当に危なくなる

金融危機を考える際に重要なことは、皆が危ないと思うと本当に危なくなる、ということです。トイレットペーパー不足は、原因がなかったのに皆が「不足する」と思っただけで起きたわけですが、金融危機も同様に原因が無くても起きることなので、恐ろしいのです。

皆が「あの銀行は破綻する」と思うと皆が預金を引き出すので、本当に金庫が空になって破綻してしまうかもしれません。「あの借り手が危ない」と銀行が考えると、一斉に返済要請が来るので、本当に倒産してしまうかもしれません。

「他人が買う前にトイレットペーパーを買おう」「他人が引き出す前に銀行預金を引き出そう」「他の銀行が返済要請をする前に返してもらおう」と人々が考え始めたら、その流れを止めることは容易ではありませんから。

リスクシナリオは多様

不況で倒産が増加すると銀行の損失が膨らみます。人々が不安に思うようになった時に「あの銀行は危ない」といった噂(またはデマ)が流れると、取り付け騒ぎが起きるかもしれません。長引くゼロ成長とゼロ金利で痛んでいる地域金融機関も多そうですから、要注意ですね。

取り付け騒ぎまでは行かなくても、銀行が自己資本比率規制の影響で貸し渋りをせざるを得なくなる、という可能性もあります。大胆に簡略化すると、銀行は自己資本の12.5倍までしか貸出ができないので、赤字が続いて自己資本が減ると、貸出を減らさなくてはいけなくなるからです。バブル崩壊後の金融危機の時に貸し渋りが横行したので、覚えている方も多いと思いますが。

貸し渋りを受けた借り手は他行から借りにくい、ということも問題となりそうです。従来の取引先であれば様子がわかっていますが、取引のない企業から借入申込を受けた他行は、その企業の返済能力等を調べるのに時間がかかります。しかも、従来の取引先であれば目をつぶってくれるような些細な問題点でも、新規融資に際しては大きな障害となりかねないのです。

銀行が実際に倒産すると、金融市場が凍りつく、という恐ろしいことが起こります。銀行相互の資金貸借が行われなくなるので、各銀行は「資金不足になっても誰も貸してくれないなら、金庫に札束を積み上げておかないと不安だ」と考えるようになります。そうなると、貸出を回収して金庫に積んでおこう、となるわけです。

米国では、低格付けローンの証券化商品が大量に売られていて、日本の金融機関でも購入しているところがあるようです。低格付けの仕組み債は、もともと流動性が高くないでしょうし、人々が不安になると一斉に買い注文が引っ込みますから、売りたくても値段にかかわらず売れない、といった事態も想定されます。リーマンショックの時に大問題となったのが証券化商品であったことを考えると、今回も米国中心に大きな問題となりかねません。

人々が不安になると、「とにかくドルを手元に多めに置いておきたい」と考えるようになるかもしれません。事業会社も売り上げ急減に備えて現金を持ちたいと思い、金融機関も取り付け騒ぎ等を恐れて現金を多めに持ちたいと思うようになると、中央銀行がいくら金融を緩和して資金を市場に供給しても足りない、ということになりかねません。

ドルが世界的に不足すると、新興国にしわ寄せが行くかもしれません。先進国から返済要請が相次ぐと、返済のためのドル買いが急増して急激なドル高自国通貨安となり、通貨危機に発展しかねないわけです。

新興国に関しては、景気悪化に伴う財政赤字拡大などを懸念して先進国からの資金が引き揚げられる、といったこともあり得るでしょう。

先進国でも、たとえばイタリアの経済は深刻でしょうから、税収が落ち込んで景気対策費用が嵩んでイタリア政府が破綻する、といった可能性も皆無ではありません。ユーロ圏諸国が必死に助けようとするでしょうから、過度な懸念は不要でしょうが、リスクシナリオとしては留意しておきましょう。

新型コロナの影響で、生産が滞る物が増えたり流通が滞ったりすると、インフレになるかもしれません。深刻な不況とインフレが共存する「スタグフレーション」は、景気対策とインフレ対策という相反することを同時に行わなくてはならないので、大変です。

インフレ対策を優先して金融を引き締めた場合、国債価格が暴落して金融機関が大きな損を被り、それが金融危機をもたらす可能性も皆無ではないでしょう。

以上、色々と記して来ましたが、本シリーズは予測ではなくリスクシナリオですので、リスクの存在を頭の片隅に置いておこう、ということであって、過度な懸念は不要です。

政府が感染症の専門家の話だけを聞いて、不況の深刻化を放置していると、リスクシナリオが実現してしまうかもしれませんが、さすがに政府も景気のことが気になって自粛要請のレベルを下げましたから。

本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。

<<筆者のこれまでの記事はこちらから(http://www.toushin-1.jp/search/author/%E5%A1%9A%E5%B4%8E%20%E5%85%AC%E7%BE%A9)>>

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