日本で「ブラック企業」を生み出しているのは経営者ではない!?その理由とは
LIMO / 2020年6月6日 10時0分

日本で「ブラック企業」を生み出しているのは経営者ではない!?その理由とは
ブラック企業は従業員をボロ雑巾のように使い捨て、働けなくなったら容赦なくポイ捨てする「悪魔のような経営者」が生み出すという印象を持っている人は少なくないと思います。従業員は常に被害者であり、とくにスキルも経験も乏しい、新卒入社の若者にとっては「ブラック企業など、絶対に入社したくない!」という強い気持ちを持っている人も多いのではないでしょうか。
しかし、筆者は必ずしも経営者だけの責任ではないと考えています。筆者は会社員をしていた時代に、「ブラック企業」に該当する会社で働いた経験がありますし、現在は経営者の立場でもあります。両方の立場を体験して見えてきたのは、「ブラック企業が存在する理由は、経営者や従業員の責任というより、正社員があまりにも手厚く守られている雇用制度」にこそ問題があると感じているのです。
ブラック企業での勤務体験
筆者は昔、非正規雇用でブラック企業で勤務した経験があります。
ブラック企業の定義は長時間労働、パワハラなどがあげられますが筆者の場合は以下のような会社でした。
長時間労働(週に2、3日は会社やホテルへ宿泊)
休日出勤(土曜日は90%以上出勤。日曜日もたまに…振替休日はなし)
給与遅配
パワハラ(社長が気に入らないとパワハラで退職へ追い込まれる)
ブラック企業で勤務することの問題点は、「働くデメリット>メリット」という通常は考えられない状況に陥ることです。給与はもらっていましたが、頻繁に遅配が発生し残業代も休日出勤手当もなく、夜のコンビニバイトをした方がマシなレベルでした。
そうなると、その会社で働く経済的なメリットを見出すことはできませんから、スキルアップや人間関係から学ぶなど、市場価値を高める資産性のある経験を得られることを期待するしかありませんが、あいにくそれもありませんでした。
勤務時は当たり前のように夜中2時、3時近くまで働いていたので、感覚が麻痺していましたが、ブラック企業で働くメリットは一切ないと体感レベルで理解できたものです。本音では一日も早く辞めたかったのですが、短期退職をすると「次の面接で悪印象を与えてしまうのでは?」と不安で、辞めるに辞められなかったのです。
日本は正社員が異常なほど守られている
ブラック企業のひどい環境に置かれていても、なぜ従業員はさっさと退職せず、時には自死を選んでしまうまで、会社に残ることを選択する人がいるのでしょうか?その理由は、日本特有の雇用制度にあります。
米国では不況になるとあっさりレイオフが敢行され、実際にコロナショックで4月は2,050万人、14.7%という驚くべき失業数を記録しました(※)。しかし、日本の場合は正社員が大変手厚く法律で守られており、一部ではクビ切りが断行されていますが、現時点では米国ほど急激な失業者数の高まりは見られません。日本では、会社がよもや倒産の憂き目に遭うほどの危険な状況にならない限りは、正社員を簡単にクビにすることはできないからです。
日本は正社員が異常といえるほど失業から手厚く守られており、結果として労働市場の流動性が極めて悪い状況になっています。これが「一度入社した会社を移動しない」という状況を作り出しているのです。
そのため会社を退職する人に対するイメージは「パフォーマンスが悪いか、忍耐力に欠けるのでは?」というネガティブなものではないでしょうか。そのために「入社後にすぐ辞めると、次の転職で不利になりかねない。石の上にも三年だ」という言葉が使われていると考えます。上述の通り、筆者がブラック企業を退職するのに迷っていたのもこのためです。
この労働市場の流動性の悪さこそが、日本社会にブラック企業を生み出している元凶と筆者は考えています。
本来、退職はネガティブなものばかりではない
米国の労働市場では「退職=ネガティブ」というイメージはあまりありません。むしろ、同じポジションに長く腰を据えている人ほど、「現状のコンフォートゾーンから抜け出さず、同じ仕事に甘んじる、変化への適応力に乏しい人物」とすら見る人もいるのです。
しかし、日本においては未だに「同じ会社で、一つの分野を極めながら出世を目指して努力する」という職人気質な姿勢を、ポジティブに見るビジネス文化が残っています。そして正社員であれば、よほどのことをしなければ会社からクビになることはありませんから、「自主退職=本人に問題がある」という偏見は未だに色濃く残っていると感じます。
労働市場の流動性の悪さが、ますます流動性を悪化させるという「負のスパイラル」を生み出しているのではないでしょうか。
労働市場の流動性が悪いからブラック化する
筆者は何社もの会社に勤務した経験があり、そこから言えることは「会社とのマッチングは運次第」ということです。
とある会社では上司とウマが合わず、仕事のパフォーマンスを出すために努力をしていましたが、なかなか認められませんでした。しかし、大きな社内変革があって上司や周囲の人が変わってから、その会社での評価は突然変わりました。自分の仕事ぶりをいきなり高く評価してくれる上司とあたり、社内異動を経て年収アップとキャリアアップを果たす経験をしたのです。
あのまま、ウマが合わない上司のもとで働いていたら、働けど働けど認められることはなかったと思います。そういう意味では、職種との適性もそうですし、会社の人間関係も含めて自分の仕事が有能と認められるか、無能と認められるかは、実力もさることながら「運」の要素もかなり大きいと思うのです。
運悪く、入社した会社の人間関係や振られた仕事の相性が悪ければ、「キャンセル(退職)」というのは合理的な選択です。それは従業員側も時間をムダにしないためにも、利益を出したい経営者にとっても同じです。同一の給与を支払うなら、自分の会社のビジネスに共感してくれ、高いパフォーマンスをあげてくれる人と一緒に仕事をしたいのは当然の話です。それを法律で「キャンセル不可」にされています。
従業員としては能力の適性が合わず、パフォーマンスが出せないまま我慢して働くことになります。経営者もパフォーマンスが低いからといって、簡単にクビにはできません。そうなると生産性があがらず、その結果として長時間労働化してしまい、待っているのが「ブラック企業」なのです。
もちろん世の中には、そもそも従業員を自社の利益を出すためのコマにしか考えないひどい経営者もいます。しかし、労働市場の流動性が高ければ、そのような会社で長く働きたいと考える社員もいないので、職場環境が是正されない限りその会社で働きたい人はいなくなって経営が立ち行かなくなります。
世界はグローバル化しており、会社で働く人のバックグラウンドや価値観も多様化しています。いつまでも旧態依然とした「正社員の解雇が異常なほど守られている」というあり方も、変化が問われているのではないでしょうか。
参考
(※)「アメリカの4月の失業率、世界恐慌以降で最悪の14.7%に 米労働省雇用統計」(https://www.bbc.com/japanese/52596676)BBC JAPAN
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