大戸屋買収に本気のコロワイド。株主の鼻先にニンジン? TOB価格3,081円の意味
LIMO / 2020年7月21日 8時0分
大戸屋買収に本気のコロワイド。株主の鼻先にニンジン? TOB価格3,081円の意味
大戸屋ホールディングス(2705)は6月25日の株主総会で、筆頭株主であるコロワイド(7616)から出された取締役候補をめぐる提案の否決に成功。しかし、新たにコロワイドからTOB(株式公開買い付け)を受けることになりました。
大戸屋のほとんどの株主にとって利益が見込める株価でのTOBであることを見ると、コロワイドは本気で大戸屋を取りに来ているようです。株主総会のような逆転劇の再現なるか、コロワイドの大戸屋に対するTOBの行方が注目されます。
コロワイドが大戸屋へのTOBを発表
大戸屋ホールディングス(以下、大戸屋)の筆頭株主(株式シェア19%)であるコロワイドは、6月の株主総会で自らが推薦する取締役12名の選任を求める株主提案を行いましたが、大戸屋の既存株主の反対により否決。個人投資家のファン株主が見せた意外な結束力に助けられた形の大戸屋は、経営再建に向けた動きが注目されていました。
しかしM&A巧者として知られるコロワイドは、転んでもただでは起きません。7月9日には大戸屋に対するTOB(株式公開買い付け)を発表し、大戸屋とコロワイドの対立は第2ステージに入っています。
TOB価格1株3,081円の持つ意味
コロワイドは7月9日に株価3,081円で大戸屋に対するTOBを発表しました。
2019年以降の大戸屋の株価は、2020年のコロナショックで一時1,600円台まで株価が下落しましたが、それを除けば概ね2,200円から2,400円の間を行ったり来たりしていました。
その株価推移に対して1株3,081円でのTOBであり、2019年以降の株主は+3~4割の利益が出るという設定です。さらに大戸屋の株価は2002年12月の495円を底に着実な上昇を続けており、2002年12月以降の株主も全員が利益を得られる水準です。
大戸屋の上場来高値は2002年1月の3,270円
大戸屋はITバブル期の2001年8月にIPO(株式上場)しました。IPO後の株価は順調に上昇し、2002年1月に上場来高値3,270円に到達します。しかしその後は株価が急落し、最終的に2002年12月495円の安値まで下落しました。
よってコロワイドのTOB価格である3,081円を超える株価で株式を所有するのは、天井の2002年1月に取得した投資家のみということになります。つまり、大戸屋の株主のほとんどは、コロワイドのTOBに応じることでキャピタルゲインが得られるわけです。
ITバブル期の株価水準を回復できないままの上場企業も多い中、その時期に付けた天井に近い株価でTOBを行うコロワイドは太っ腹と言えるでしょう。株主総会でコロワイドの株主提案に反対した株主も、今回は直接自らの懐に響く話であり、情の部分はさておき、利の部分では目の前にニンジンがぶら下がっている状態です。
そして、こうしたTOBの株価設定を行ったコロワイドは、本気で大戸屋を取りに来た=子会社化を行う決意、と見ることができます(TOBにより株式シェアを19%から51%まで高め子会社化する計画)。
業績が低迷する大戸屋に対して破格のTOB価格設定
次に大戸屋の業績を確認してみましょう。過去5期の業績推移は以下の通りです。
2016年3月期 売上高260億円、経常利益5.9億円、当期純利益3.0億円
2017年3月期 売上高256億円、経常利益7.1億円、当期純利益3.6億円
2018年3月期 売上高263億円、経常利益6.6億円、当期純利益2.0億円
2019年3月期 売上高257億円、経常利益4.6億円、当期純利益0.6億円
2020年3月期 売上高246億円、経常利益▲5.7億円、当期純利益▲11.5億円
大戸屋はコロナ禍のあった2020年3月期に、赤字決算となっています。ただし既に2019年3月期まで減益決算が続いており、業績的には行き詰まりの状態にありました。
コロワイドのTOBは、「減益が続きコロナ禍で赤字転落した外食企業の株式を、過去最高値に近い水準で購入しようとしている」という構図です。東京で新規感染者が再度急増するなど、コロナの影響が長引く可能性のある外食業界の銘柄としては、客観的に見れば破格の好条件でTOBが行われる形となっています。
なお、株価3,081円で計算すると大戸屋の時価総額は約223億円※となります。過去5期の当期純利益が最大3.6億円で、直近の決算が赤字である企業の時価総額200億円超えは、異例の評価と言えるのではないでしょうか。
※発行済株式数7,242,287株(2020年3月期決算短信による)× 株価3,081円
M&A巧者、コロワイドの”本気度”
『牛角』のレインズインターナショナル、『かっぱ寿司』のカッパクリエイトなど、数多くの外食企業のM&Aを手掛けてきたコロワイドは、M&A巧者として知られています。
M&Aを繰り返して大手外食企業グループを築き上げたコロワイドの目から見て、大戸屋の再生は充分可能であり自らの勢力拡大の絶好のチャンスとにらんだのではないでしょうか。定時株主総会で思わぬ敗北を喫したものの、大戸屋に対するTOB価格からは、コロワイドの本気度が感じられます。
実はコロワイドもこれまでのM&Aにより、2020年3月期末時点でのれんが718億円と自己資本389億円を大幅に超えており(コロワイドは国際会計基準を採用)、TOB成功の際は新たにのれんが増えるため、相応の覚悟を持っての動きと思われます。
大戸屋の株主にとって好条件で行われるコロワイドによるTOBですが、再び株主総会のように予想を翻す結果となるでしょうか。今後の行方が注目されます。
【参考資料】
「株式会社大戸屋ホールディングス株式(証券コード: 2705)に対する公開買付けの開始に関するお知らせ(https://ssl4.eir-parts.net/doc/7616/tdnet/1858850/00.pdf)」(株式会社コロワイド)
「2020年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)(https://ssl4.eir-parts.net/doc/7616/tdnet/1836066/00.pdf)」(株式会社コロワイド)
「2020年3月期決算短信〔日本基準〕(連結)(https://contents.xj-storage.jp/xcontents/AS00928/5017b591/de13/474a/96ba/3f8754f1cfca/140120200519418432.pdf)」(株式会社大戸屋ホールディングス)
「平成30年3月期決算短信〔日本基準〕(連結)(https://contents.xj-storage.jp/xcontents/AS00928/bd95e274/7999/4946/90c9/bedcd89dc2c6/140120180509431404.pdf)」(株式会社大戸屋ホールディングス)
「平成28年3月期決算短信〔日本基準〕(連結)(https://contents.xj-storage.jp/xcontents/AS00928/06aaed7a/13f0/41db/bc64/fec6d385f882/140120160510480311.pdf)」(株式会社大戸屋ホールディングス)
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