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今は雇用を守るべき〜中小企業向け給付金打ち切りが危険な理由

LIMO / 2020年11月9日 20時0分

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今は雇用を守るべき〜中小企業向け給付金打ち切りが危険な理由

「新陳代謝促進」のために中小企業給付金を止めるべきだとする論者がいるようですが、ゾンビ企業の淘汰は景気を悪化させ、新陳代謝を阻害しかねない、と筆者(塚崎公義)は考えています。

財務省は中小企業支援の一部を打ち切る方向

財務省の審議会では「支援によって不振な中小企業を延命させるのではなく、企業の新陳代謝を促進すべきだ」という意見が多く出たと言われています 。中小企業への支援の一部である給付金を、1月末の期限で打ち切りにしよう、というわけです。緊縮財政派である財務省は、そうした方針に沿って動くのでしょう。

しかし筆者は、給付金の打ち切りに反対で、不況が終わるまで給付金の支給を続けて、ゾンビ企業を含めて延命させるべきだ、と考えています。その理由について「不況期にはゾンビ企業も役に立つ」「ゾンビだけが死ぬわけではない」「景気悪化で新興企業が倒れる」という3つの点から論じてみましょう。

ちなみに本稿ではゾンビ企業という言葉を「非効率な経営で赤字を続けており、景気が回復しても補助金等がなければ生き残れない企業」という意味で用いることとします。

不況期にはゾンビ企業は邪魔にならない

新陳代謝論者は「ゾンビ企業が淘汰されることで、ゾンビ企業から新興企業へ労働力等が移動することが可能になる」と主張しますが、そんなことはありません。

現在のような不況期には失業者が大勢いるのですから、新興企業が労働者を雇おうと思ったら失業者を雇えば良いので、わざわざゾンビ企業を淘汰する必要などありません。不況期には、ゾンビ企業は「新陳代謝を妨げている邪魔な存在」などではないのです。

経済学者の中には失業のことを気にしない人が多いのですが、彼らは現実を見つめていないため、「理路整然と間違えている」のだと「現実を見つめる勘ピューター」である景気予想屋は考えているわけです(笑)。

ゾンビだけが死ぬわけではない

給付金を受け取っているのがゾンビ企業だけであれば、まだ良いのですが、実際には効率的な企業であっても需要が落ち込んでいるために給付金を受け取っているところは決して少なくありません。

通常の不況であれば、非効率なところから順番に淘汰されていくという面はあるのでしょうが、新型コロナ不況の場合には効率性と無関係に業種によって淘汰されてしまうわけです。

たとえば効率的な経営をしている旅館であっても、人々が新型コロナを恐れて旅行に行かなければ淘汰されてしまいます。そうなれば、旅館は取り壊され、備品は二束三文で叩き売られ、ノウハウや信用や顧客リストといった無形資産は雲散霧消してしまいます。

これは日本経済にとって極めてもったいない話です。新型コロナが収束してから旅館を再び立ち上げようとすれば、非常に大きなコストと労力が必要になるでしょう。そんなことにならないように、効率的な旅館の倒産は何としても防がなければならないのです。

効率的な旅館は支援し、ゾンビ旅館は淘汰する、といったことを考える論者もいるでしょうが、実際には見分けることは容易ではなく、手間と時間がかかるでしょう。その間に廃業してしまう旅館が出ては困りますから、緊急の措置として全部の旅館を支援すべきでしょう。

景気悪化で新興企業が倒れる

ゾンビ企業が淘汰されると、雇われていた労働者が失業するので消費をしなくなります。景気が悪化するわけです。そうなると、新陳代謝によって育つことが期待されている新興企業の需要も減少するので、肝心な新興企業が成長できなくなってしまうでしょう。そうなっては元も子もありません。

問題は、景気には、景気の悪化がさらなる悪化を招くメカニズムが内包されているということです。ゾンビ企業を淘汰すると、そのメカニズムが起動してしまうのです。

失業者が増えると労働者の所得が減って消費が減ります。企業の売り上げが減ると企業が設備投資をしなくなるので設備機械が売れなくなります。悪くすると銀行の貸し倒れが増えて銀行の決算が悪化し、自己資本比率規制等によって銀行が「貸し渋り」を始めるかもしれません。

ゾンビ企業を生かして雇用を守らせておくことで、そうしたリスクが少しでも防げるのだとしたら、ゾンビ企業は「労働力の移動を妨げている邪魔な存在」どころか、不況期に雇用を守り景気を守り、新興企業を守っている重要な存在なのです。ゾンビ企業も不況期には有難い存在なのです。

景気回復後は新陳代謝を促進すべき

筆者は、新陳代謝の重要性は理解していますし、景気回復後には、ぜひとも新陳代謝が起きてほしいと思っています。そしてそれは、自然に起きると期待されるわけです。

景気が回復して労働力不足になると、賃金が上がります。そうなると、非効率な経営を続けているゾンビ企業は高い賃金を払うことができないので労働者が効率的な企業に移っていきます。したがって、ゾンビ企業は労働者の流出によって存続できなくなる、というわけです。

重要なことは、景気回復後まで政府がゾンビ企業の延命策を続けないように気をつけてもらう、ということでしょう。そんなことをしたら、上記の好ましいメカニズムが働かなくなってしまいますから。

したがって、景気が回復しても延命策が続いているようなら、筆者は緊縮財政派等々と肩を組んで延命策廃止を大きな声で主張していくつもりです(笑)。

本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。

<<筆者のこれまでの記事はこちらから(http://www.toushin-1.jp/search/author/%E5%A1%9A%E5%B4%8E%20%E5%85%AC%E7%BE%A9)>>

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