資産が少なくても「争続」が起こる理由とは
LIMO / 2020年12月20日 15時0分
資産が少なくても「争続」が起こる理由とは
~相続トラブルの3割は「遺産総額1000万円以下」~
「うちは財産なんてないから、相続争いなんて無関係」と考えている方、実は家庭裁判所で遺産分割の調停を受けたケースのうち、33.8%が資産(自宅不動産を含む)1,000万円以下、76.8%が5,000万円以下ということをご存じでしたか?(令和元年年司法統計(https://www.courts.go.jp/app/files/toukei/307/011307.pdf))
自宅の売却代金を含めれば、遺産総額が5,000万円程度になることは珍しくありません。つまり相続争いは誰にでも起こる問題なのです。
ではなぜ資産が少なくても相続争いが起こってしまうのか?
それは遺産分割によって「あいつはズルいという不公平感」が生まれてしまうことに原因があります。
今回はそんな相続争いが起こる原因と仕組みを解説し、「争続」を防止する方法もお伝えしてまいります。
遺産の分割方法は3種類
遺産の分割方法については、民法上3つの方法が定められています。
現物分割(げんぶつぶんかつ)
遺産を「そのまま」現物で分ける
自宅の土地建物は妻に、別荘地のリゾートマンションは長女に、預貯金と株などの有価証券は長男に・・・といったように、遺産自体を「現物」で振り分ける方法です。
メリット・・・不動産の売却などの手間がないためスピーディーで簡単
デメリット・・・法定相続分にキッチリと分けることが難しい
換価分割(かんかぶんかつ)
遺産を売却し、そのお金を分ける
現物分割では法定相続分通りに分けることが難しいため、「遺産を売却=換価」した上で、その売却代金を分け合う方法も用意されています。
メリット・・・1円単位までキッチリと分割することができる
デメリット・・・自宅など、「売却したくない資産」がある場合は使えない。また売却には必要経費や譲渡取得税などがかかる
代償分割(だいしょうぶんかつ)
遺産を相続した相続人が、自分の資産で他の相続人に相当分を支払う
遺産である自宅(仮に1,200万円相当とする)を長男が単独で相続する代わりに、次男と三男にそれぞれ法定相続分以上の長男の財産(金銭など、この場合は400万円以上)を遺産の代わりとして支払う、といった方法です。
メリット・・・売却できない遺産でも平等に相続することができる
デメリット・・・遺産を単独相続した相続人(上記の場合長男)に資産がない場合、他の相続人に支払うことができない
争続が起こるのは「分け方がマズい」から。
「あいつだけたくさん相続してズルい!」という「不公平感」が相続争いの始まりです。
これにはもちろん、ある相続人が財産を独占して起こるケースもありますが、実際には「分割が上手くいかない」ことによって引き起こされているケースが最も多くなっています。
平等に分ければ、争いは起こりにくいが・・・
遺産を1円単位までキッチリと平等に分けることができれば不公平感は生まれず、相続争いは生まれにくくなります。
現物分割ではかなり難しいですが、換価分割や代償分割であれば、理論上は完全に平等にすることが可能になるはずです。
しかし、実際にはなかなか難しい、というのが現状なのです。
金融資産が少ないと、平等に分けることが難しい
自宅などの不動産の他に預貯金などの金融資産がある場合、お金で相続分を微調整することができるため、平等に分割することが比較的簡単になります。
しかし金融資産がない場合は、それが一気に難しくなってしまうのです。
最もモメやすい、資産が「自宅のみ」のケース
一番難しいのは主だった資産が「自宅のみ」というケースです。
まず現物分割ですが、相続人が2人、さらに建物と土地が同じ価格という非常にレアなケースでない限り、不公平なく分割することは不可能です。(そしてこの場合、建物と土地の名義人が別々になります。よって、のちに一方が売却を考えたときにトラブルが発生する可能性大でしょう)
次に換価分割ですが、自宅を売却してしまうと「被相続人の配偶者(例えば夫を亡くした妻)の住む場所」に困るという場合があるため、実際には難しいケースも多くなります。
相続人の中に多くの資産を持っている人がいれば代償分割が可能ですが、そうでなければそれも困難です。
3つあるどの分割方法も難しい、つまり1人の相続人だけが自宅を相続することになりやすく、他の相続人の間で不公平感が生じやすくなり、相続争いに発展しやすいのです。
これが資産が少なくても相続争いが発生する主な原因と仕組みです。
「争続」を防ぐ3つの方法
相続争いの原因が、「資産を分割できない事による不公平」にあることは分りました。
ではどうすればこの問題を防ぐことができるのでしょうか?
その1 遺言を残す
被相続人(相続される人)が亡くなる前に、希望する遺産分割方法を指定しておく、つまり「遺言」を残しておくという方法があります。
遺留分(法律上各相続人に最低限与えられる相続分)を無視した遺言内容にすることはできませんが、それ以外であれば基本的に被相続人の思うとおりに自分の資産を残すことが可能です。
内容によっては相続人から不満が出る可能性はありますが、被相続人が指定したことなので、遺産分割でもめるというケースは防止できます。
その2 生前贈与
被相続人が生きている間に財産を推定相続人(相続人になることが予定されている人、配偶者や子どもなど)などに分け与えること、つまり「生前贈与」を行うことも有効な方法です。
贈与の場合、相続に比べ税率が高いことがデメリットとなりますが、暦年贈与(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4408.htm)を始めとする贈与税を減らす様々な方法や、贈与税を相続時まで先送りできる相続時精算課税制度(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4103.htm)などを活用することによって、ある程度有利に贈与を行うことも可能です。
その3 リバースモーゲージの活用
主だった資産は自宅しかないが、各相続人に平等に生前贈与を行いたいといった場合には、リバースモーゲージの活用を検討することも一つの選択肢でしょう。
リバースモーゲージとは、「現在住んでいる自宅の土地や建物を担保にして、一括または年金形式で金融機関からお金を借りる」金融商品のこと。自宅に住み続けながらお金を借りることができ、毎月の返済は利息のみで、元本の返済は契約者の死亡時に自宅を売却するなどして一括で返済します。
このリバースモーゲージを活用して資金を一括で借り、それを平等に推定相続人などに生前贈与で分配するのです。
被相続人が亡くなった際、自宅に誰も住む予定がなければ売却して元本の返済に充てれば良いですし、配偶者などが住む予定であれば現金で返済してそのまま住み続けることもできます。
生前に換価分割を行うイメージで考えていただけるとわかりやすいかと思います。
さいごに
相続にまつわるトラブルは、仲の良かった親族の関係を悪化させます。さらに家庭裁判所による調停や裁判に発展すれば、費用や時間を浪費する「労多くして益少ない」行為です。特に相続する資産が少額であった場合、その解決のために多額の裁判費用がかかるとなっては本末転倒といえるでしょう。
今回ご紹介したように、相続争いを防止するには遺言や生前贈与といった「事前の準備」が重要です。「骨肉の争いなんて無関係」と安心せず、ぜひ一度「我が家の場合はどうなるんだろう?」と考えてみることをおすすめします。
【参考】
「遺産分割事件のうち認容・調停成立件数(「分割をしない」を除く)遺産の内容別遺産の価額別 全家庭裁判所(https://www.courts.go.jp/app/files/toukei/307/011307.pdf)」司法統計 家事 令和元年度 第52表 裁判所
「贈与税の計算と税率(暦年課税)(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4408.htm)」国税庁
「相続時精算課税の選択(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4103.htm)」国税庁
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