東京五輪を開催するなら「無観客」で。経済への悪影響は限定的
LIMO / 2021年1月17日 19時5分
東京五輪を開催するなら「無観客」で。経済への悪影響は限定的
東京五輪を開催すべきか否かは難しい判断ですが、開催するなら無観客にすべきである、と筆者(塚崎公義)は考えています。
東京五輪を開催すべきか否かは難しい判断
新型コロナが世界的に拡大している中、半年後の東京五輪をどうすべきか、決めるのは容易なことではないでしょう。
そもそも東京五輪を開催するメリットは何なのか、というのは突き詰めると難しい問題なのでしょうが、新型コロナが流行しても国内の各種スポーツ競技は行われていることを考えれば、東京五輪のメリットがそれを上回る意義があることは疑いないわけで、その点は本稿では「大きな意義がある」ということにしておきましょう。
世界中の人が五輪競技を見るためにステイホームしてテレビにかじりつく、という効果も大きそうです。
一方で、難しい面も多くあります。プロ野球やJリーグ等であれば、感染状況を見極めつつ「来週から試合をしない」などと決めれば良いのでしょうが、大規模な国際大会はそういうわけにいかないでしょうから、何カ月も前に開催の可否を決める必要があるはずです。
海外諸国によって新型コロナの流行度合いが全く異なっているので、「特に感染が流行している一部の国だけの参加を拒絶する」ということも要検討なのでしょうが、基準の決め方は難しいでしょう。
恣意的だという批判は必ず起こるでしょうし、悪くするとほとんどの強豪国の参加を拒絶しての大会ということにもなりかねません。冗談ですが、外国選手の参加を一切認めないという選択肢も、日本選手にはありがたいのかもしれませんね(笑)。
そのあたりについても、本稿では「流行状況を見極めながら、適切に判断するしかない」ということにしておきましょう。その上で、仮に開催する場合に無観客とすべきか否かについて考えてみましょう。
外国人の観戦ツアーを認めるのは難しい
五輪の観戦のために来日したいという外国人の入国を認めることは、新型コロナの現状を考えると難しいでしょう。「一般的な外国人観光客は受け入れないのに、なぜ五輪の観客だけは入国を認めるのか」を説明できないからです。
そうだとすると、外国人の観戦ツアーは認められない、ということにせざるを得ません。日本に住んでいる外国人や、たまたま五輪の時期にビジネス等の目的で訪日していた人々を例外的に観客として認めるとしても、基本は外国人の観戦はダメでしょう。
その場合、「日本人は観客として認めるが、外国人は原則として認めない」「無観客試合とする」という選択肢が残されることになります。しかし、国際的な祭典である東京五輪に於いて、原則として日本人だけを観客として受け入れるということが国際的に納得してもらえるとも思われません。
もう一つ考慮すべきなのは、決定のタイミングです。無観客にするか否かの決定は、大会の直前に行うわけには行かないので、決定する時点では「仮に今後感染が拡大した場合でも大丈夫なように」ということで保守的に決めざるを得ないはずです。
無観客による経済的な悪影響は限定的
東京五輪というと、大勢の外国人観光客が来るというイメージがありますが、実際にはチケットを入手できた外国人だけが、東京を中心に短期間滞在するだけでしょう。観光業への貢献という意味では、アベノミクスによって急激に増加したインバウンド需要とは比べものにならないほど小さいはずです。
日本人の観客のもたらす経済効果も、期待薄です。チケットが入手できた地方からの客は旅費やホテル代等を使うでしょうが、東京圏の観客はチケット代しか使わないでしょうから。
五輪の経済効果の主なものは、五輪用施設の建設費用であり、テレビ放映権料などでしょうから、五輪が無観客になったとしても、全体の経済効果を押し下げる度合いは大きくなさそうですね。
経済効果ではありませんが、アスリート達の活躍の場がしっかり確保されるという点に於いても、観客の有無の影響は小さいでしょう。まあ、応援があった方がアスリートの張り合いがある、といった程度のマイナス効果はあるかもしれませんが。
立派なスタジアムが無駄になるから観客を入れる?
新国立競技場をはじめ、東京五輪のために作られた施設は多数あり、巨額の費用がかかっています。そして、各施設には大勢の観客を受け入れるためのスペースが設けてあります。客席等の整備にも巨額の支出がなされている筈です。
では、「無観客の五輪では、客席等を整備した費用が無駄になってしまうから観客を受け入れるべき」という議論は成り立つのでしょうか。それは成り立たないと筆者は考えています。
まず、五輪のための施設は、五輪終了後も何度も有効に利用されると期待しましょう。仮にそうであれば、今回は無観客で五輪を行っても、新型コロナ収束後に設備が何回も有効活用されるはずですから、建設費が無駄になったとは言えないはずです。
次に、五輪後には有効活用が見込めないとしましょう。その場合には「一回限りの観客のために客席等を作ったのに、使われなければ建設費用がもったいない」という議論は可能でしょう。
しかし、筆者の議論は「それはサンクコストだから、開催可否の意思決定には影響を与えるべきではない」というものです。
サンクコストというのは、サンキューとは無関係で、「沈んでしまった費用」という単語であり、「既に払ってしまって戻ってこない費用」という意味です。
建設費用は既に払ってしまって戻って来ません。観客を入れても入れなくても戻って来ないことには違いないので、建設費用のことは忘れて、今後の日本や世界にとってベストな選択をしよう、というわけすね。
無観客の議論のみならず、五輪開催の可否を検討する際にも、「五輪開催中止では、施設の建設費が無駄になってしまうから、開催すべき」といった議論が成り立たないことは、同様です。
サンクコストに関しては、興味深いことが多いので、別の機会に詳述することとします。
ちなみに、後から振り返って五輪が成功だったか否かを論じる際には、「東京五輪の楽しさ等々が建設費用を上回ったか否か」という比較をすべきでしょうが、それは現段階の意思決定とは別の話です。
本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。
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