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受験生の必需品、使い捨てカイロが程よく温まる化学的理由

LIMO / 2021年1月24日 19時35分

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受験生の必需品、使い捨てカイロが程よく温まる化学的理由

新型コロナ第3波による緊急事態宣言下、しかも厳しい寒さの中、受験シーズンが到来しました。受験生の寒さ対策に必須なのは使い捨てカイロですが、どんな物質が使われているのか、なぜ温かくなるのかは意外と知られていません。

スーパー、ホームセンター、ドラッグストアなど、身近なところで販売されてる使い捨てカイロを含め、懐炉(カイロ)にまつわるの化学的メカニズムについて説明しましょう。

ハクキンカイロ

カイロとは化学発熱体や蓄熱材等を内蔵し、携帯して身体を暖めるものと定義されています。その歴史は古く江戸時代まで遡りますが、筆者が昔から親しんでいるのは「ハクキンカイロ」です。これは、使い捨てカイロが登場するまで広く愛用されていました。

その発熱保温の原理は化学と密接に関係しています。「ハクキン」は貴金属の白金、つまりプラチナです。白金は化学反応の触媒として広く利用されており、たとえば、ガソリン車の排気口から出る有害物質を浄化する触媒としても使われています。

ハクキンカイロは、注油したベンジン(炭素数5~10の炭化水素、原油を精製して得られ、ナフサや石油エーテルなどとも呼ばれる、衣類の汚れを落とす溶剤)を気化させ、白金触媒表面で穏やかにCO2と水に酸化させるときに発生する熱(触媒燃焼熱)を利用しています。

使う際に白金触媒を130度以上で加熱するだけで、ベンジンを加熱燃焼させているわけではありません。そのためクリーンな発熱で、一般的な燃焼に伴う窒素酸化物がほとんど発生せず、ベンジンを注油すれば何度でも使える利点があります。使い捨てカイロの13倍もの熱量を発生しますので、寒い中でのスポーツや仕事に適しています。

80年以上の歴史があるハクキンカイロが、今でも販売されているのは驚きです。しかし、ハクキンカイロは、炭化水素のベンジン(燃料)を使うこと、熱くなりすぎることによるやけどの危険性、容器が金属製であるといった使い勝手の悪さがあります。そのため、現在は安価で便利な使い捨てカイロが主流となっています。

使い捨てカイロ

使い捨てカイロ開発の歴史も色々とありますが、現在の使い捨てカイロが登場したのは1978年、ロッテ電子工業(現・ロッテ健康産業)の「ホカロン」以降です。今ではダンダン(エステー)、ホッカイロ(興和)、桐灰はる(桐灰化学)、オンパックス(マイコール)、その他ドラッグストア等のPB商品など数多くの商品が発売されています。

また、1988年にマイコールが貼るタイプの使い捨てカイロを業界に先駆けて発売し、成功を収めました。現在ではミニサイズ、靴下用、肩用、座布団サイズなど様々なバリエーションのものが広く使われています。

使い捨てカイロはなぜ温かくなるのか

使い捨てカイロが温かくなる理由を、多くの方は鉄が入っているからと答えます。その通りですが、そこから先、どのようなことが起きるのかについては意外と知られていません。

鉄を濡れたままに放置すると錆びついてしまうことは、みなさんご存知だと思います。鉄(鋼)の包丁やフライパンで経験された方も多いでしょう。

鉄の棒を水に浸して長いこと観察すると、水の中に浸かった部分より、空気との境界部分で最も錆びついていることがわかります。このように、鉄は水の助けにより空気中の酸素と反応して、最終的には酸化第二鉄(Fe2O3)とります。これが赤褐色の錆です(鉄の酸化物にはこの他にも色々な形があります)。

この鉄の酸化反応は基本的に発熱反応(鉄1原子当たり96Kcalの発熱)ですが、錆びるスピードが極めて遅いため熱として感じることはありません。しかし、この錆びるスピードを速くすると熱として感じることができます。使い捨てカイロはこの原理をうまく利用したものです。

市販の使い捨てカイロは、外袋は空気を通さないプラスチックで、内袋は空気を通す不織布(繊維を熱・機械的または化学的な作用によって接着または絡み合わせることで布にしたもの)で作られています。

そして、内袋の中には鉄、水(鉄の錆を促進する)、活性炭(微空間に酸素を取り込む)、食塩(鉄の酸化を速める)、高分子吸収剤(食塩水の保持)、バーミキュライト(観葉植物の保水土、微空間に水を保水しサラサラにする)が入っています。

このように市販の使い捨てカイロには色々なものが入っていますが、これは酸化反応が一気に起こると熱くなりすぎ、ゆっくりすぎると温かくならないため、温度と保温時間を制御するためです。

脱酸素剤

また、使い捨てカイロと同様の現象は別の商品でも利用されています。

食品の袋の中に、「食べられません」と書かれた小さな袋をよく見かけます。これは酸素吸収剤・脱酸素剤で、三菱ガス化学のAgeless(”年を取らない”の意)が知られています。食品は酸素により酸化反応を受けて、その品質が劣化しますので、酸素を取り除けば食品の日持ちがよくなるわけです。

この脱酸素剤には、使い捨てカイロで使われている鉄よりも活性な鉄粉が使われています。したがって、食品の袋を開け、しばらくして脱酸素剤の小さな袋を触ると熱いと感じることがあります。

食品は多かれ少なかれ水分を含んでいますので、この場合にも使い捨てカイロと同様の反応が起こり、鉄が酸化反応を受けることにより食品の袋中の酸素が取り除かれる仕組みになっています。

このように錆、使い捨てカイロ、脱酸素剤は一見関係ないように見えますが、化学的には全く同じ反応が起こっていることが分かります。

エコカイロ

近年、酢酸ナトリウムを含む酢酸水溶液に、コイン状の金属片を封入したビニールパックが「エコカイロ」の名前で売られています。内封の金属片で刺激すると結晶化し、約50℃前後の発熱を1時間ほど持続します。放熱後は熱湯に入れ吸熱させることで結晶を溶かし、繰り返し使用が可能です。

これは溶液が溶解度以上の濃度である過飽和状態にあっても、しかも凝固点が室内温度以上かつ過冷却時(凝固点以下の温度)にあっても凝固しにくい、極めて安定な酢酸ナトリウムの性質を活かしたものです。

過冷却時に何らかの刺激(振動など)を加えると結晶化が始まり、その時に発生する凝固熱を利用するという化学物質の性質をうまく活かしたカイロと言えます。

使い捨てカイロの利用上の注意、処分、再利用

使い捨てカイロの利用上の注意は外袋の裏に詳細に書かれていますが、最も注意すべきことは低温やけどです。これは滅多に起こらないかとは思いますが、就寝時、こたつの中、暖房器具の近くでは使わないことが肝心です。

使い終わり硬くなった内袋は、自治体により燃えるゴミ、燃えないゴミの区分が異なりますので、捨てるときには注意が必要です。

使い終わった使い捨てカイロの再利用法としては、消臭剤としての利用がまず考えられます。中に入っている活性炭に臭いを吸収する作用があるので、脱いだ靴に入れてもいいでしょう。効果は少ないのですが、吸水性樹脂が入っていますので除湿剤としての利用も考えられます。

また、使い捨てカイロに入っているバ-ミキュライトは元々観葉植物の土として使われていますので、使い終わった使い捨てカイロを水で洗い塩分を取り除き、残りを園芸用の土として利用することも可能です。

このように、たかがカイロとはいえ化学と密接に関係しています。少しばかり化学的な視点で身の回りの生活を眺めてみると、結構楽しくなるものではないでしょうか。

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