経営者や投資家が「損切り」できず、損を重ねる本当の理由
LIMO / 2021年2月7日 19時35分

経営者や投資家が「損切り」できず、損を重ねる本当の理由
死んだ子の歳を数えて暮らすようなことはせずに、ビジネスでも私生活でも払ってしまった金のことは忘れて、ベストな将来を目指すべきだ、と筆者(塚崎公義)は考えています。
以前の拙稿『東京五輪を開催するなら「無観客」で。経済への悪影響は限定的(https://limo.media/articles/-/21377)』で、東京五輪の開催可否、無観客の是非を論じた際に、「施設を作った費用が無駄になるから開催し、観客を入れよう」という議論が誤りであることを指摘しました。実は、それに似た話は他にも多いので、ご紹介しましょう。
買った本がつまらなくても最後まで読むべきか?
買った本の最初数ページを読んで、期待外れだと思ったとします。読者はその本を最後まで読みますか?「本を買った代金がもったいないから、最後まで読む」という人も少なくないと思います。
その結果、本を買った代金と読んだ時間の両方を損することになるわけですね(笑)。本が期待はずれだとわかった時点で本を捨てて(古本屋に売って)、散歩にでも出た方が良かったはずです。
ここで言いたいのは、本を買うときに払った代金は、本を読んでも読まなくても戻って来ない、ということです。それなら、買った代金のことを忘れて、今から自分が一番幸せになることをしましょう。期待はずれの本を読む、散歩に行く、昼寝をする、といった選択肢の中から選ぶのです。
このように、払ってしまって戻らない金のことを「サンクコスト」と呼びます。サンキューのサンクではなく、沈んでしまったという単語です。これは人々の意思決定を誤らせる大きな要因となっているので、十分気をつけたいものです。
ちなみに、本を買うという行為が結果として正解だったのか否かを後から判断する際には、本を読んで楽しんだメリットから本の購入代金を差し引いてプラスか否かを考える必要があるわけですが、それとこれとは話が別なので、混同しないように気をつけたいものです。
株を買って値下がりすると売れない投資家
本の場合には、「買った代金がもったいない」と考える人が多いのでしょうが、実は「このまま読まないと、この本を買った自分が馬鹿だったということになってしまう。そんなのは嫌だ」という考えも混じっているはずです。
それが明確にわかるのが、「投資初心者は損切りが下手だ」という事実です。買った値段より株価が下がると、「今売ったら損が確定してしまうから、売りたくない」と考えて売らずに持っている初心者が多いのです。
行動経済学では「人間は儲かった喜びよりも損した悲しみが2倍に感じるから損をしたくないのだ」と説明していますが、それだけではないはずです。「こんな株を買った自分が馬鹿だった」と思いたくないのです。
株券の入った福袋があったとして、中に入っていた株券が値下がりしたとしても、売りたくないという気持ちは強くないでしょう。自分が馬鹿だったから損をしたのではなく、運が悪くて損をしただけですから。
投資の初心者に言いたいです。1000円で買った株が800円に値下がりした場合も500円で買った株が800円に値上がりした場合も、売るか否かを決める際に考えることは「今から新しく株を買うとして、その銘柄を買うか?」ということだけなのです。
失敗したプロジェクトから撤退できない会社
会社の仕事でも、「損切り」できずに損失を拡大してしまうケースは多いでしょう。
新薬開発が7割まで進んだ時に、ライバルが画期的な新薬を発表したとします。「このまま開発が成功しても、ライバルの製品には勝てないので、売れないだろう」と思っても、「開発をやめたら、これまで費やしてきた開発費用が無駄になる」と考えて開発を続けてしまうことは、ありそうです。
そうした場合、「サンクコストのことは忘れて、今後開発を続けた場合と中止した場合を比べてみましょう。どうせ売れないなら、残り3割の開発費を余計に損することになりかねないので、開発はやめましょう」というのが正しいのでしょう。
美術館を建てたけれども客がほとんど来なかった場合、維持費を考えれば閉館する方がコストが安くすむのでしょうが、「こんな美術館を建てた自分が馬鹿だった」と考えたくないので、いつまでも閉館せずにコストをかけ続けている、といった場合もあるでしょう。
この場合も同様に、「このまま開館しつづけると、維持費がかさむので、サンクコストのことは忘れて閉館しましょう」と提案するのが正しいのでしょう。
もっとも、「もしかしたら新薬が売れるかもしれないし、入館者が増えるかもしれないのだから、続けよう」という反対意見が出てきそうですね。
プロジェクトを発案したのが社内の偉い人だった場合、「やめましょう」とは言い出せないので、続ける理由を考える人が大勢いるでしょうから。
まあ、そうした場合に正論を唱えるのが良いのか社内政治を考慮するのが良いのかについては、本稿は立ち入らないことにしておきます(笑)。
本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。
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