「人工光合成」で実現する究極の再生可能エネルギー。その仕組みとは
LIMO / 2021年4月4日 11時35分
「人工光合成」で実現する究極の再生可能エネルギー。その仕組みとは
脱炭素化社会における新しいエネルギーとして注目されている水素について、前回『次世代エネルギー「水素」利用の技術開発はここまで進んでいる』で取り上げました。そこでも述べたように、水素を得る方法には、よく知られた水の電気分解があります。しかし、電気の使用は脱炭素化に逆行することになります。
一方、太陽光を使って水を簡単に水素と酸素に分解し、これらを燃料電池として使い、電気発生後に生成する水をまた太陽光で分解するプロセスは、水素・酸素・水が循環する究極の再生可能エネルギーとなるはずです。これをどう達成するか、ヒントは自然界の光合成にあります。
自然界の光合成の仕組み
小・中学校で習う光合成は、太陽のエネルギーを使って、CO2と水から有機化合物の一種である糖質(デンプン、セルロースなど)と酸素を産生する反応として知られています。しかし、この反応は一つの反応ではなく、複雑な多くの反応が連続して進行する多段階反応です。
その反応は、太陽の光エネルギーを吸収して化学変化がおこる「明反応」と、その産生物を使ってCO2から糖質を合成する「暗反応」の2つの反応に大別されます。
明反応のステップでは、光エネルギーによって水が分解し、酸素と水素イオンと電子が生じます。この酸素が大気中に存在する酸素の源なわけですから、光合成がいかに貴重な反応であるかが分かります。
植物などの光合成生物は、地球に到達する太陽光の0.1%しか使っていないと言われています。この、あり余る太陽エネルギーを人間が使えるエネルギーに変えることが求められているのです。
水を水素と酸素に分解する「人工光合成」の仕組み
前述のように、光合成の明反応の過程で電子が生じていますので、植物を使ってこの電子を取り出すことができれば電気エネルギーとして使うことが可能ですが、そう簡単ではありません。
このプロセスを人工的に再現し、水から電子を取り出すことができれば、まさしく究極のクリーンな発電になります。これが「人工光合成」ですが、これも極めて困難です。
植物が光合成を行う過程で、水は酸素と水素に分解されます。そこで、人工の光触媒と無尽蔵の太陽光を使って、常温常圧で水を水素と酸素に分解する方法を開発するのが当面の「人工光合成」です。
現在、「人工光合成化学プロセス技術研究組合(ARPChem)」という国家的プロジェクトも動き出しています。
そのARPChemと新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は2020年5月29日、信州大学、山口大学、東京大学、産業技術総合研究所と共同で、紫外光領域ながら世界で初めて100%に近い効率で、水を水素と酸素に分解する粉末状の半導体光触媒を開発したと発表しました。
紫外光ではなく太陽光を光触媒が吸収し、水を直接、水素と酸素に分解する「人工光合成」技術の実用化が現実的になってきたといえます。
上記の研究機関は、水から製造する水素と発電所や工場などから排出するCO2を原料として炭素数が2~4のエチレン、プロピレン、ブテンを合成する方法をすでに研究開発中です。効率の良い「人工光合成」の実現を期待したいところです。
水素は水から生まれて水に戻る
水素によるエネルギー獲得手段は、現状ではコスト競争力はないかもしれませんが、今から投資しておくことは、中長期的に我が国にとって大きな財産になるはずです。
政府は、2017年に策定した水素基本戦略を前倒しして、2030年に水素利用量を30万トンから1000万トンに引き上げる調整に入ったとのこと。脱炭素化を目指すのであれば、この計画をさらに進めるべきでしょう。
太陽光と光触媒で水を水素と酸素に分解し、それらを使って電気エネルギーを取り出し、出てくる水をまた分解すればCO2は発生せず水をリサイクルするだけです。究極の再生可能エネルギーがそこまで見え始めています。
化石燃料で発展してきた人類の歴史が、新しいエネルギーの出現で塗り替えられるかもしれません。水から生まれて水に戻る水素によって、農業、産業、情報に次ぐ第4の革命の時代が近づいています。
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