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CO2排出削減の救世主的技術、二酸化炭素そのものを回収する方法

LIMO / 2021年4月11日 19時5分

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CO2排出削減の救世主的技術、二酸化炭素そのものを回収する方法

菅政権は「2050年 温室効果ガス排出 実質ゼロ(カーボンニュートラル)」を宣言しています。

筆者はこれまでの連載で、生活に密着しているガソリン車、これからの車である電気自動車(EV)と水素燃料電池車(水素FCV)の普及と課題について、また未来のエネルギーといわれる水素と人工光合成について、一般的に言われる「脱炭素」(注1)の視点から考察しました。

では、すでに大気中に排出されてしまった二酸化炭素(CO2)、あるいは、これからもまだ排出されるであろうCO2そのものを、どのように除去したらいいのでしょうか。その最先端技術を2回にわたり紹介します。

(注1)脱炭素という用語がCO2削減の意味で使われていますが、炭素を含んだ有機化合物は身の回りに数多くありますので、適切な表現でないことには注意が必要です。

自然界における二酸化炭素循環

二酸化炭素除去の最新技術が意味するところを理解するには、まず自然界におけるCO2循環と人為的CO2排出について知る必要があります。

人類が化石燃料を使う前、地球上においてCO2は基本的に水や酸素と同様に、増えもせず減りもせず、うまく循環していたはずです。地球化学的循環は数百万年オーダーの変動で、大気中のCO2は水に溶け、やがて炭酸カルシウム(CaCO3、石)となって固体になり、火山の爆発によりCO2が大気中に出て、また水に吸収されるという循環サイクルが完成します。

生物学的循環は数万年オーダーの変動で、植物は大気中のCO2と水から光合成によりデンプンやセルロースを生成。この時に酸素が発生し、動物は酸素を吸ってCO2を吐いています。このように、CO2や酸素はバランスよく循環しています。これが自然の摂理です。

人為的二酸化炭素排出、人類最初の化学反応は火を使った燃焼

人類は火山の爆発や山火事によって初めて火の存在を知ったのでしょうか。その後、火を使って木や草を燃焼させエネルギーを獲得してきました。これは人類最初の化学反応です。

木や草は炭素を骨格とした有機化合物からできていますので、燃やせばCO2が発生します。この燃焼という化学反応は現在でも行われており、重要なエネルギー獲得手段になっているのは周知の通りです。

そして人類は、新しい文明を造るのに必要なエネルギーを獲得するため、有機化合物からできている石炭・石油・天然ガスといった化石燃料を大量に燃やし、地球化学的循環や生物学的循環に比べて微々たる短期間、過去200年の間に、一方的にCO2を排出してきました。

この人為的に排出されたCO2をリサイクルする術を(注2)、人類は不幸にも未だに持ち合わせていません。そのため、CO2は大気中に溜まる一方です。

CO2は温室効果ガスの一つであり、地球温暖化や気象変動の原因となっていることは広く知られています。では、CO2はどのように削減すればいいのでしょうか。

(注2)CO2のリサイクル法の一つである人工光合成については、前回記事『「人工光合成」で実現する究極の再生可能エネルギー。その仕組みとは(https://limo.media/articles/-/22535)』をご参照ください。

二酸化炭素そのものを直接回収するには

今、注目を集めているのは、化石燃料をできるだけ使わない、あるいは再生エネルギーの活用などの間接的削減ではなく、CO2そのものを直接回収して削減する技術です。

この技術は、ダイレクトエアキャプチャー(DAC)と呼ばれますが、経済や社会活動に制約を与えることなく、CO2だけを削減することができる温室効果ガス削減の救世主的方法と言えるでしょう。以下、いくつかの研究・開発例を紹介します。

神戸学院大学・稲垣教授

アンモニア(NH3)など窒素原子を含む化合物であるアミン類がCO2を吸収することは周知の事実ですが、一緒に水を吸収してしまう欠点がありました。

しかし最近、メタキシリレンジアミンを用いると、この欠点を克服できることが見出されました。これは神戸学院大学の稲垣冬彦教授の研究によるものです。吸収されたCO2を取り出すためには一般的には高温が必要ですが、この場合にはCO2吸収後、比較的低温の120度でCO2を放出しますので、早期の実用化が望まれます。

公益財団法人 地球環境産業技術研究機構

地球環境産業技術研究機構(RITE)は、CO2を吸収する化学吸収液(2-イソプロピルアミノエタノール水溶液にピペラジン誘導体やエタノールアミン誘導体を含むもの)や、固体吸収材(多孔質のシリカゲルにアミンを担持させたもの)を開発しています。こうしたCO2を化学的に吸収する方法の開発は重要です。

日本CCS調査株式会社

現在、日本CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)調査が、苫小牧沖の海底1000m以上の深さにある隙間の多い砂岩などからできている貯留層に、製油所から排出されるCO2を大気放出前に回収(活性アミンプロセス)して貯留する実証プラントを稼働させています。かなり大掛かりな施設ですが、こちらも実用化が期待されます。

JFEエンジニアリング株式会社

2021年1月20日、JFEエンジニアリングは、清掃工場(三鷹市と調布市が整備したクリーンプラザふじみ)から排出される排ガスからCO2を回収して利用するCCU(Carbon Capture and Utilization、二酸化炭素回収利用)プロセスの実証実験を開始すると発表しました。

このプラントのCO2吸収方法も、天然ガスプラント建設等で実績のあるアミン吸収法です。CO2回収を清掃工場に適用すると、ごみに含まれるバイオマス分を合わせた「ネガティブカーボン(CO2回収量>排出量)」を達成することが可能になります。

日揮株式会社

日揮は、セラミック製のゼオライト膜を活用したCO2分離・回収技術の実証試験を米国テキサス州で開始しています。日本ガイシと共同開発したゼオライト膜は1ナノメートル(10億分の1メートル)以下の微細な穴を多く持つのが特長で、ちょうどCO2を通す大きさなので、原油生産時に出てくるメタンなど他のガスから分離することができます。

まとめ:人工的二酸化炭素循環に向けて

以上、大気中に排出された、あるいは排出される前のCO2を直接回収する技術について紹介しました。この手法は、自然界のCO2循環の人工版となりうるもので、今後の発展が期待されます。

次回の記事では、回収されたCO2の利用について、より革新的な技術を紹介します。

参考資料

J-STORE 空気由来の二酸化炭素の吸収剤及び発生剤(https://jstore.jst.go.jp/nationalPatentDetail.html?pat_id=35328)(稲垣冬彦、特願2016-147414)

地球環境産業技術研究機構(RITE)化学研究グループ CO2回収技術高度化事業(固体吸収材等研究開発事業)(https://www.rite.or.jp/chemical/project/2014/04/solid1.html)

苫小牧市 企業立地ガイド 苫小牧におけるCCS大規模実証試験(https://www.city.tomakomai.hokkaido.jp/kigyoritchi/ccs/ccsnogaiyo.html)

JFEエンジニアリング株式会社ニュースリリース 清掃工場の排ガスからCO2を回収する実証実験を開始 ~CO2回収提案の標準化(JFE CCU-Ready)(https://www.jfe-eng.co.jp/news/2021/20210120.html)。

日揮ホールディングス株式会社ニュースリリース DDR型ゼオライト膜によるCO2分離・回収プロセスの実証試験を開始(https://www.jgc.com/jp/news/2019/20190225.html)

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