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パナソニックの米SCM大手ブルーヨンダー買収の背景と戦略の読み解き方

LIMO / 2021年4月26日 7時35分

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パナソニックの米SCM大手ブルーヨンダー買収の背景と戦略の読み解き方

2021年4月23日にパナソニックより米サプライチェーン・ソフトウェア大手のブルーヨンダー(Blue Yonder)の子会社の発表があった。今回の子会社化には71億ドル(1ドル100円換算で7100億円)という巨額の買収。

パナソニックの23日終値時点の時価総額が3兆2000億円程度であることを考えると、大型の案件といえる。ここでは、パナソニックにより開示された資料をもとに、今回の子会社化の背景と狙いについて考えてみたい。

ブルーヨンダーは世界最大のサプライチェーン・ソフトウェア企業

ブルーヨンダー(以下、BY)は米国アリゾナ州のスコッツデールに本社を置くSCM(Supply Chain Management, サプライ・チェーン・マネジメント)ソフトウェア企業。2020年の売上高は1013百万ドル(同1013億円)、調整後EBITDAで246百万ドル(246億円)。

BYのリカーリングレベニュー(継続収入)の比率は67%、SaaSへの移行も順調に推移していると開示されている。

パナソニックは、2020年7月にBYの20%の株式を取得しており、今回のタイミングで全株取得の決定をしたことになる。

パナソニックの説明資料「Blue Yonderの全株式取得について」によれば、現在のSCMの市場規模は180億ドル(同1兆800億円)となっており、この市場規模が2024年には280億ドル(同2兆8000億円)にまで拡大する見通しだ。

この市場規模にもとづけば、BYの市場シェアは5~6%程度ということになる。BYは「世界最大のSCM専門企業」とうたっているものの、BYが圧倒的な市場規模を持っているのではないというのは懸念点として残る。

今回の買収も「買って終わりの買収」という性格のものではなく、SCM市場拡大とともにいかに自社サービスの市場シェアを伸ばすのかという「買った後もがんばらなければならない買収」ということで、パナソニックがBYにどう関与していくのかというのも注目点である。

パナソニックが狙うには市場規模が小さすぎないか

先ほど見たように、現在のSCMの市場規模は1兆8000億円程度。売上高が7兆円近いパナソニックの事業規模を考えると、今回のような大型の買収を通じて狙う市場としてはやや小さい市場をターゲットにしたなという印象も残る。

投資家の注目点は、「買収によって全体の利益にどれくらいのインパクトがあるのか」というのが最終的な興味であるからである。

ただ、今回の買収は、短期的な視点ではなく、パナソニックの事業ポートフォリオのバランスや今後の市場の拡大可能性に期待したという見方もできる。パナソニックは、SCMとIoTの組み合わせにより、パナソニックとBYが事業として狙うことができる市場(トータル・アクセシブル・マーケット, TAM)として2024年には420億ドル(同4兆2000億円)にまで達すると予想している。

この考え方に沿えば、SCMにIoTをいかに掛け算することができるのかというのが、パナソニックの工夫のしどころというものであろう。ハードウェア企業としてのパナソニックがSCM企業と何をどのように取り組んでいけるのかという戦略次第で今回の買収の成功の判断が分かれそうというものである。

パナソニックは何を狙っているのか

パナソニックは今回のBYの完全子会社化で何を狙っているのであろうか。

パナソニックは「現場プロセスイノベーションの進化」という視点で、「造る」、「運ぶ」、「売る」それぞれの現場をデータ収集に始まり、それらの蓄積と分析、活用することを狙って今回の買収へと至っている。

どれほどデジタル空間でのデータ蓄積や処理速度や分析の精度が向上しても、私たちが何らかのサービスとして改善されていると実感するには、リアル抜きには語ることができない。

これは、パナソニックに限らず、グーグルのような「デジタル空間の王様」のような企業においてでも、これまでのスマートフォンや自動運転車への取り組みのように、リアルやハードウェアをいかに事業モデルに取り入れるかに苦心しているかを見ていればわかるところだ。

また、2020年以降のコロナ禍において、世界中でEコマースが大きく伸長した。消費者の行動が変化せざるを得なかったのである。新型コロナウイルス感染症の拡大はワクチン接種の状況により今後は変化していくであろうが、今後も消費者行動の変化のトレンドは続いていく可能性は高い。

そうした中でサプライチェーンの変化は必至である。パナソニックも今後のサプライチェーンとして、これまで以上に顧客を中心として、「工場」、「倉庫」、「店舗」、「配送」といった要素が絡み合う世界を見据えている。

日本に世界を代表するようなSCM企業が存在しない中、パナソニックがその領域に挑戦するという点は非常に興味深い。

余談であるが、自動車などを活用したサービス、MaaS(Mobility as a Service)が最近では話題になることが多いが、輸送はあくまでも手段であり、顧客はどの段階で満足するのかという観点から言えば、モノ作り段階から商品やサービスのデリバリーといったところまでのサプライチェーン全体を対象にする方が大きい。

したがって、パナソニックの今回のBYの買収がそこまで領域として見据えているのであれば、かなり大きな世界観を持っていると言えよう。

パナソニックの狙いのリスクシナリオとは何か

では、パナソニックが今回発表した買収の狙いや世界観においてリスクは何であろうか。

それは答えを先に言えば、米アマゾンであろう。

既に多くの方がご存知のように、アマゾンは顧客を抱えているだけではなく、倉庫を運営し、配送領域にも足がかりを持っている。アマゾンはEコマース企業とみられがちであるが、見方によっては最強のSCM企業になる可能性は高い。

BYの顧客リストに、コカ・コーラ、ペプシコ、ローズ、ユニリーバ、P&G、DHL、ダイムラーなど様々な産業の企業がリストアップされている。

もっとも恐ろしいシナリオとすれば、たとえば、メーカーが「アマゾンの倉庫に一旦預けておけば、小売店なども含めて個人へも最適な配送をしてくれる」というような環境となってしまうと、アマゾンが最強のSCM企業となってしまう。

こうした観点からは、今回のパナソニックの買収は、今後の期待感はあるものの、かなり大きな市場で勝負に出たという印象が残る。

参考資料

パナソニック「Blue Yonderの全株式取得について」(https://www.panasonic.com/jp/corporate/ir/pdf/blue_yonder_j.pdf)

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