梅酒づくりは氷砂糖じゃないとおいしくならない、その理由
LIMO / 2021年5月23日 18時35分
梅酒づくりは氷砂糖じゃないとおいしくならない、その理由
梅の実が大きくなり、6月には出荷の最盛期を迎えます。昔は梅干しや梅酒を家で作ることが多かったですが、最近は、出来合いのものが簡単に手に入る便利な時代になりました。それでも比較的手軽に手作りできる梅酒は、毎年自家製を仕込む方も少なくないでしょう。
では、梅酒を作るとき、普通の砂糖ではなく氷砂糖が使われるのはなぜでしょうか? ここでは、その理屈をやさしく紐ときます。また、身の回りで同じような理屈が関係することがありますので、それらについても触れましょう。さらに、梅そのものについても解説します。
漬物に塩、梅酒には氷砂糖を使う理由
人が打ちひしがれて、うなだれている状態を「青菜に塩」といいます。青菜は葉や茎に充分水分が行きわたっている時にはピンとしていますが、塩を振りかけると水分を失って萎れてしまいます。
これは浸透圧の原理で、葉や茎から水分が外に吐き出されてしまうからです。お漬物を作る際に塩を使うのもこのためです。そして梅酒を作るときに氷砂糖を使うのも、この浸透圧が関係しています。
ついでに、身の回りで浸透圧に関係することを紹介しましょう。しめ鯖などを作る際の塩は魚肉から水を除くためで、そうでないと水っぽいしめ鯖になってしまいます。また、意外なところでは、紙おむつなどに利用されている吸水性ポリマーが水を吸うのも浸透圧が関係しています。
浸透圧の原理、小学校の実験を覚えていますか?
小学校の実験で、セロハンで仕切られた容器に真水(低濃度溶液)と塩水(高濃度溶液)を入れ、真水が塩水側に移動して行く様子を観察したことがあるでしょう。
この時、塩水側の水量が増えますが、この高さの差が浸透圧です。このように低濃度側から高濃度側に水が移動し、セロハンの両側の溶質(塩)の濃度を同じようにしようとする力を浸透圧といいます。
しかし、高濃度側に浸透圧を上回る圧力を加えると、水は濃度に逆らって低濃度側に移動します。この原理を利用して、高濃度側に海水や汚染水を入れて圧力をかけると、低濃度側にきれいな水を得ることができます。
これを逆浸透法といい、海水の淡水化や海水の濃縮の手段(塩の製造、昔のような天日干しではない方法)として利用されています。
梅酒をおいしくする氷砂糖の役割
梅酒の作り方は、熟す前の硬い青梅1kg、氷砂糖700g~1kg、ホワイトリカー(35度)や焼酎(米焼酎、麦焼酎、黒糖焼酎、25度以上)1.8リットルが基本です。使うアルコール類によって香りと味が異なります。
梅酒は3か月以上寝かせ、梅を取り出せば出来上がり、後は何年でも保存がききます。取り出した梅は甘露煮や梅ジャムにすると、おいしく再利用できます。
ここで、普通の砂糖と氷砂糖の違いを考えてみましょう。普通の砂糖だと溶けるのが早く、梅の周りの糖密度が急に上がるので、浸透圧により梅の水分が吐き出され梅が萎んで硬くなりうまみも出ません。
しかし、氷砂糖を使った場合、初めは梅の周りはほとんどホワイトリカーあるいは焼酎などの酒類ですから、梅内部の方が溶けている物質の濃度が高く、浸透圧によって(アルコールを含んだ)水分がまず梅の方に入ります。
その後、氷砂糖が溶けるにしたがって梅の周りの濃度が高くなり、今度は水分が梅のうまみと共に出てきます。すなわち水分が梅の中と外を往復することになり、おいしい梅酒になるわけです。昔から、梅酒づくりには氷砂糖が使われてきましたが、先人の知恵には驚くばかりです。
「青梅を食べるな」の理由
少々脱線しますが、熟していない青梅そのものについても解説しましょう。
青梅は昔から食べるなと言われています。頭痛、めまい、発汗、けいれん、呼吸困難などの中毒が起こるとされていますが、理由は極めて化学的で、青梅の中に存在する青酸配糖体(シアンCNを含む化合物)のアミグダリンという化学物質のせいです。
この物質自体には毒性はありませんが、酵素により分解されて青酸(シアン化水素、HCN)を出し、中毒を起こします。青酸は極めて毒性の強い気体物質で、かつてサリン事件で知られるオウム真理教により、新宿駅の地下トイレで青酸ガスを発生させるテロ未遂事件が起こりました。
アミグダリンは青梅のほか、スモモ、ビワ、アンズなどにも含まれます。とはいえ、アミグダリンは梅が熟すと分解されて濃度が減り、同時に青酸も消失します。また仮に青梅を食べたとしても、致死量に至るには青梅100個~300個を食べなければならないので心配はありません。
まとめ:身の回りの生活と化学の近しい関係
梅酒の作り方と氷砂糖を題材に、そこに浸透圧が関係していることを紹介しました。
身の回りの生活と化学は、意外にも密接に関係しています。日常生活ではほとんど気に留めることはないでしょうが、身近で応用されている化学についてちょっと意識し、お子さんと一緒に考えたり観察すると、毎日の暮らしに楽しみが増すかもしれません。
私たちは科学や科学技術がこれだけ進歩した時代に生きていますが、「温故知新」というように、先人の知恵に思いを馳せることにも意味があるでしょう。
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