なぜ「築浅アパートの階段崩落事故死」は起きた? 大家さんの責任も重大
LIMO / 2021年5月28日 18時35分
なぜ「築浅アパートの階段崩落事故死」は起きた? 大家さんの責任も重大
2021年4月、八王子にあるわずか築8年のアパートの階段が崩落して、住民の女性が転落死する事故がありました。
建設会社は業務上過失致死の疑いで警視庁の捜査を受けましたが、なんと自己破産を申請して逃げおおせようとしています。とはいえ、この事故は本当に建設会社だけの責任なのでしょうか? 実はこの問題、大家さんも責任を取る必要があるかもしれないのです。
そこで今回は、なぜ階段の崩落事故は起きたのか? 責任は誰にあるのか? そして、今後このような事故を防ぐために、大家さんはどうしたらいいのか? 一級建築施工管理技士の資格を持つ私、ウラケンが徹底解説します。
階段崩落事故はなぜ起きたのか
まず、今回の階段崩落事故がなぜ起きたのか解説していきましょう。
捜査関係者によると、崩落した鉄骨製の階段は木製の踊り場とL字型の金具2個でつながれていて、階段側は溶接、踊り場側は3本のビスで固定されていたといいます。
踊り場の内部は床板で、表面をモルタルで覆われていました。これが風雨を受けて腐食したため、つなぎ目の金具と一緒に鉄骨の階段が落下したそうです。
このアパートを設計した設計士によると、この階段はすべて鉄骨製で設計されていたのに、施工の段階で踊り場の床が木製に変更されていたといいます。
私は過去何棟も鉄骨階段の現場を見てきましたが、一般的に外部階段は踊り場も含めてすべて鉄骨で作ります。すべて鉄骨製であれば、わずか築8年で崩壊するなどという事故は起こりえなかったと思いますが、なぜ踊り場だけを木製にしたのでしょうか?
私が思うに、これは単にコストダウンのためだと思います。もしオーナーがこの設計変更を知らない、もしくは認めていなかったのなら、明らかに施工業者の契約違反ということになるでしょう。
事故の責任は誰にあるのか
では、この事故の責任は一体誰にあるのでしょうか?
まず築8年の事故ということで、考えられるのは建設会社の責任です。役所の完成検査は受けていたということですから、違法ということではなさそうですが、何らかの施工不良があったのではないかということで、警察が捜査をしています。
ただ、仮に施工不良がなかったとしても、法律で瑕疵担保保証が10年間義務付けられていますし、本来鉄を使う場所に木材を使用していたわけですから、建設会社の責任は免れられないでしょう。
しかし、この会社自体がもう破産申請をしてしまったので、修繕工事はできませんし、今後社長個人を訴えるのかどうかが争点になると思います。
もう一つは家主の責任があるかどうかについてです。
今回は築8年と新しい物件ですので、一見家主の責任はなさそうですが、全く責任がないかというとそうではありません。実は家主も責任を問われるケースがあるのです。
民法には「土地工作物責任」というのがあって、建物に問題があった場合には、所有者がその損害を賠償する義務があります。
今回は瑕疵があることを大家さんは知らなかったでしょうから、責任の度合いは少ないかもしれませんが、全く責任がないというわけではありません。これを「無過失責任」と言います。
ちなみに、大家さんが建物の不具合を知っていて補修しない場合には、かなり責任は重くなります。
たとえば、2020年10月に苫小牧のアパートの2階の廊下の床が抜けて、住民が3メートル下に転落して大けがをしたという事件がありましたが、このケースでは事前に管理会社が家主に修繕提案をしていたにも関わらず、家主は無視し続けたのです。
また、2020年5月に釧路のビルで、非常階段の手すりが腐食していて、5階から女性が転落して死亡する事故がありました。これらは明らかに家主の責任が問われる事案だと思います。
損害賠償請求は大家さんに来る
では、今回のような事故が起こった場合の損害賠償請求はどうなるのでしょうか?
一般的な流れとしては、まずは被害者または遺族が家主に損害賠償請求をしてくると思います。家主は保険に加入していればその保険から被害者に損害賠償をしますが、保険に加入していなければ自己負担になります。
次に施工の問題で事故が起きたのであれば、今度は家主から建設会社に損害賠償請求をします。
建設会社も基本的には「生産物賠償責任保険(通称、PL保険)」 に入っていますから、そこから賠償をしますが、これも加入していなければ自己負担になります。
しかし、今回のように会社が自己破産をしてしまうと厄介ですし、最悪、経営者も自己破産してしまえば、被害者は泣き寝入りになってしまうかもしれません。
このように、大家さんに過失がなかったとしても、大なり小なり家主の責任は問われることになるのです。だからこそ不具合は絶対に放置してはいけないですし、万一のことが起きれば、損害賠償では済まないことになってしまうこともあります。
アパートの不具合を放置すると責任重大
最近は、鉄骨階段の崩落事故が本当に多くなってきているので、鉄部のサビ落としや再塗装は必ずチェックしておくようにしましょう。
また、コンクリートの庇が崩落して通行人に当たってけがをする事故もありますし、壁のタイルがまとめてはがれるケースもあります。鉄部の再塗装は5年から10年に一度はしておきたいですし、外壁や庇の点検も10年から15年に一度は必ずやっておくようにしましょう。
さらに、火災報知器などの消防設備は消防法で法定点検が義務付けられていますが、費用をかけたくないからと無視をする大家さんもいます。
実は以前ある大家さんの物件で、古い火災報知機が誤作動を起こして消防車が来て大騒ぎになったことがあるのですが、その後その大家さんは点検をするどころか、なんと元の電源を切ってしまったのです。
万が一本当の火災で報知機が鳴らずに住民が逃げ遅れて死亡してしまったら、この大家さんはどう責任を取るのでしょうか?
一般のアパートでも消火器を設置しているケースがありますが、これも消防点検の対象になりますので、使用期限が過ぎていないかどうか、しっかりチェックすることが必要です。
施設賠償責任保険には必ず加入せよ
さて、今回の八王子のケースのように、オーナーに過失がなくても被害者からの損害賠償請求を受ける可能性は十分あります。こういったリスクを避けるためにも、「施設賠償責任保険」には必ず加入しておくようにしましょう。
施工会社をチェックする方法
今回亡くなった方には本当に不幸な事故でしたが、オーナーとしてこのような事故を避けるためには、施工業者選びも非常に重要です。
不動産投資では建築費が安いことは重要ですが、そのコストと引き換えに手抜き工事があっては絶対にいけません。コスト云々を言う前に、まずはそこで生活する人の安全を第一に考えるべきだと思います。
では一体どうやって業者をチェックすればいいのでしょうか?
まずはその会社の評判をネットで検索してみましょう。悪い噂がある場合には要注意です。次にその会社が以前施工した物件を見たり、現在工事中の物件をチェックしたりしてみましょう。
私の経験上、現場が整理整頓されていなかったり、現場監督の不在が多かったりすると、手抜き工事や施工不良の確率はアップします。
次に帝国データバンクなどで財務の内容をチェックしましょう。
しかし、小さい会社の場合はデータがない場合があります。そこでとっておきの調査方法をお教えしましょう。その方法は「経営審査事項」を取り寄せることです。
この資料は公共工事の入札をする際に必ず必要な書類で、建設会社の売上高や利益、資産や負債の額、技術者の数など、経営情報が全て掲載されています。
取り寄せ方は簡単で、一般財団法人建設業情報管理センターのサイト(http://www.ciic.or.jp/)で検索すれば、全国の業者の経営審査事項を調べることができます。公共工事をしていれば必ず公表されていますので、取り寄せてチェックするといいでしょう。
以前、私が企画した物件の業者選びの際に、他社よりも明らかに安すぎる見積もりをしてきた建設会社があったので、不審に思って経営審査事項を調べたことがあります。
すると、多額の負債があることが判明し、営業マンにその理由を聞いたところ、なんと多額の手形の不渡りを掴まされていたということだったのです。当然、この業者には発注しませんでしたが、もし安いからといって発注していたら、手付金を払った瞬間に倒産していたかもしれません。
おわりに
さて、いかがでしたでしょうか? アパート経営は投資ですから、建築費は安いに越したことはありませんが、その裏にはリスクと責任が伴うということがおわかりいただけたのではないでしょうか。
とはいえ、不動産投資のリスクはあらかじめ予測できるものばかりなので、しっかり勉強して誠実に経営をしていけば、ほとんどのリスクは回避できます。
自主管理する場合はもちろん、管理会社に管理を委託する場合でも、少なくとも「不動産実務検定(https://www.j-rec.or.jp/)2級」程度の知識を大家さん自身が持っておくことが重要です。
また、大家さん仲間を作って情報交換することもおすすめです。今は全国で大家さん同士の勉強会が開催されていますので、「お住まいの地名+大家塾」などで検索してみると良いでしょう(ただし、業者が主催する売り込みのセミナーには間違っても参加しないでくださいね)。
不動産投資は学べば学ぶほどリスクは小さくなりますし、あなたの未来に応えてくれる稀有な投資法です。ぜひこれからも一緒に勉強していきましょう。
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