非正規も正規もみんな貧乏!?「正社員なら安泰」は夢のまた夢
LIMO / 2021年9月6日 7時45分
非正規も正規もみんな貧乏!?「正社員なら安泰」は夢のまた夢
早いもので、今年ももう9月です。会社員の方なら、上期末に向かってピッチを上げまくってる方もいるかもしれませんね。そして今秋は総選挙があります。感染拡大のコロナ禍をはじめとして争点が、もう、なんだかよく分からないほどテンコ盛りの状態と言えるかもしれません。
今回は、原点回帰で私たちが最も関心のあることを取り上げます。それは所得の問題です。
正規と非正規の大きな格差
厚生労働省「令和2年賃金構造基本統計調査」からデータを見ていきましょう。
まず、全年齢平均月収は30万7700円(年齢43.2歳、勤続年数11.9年)。これを正規社員と非正規社員に分けると、正社員の平均月収は32万4200円(年齢42.2歳、勤続年数12.5年)。非正規社員の平均月収は21万4800円(年齢48.8歳、勤続年数8.7年)と、その差は実に10万円以上あります。
この差が諸外国と比較して、あまりに大きいことが日本版・同一労働同一賃金制度が始動することになった背景です。あえて“日本版"としたのは、諸外国と若干異なって、その主旨が同一企業内の正規・非正規間の格差解消にあるからです。
上記の数値に性別と年代を掛け合わせてみると、さらに恐ろしいことになります。正社員・男性の賃金の最も高いゾーンは55〜59歳で43万5300円。同じ年齢ゾーンの男性の非正規社員は25万2100円と、その差は18万3200円となります。
また、20~24歳の正社員(男女計)の賃金は21万5400円。これに対して非正規社員は18万3400円ですから、年齢とともに格差が広がっていくわけです。
ハダ感覚では理解しているものの、あらためて数字を見ると、やはり呆然となりますね。
正社員なら安心という時代は終わった
ただ“正社員になっていれば安心"というのも、過去の常識になりつつあります。同調査で正社員の月収の分布を見ていくと半数以上が30万円未満。50万円以上はわずか1割程度しかいません。
つまり、一部の高給取りの正社員が平均月収を押し上げているだけで、正社員なら安心という時代は終わりつつあるのかもしれません。そして蛇足ではありますが、現在、一部の大企業で進行している早期退職プログラムは、この“一部の高給取り"を狙い撃ちしているとも言えます。
この問題は徐々に顕在化しており、最近NHKのWEB特集でも「念願の正社員、でも『安かった』」というタイトルで取り上げています。その内容を少し紹介します。
居酒屋のアルバイトがコロナ禍の影響で大幅に減った25歳のマリさん(仮名)は、今年1月から正社員として洋菓子メーカーで働き始めました。入社時の条件は「1日の実働8時間。週休2日で月給24万円~。ただし、固定残業代、50時間分を含む」。
働きだすと、かなり多忙で1日10時間以上の勤務は当たり前。急な休日出勤も多く、この月の労働時間は208時間にのぼりました。
そして、振り込まれた給与が24万6324円。
ご存じの通り、固定残業代なので50時間以内の残業は残業代が上乗せされることはないということです。
結局、日本だけ所得が上がっていない
ここで、マリさんは自分の給与を時給換算してみます。すると、時給は1184円。ちなみに居酒屋バイト時代の時給が1270円。
さらにマリさんは、“実際の時給"も計算してみます。正社員になると、タイムカードを押したあともクレームなどに対応せざるをえないこともあるからです。
“実際の時給"の計算結果は985円。ちなみに東京都の最低賃金は時給1013円です。
話が脱線しますが、個人的には正社員でも自分の給与を時給換算で計算するのは、とても大事な気がします。そこで見えてくるものは、結構いろいろあるからです。
NHKのWEB特集の話に戻ります。マリさんの話から続いて最低賃金と同じ水準、もしくはそれに近い金額で働く正社員はどれくらいいるかを分析しています。
2020年の最低賃金の1.1倍以下で働く人は3.8%(2007年は1.5%)
2020年の最低賃金の1.3倍以下で働く人は11.7%(2007年は4.1%)
かなりの割合を示していますし、注目すべきは2007年との比較において倍増していることです。
さて、問題はどこにあるのでしょうか。細かい点としては固定残業代50時間は若干、ブラックの雰囲気もありますし、そもそも最低賃金と比較するなら手取りから時給計算するのではなく、額面から計算するのが正しい気もします。ただ、これは粗探しでした。
個人的には、固定残業代があってもよいとは思っていて、要は根本的に日本の所得が上がっていないことが問題だと考えています。そんな先進国はほとんどないですからね。
再分配するのにも高い障壁が
日本の実質賃金の国際比較をしてみると、1997年=100とした場合の「実質賃金指数」で見た場合、次のようになります(2016年/OECDのデータを基に全労連作成)。
フランス……126.4
ドイツ……116.3
アメリカ……115.3
そして、日本はというと89.7です。1997年から2016年までの19年間で、先進国の多くが1割以上上昇しているにもかかわらず、日本は1割以上も下落しています。要は“みんなが貧乏になっている"ということです。
このような状況下で重要になるのが再分配政策です。所得アップ・成長実現のために労働市場の組み替えをするとしても、再分配政策が必要になります。
ただ、日本ではこの再分配政策にも高い障壁が待ち受けています。公正な再分配実現のためには精度の高い所得捕捉が前提となります。もっといえば、所得だけでなく資産も含めての捕捉が必要です。
これが致命的なほど日本は遅れています。要はマイナンバーの問題とも関連するのですが、コロナ禍の問題で露呈した通り、日本国民のデータベース化がまったく進んでいない。
結局、質の高い公共サービスや福祉を実現するためには、国民の精度の高いデータベースが必要なのは自明なわけですが、日本の場合は“個人情報"や“人権"の問題で暗礁に乗り上げています。こんな国も少ないでしょう。世界ではとっくに、合意形成が進んでいる気がするのですが。
問題がテンコ盛りの日本。とはいえ、総選挙までは少し時間があるので、いろいろと考えてみたいと思っています。
参考資料
令和2年賃金構造基本統計調査 結果の概要(http://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2020/index.html)(2021年5月14日訂正、厚生労働省)
WEB特集「念願の正社員、でも『安かった』」(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210824/k10013219431000.html)(2021年8月24日、NHK)
実質賃金指数の推移の国際比較(https://www.zenroren.gr.jp/jp/housei/data/2018/180221_02.pdf)(全国労働組合総連合)
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